夫婦円満の秘訣はキッチンにあり 心理学でわかる料理と愛情の関係

ライフスタイル
「食べること」は生きる上で、大切な行為の1つです。この「食」をめぐる環境をパートナーと共有することが、2人の関係を円滑にする秘訣だと心理学者たちは語ります。その理由と具体的な方法など、パートナーと幸せに過ごせるとっておきの手段をお伝えします
2019.2.7

料理をともに楽しむこと、その重要性とは

ソムリエやフードブロガーの中には、夫婦やカップルでその活動を展開するケースが増えています。映画や小説でも、料理や食事が作品のポイントとなることが多いのは衆目の一致するところです。
実生活においても、ともに料理をしてともに食べるという「儀式」はカップルにとって重要なことだと語るのは心理療法士のマヌエラ・トレマンテです。
それはなぜでしょうか。

根底にある親と子の関係

人間は、成長段階において栄養を補給してくれる存在なしには生き残ることができません。
アメリカの高名な心理学者アブラハム・マズローは、人間の成長の根底をなすのは「水」「酸素」「適切な体温」そして「食べ物」だと定義しています。
母乳を与える母親も、哺乳瓶でミルクを与える父親も、それを与えられる子供たちの表情からコミュニケーションをしているのです。親から子供へという一方的な感情の移入ではなく、子供から親へも感情的なレベルでの栄養補給がなされているのだと専門家は語ります。
トレマンテ女史は、成人のカップルの関係もこれと大差はないと主張しているのです。唯一の相違は、大人ならば栄養補給のために他者に依存する必要がないということでしょう。
しかし、離乳した後も子供と母親の関係は食べ物を中心に築かれていきます。古代ローマ時代の賢母は、「子は母の胎内で育つだけでなく、母親の取り仕切る食卓の会話でも育つ」と語っています。

生活スタイルの変化とともに食事の在り方も変わった現在

かつては、食事の時間とは家族で時間を共有する生活の中の基本でした。
なぜなら、食事の時間にこそ、一日にあったことを語り合い互いを見つめあう機会であるからなのです。
生活スタイルの変化によって、カップルと言えども食事を共にすることが激減しているといわれています。それはつまり、カップル間の会話やコミュニケーションの量の低下とも直結しています。

相手を思う気持ちを、料理中にこそ表現できる

恋愛が始まったばかりのころ、相手を驚かせたい、喜ばせたい、慰めたいという思いから、料理をしたという思い出は誰にでもあるのではないでしょうか。
そんな感情が呼応しあい、愛情のキャッチボールがはじまるのです。
トレマンテ女史によれば、たかだか料理といえどもそれは立派な創造活動であり、「これ、好きかどうか味見して」とか「このいい香り、嗅いでみて」などなどの会話は、お互いの感覚を研ぎ澄ましていく効果があるのだそうです。
料理が完成すれば、それは歓びの共有ともなります。家庭で作る料理やお菓子の香りには、なぜか幼少期の甘い思い出も絡み合うもの。これは、人間に純粋の喜びを喚起させるのだそうです。

食の嗜好もカップル間では重要な要素

とはいえ、多忙な2人がともに料理をし食事をする時間を作ることは難しいのも事実です。
トレマンテ女史は、こんな時に生じるカップル間のネゴシエーションも、関係を深めたり修復したりするのには役立つのだそうです。つまり、相手が緻密なスケジュールに追われているときは自分が料理を担当する、などなど。
女史が、「決して簡単ではない」と断言するカップル間の食の問題に、それぞれの「嗜好」があげられます。一方がベジタリアンであれば、当然料理をするにもそれを考慮しなくてはいけません。こうした配慮は、関係を深める可能性がある一方、二人の関係に葛藤をもたらすことにもなりかねないのです。
こうした「闘争」を経てこそ、他人の気持ちやニーズを尊重する関係を築くことができるのかもしれません。

食事中はスマホとは縁を切るべし

お互いを見つめて会話をする大事な食事の時間はしかし、昨今のスマホの隆盛に浸食されつつあります。欧州のレストランでは、スマホを持ち込まなかったカップルや家族にかぎり割引をするところまで出てきました。
トレマンテ女史も、「二人でいるはずの時間に、スマホによって他人が入り込んでいる」ことは、時間の共有という概念に当てはまらないと危惧しています。
スマホはあえて食卓に置かず、能動的にパートナーとの接触を食事の時間に展開することが、幸福な関係の維持につながるのだと女史は結んでいます。

どんな貧しい食事も会話によって豊かなものに

 冷蔵庫の中をあさって作った質素な食事でも、それを共有する人との濃密な時間になれば星付きレストランの食事に勝る豊かなものになるのでしょう。
「食べる」という行為を、飽食の現代だからこそ、もう一度見直す必要があるのかもしれませんね。