ビットコインの分裂騒ぎはブロックチェーンの根本的問題を表面化させた

金融リテラシーで変わる社会
ビットコインの分裂騒ぎはただ1通貨についての問題だけではなくブロックチェーンの根本的問題を表面化させたものである。【連載】金融リテラシーで変わる社会(第9回)
2017.8.7
2017年8月1日(日本時間22時30分)、暗号通貨の盟主であるBitcoinが2つに分裂した。今までのBitcoinと、Bitcoin Cashの2つだ。そして、今回の分裂は、Bitcoinの話であるが、同時にブロックチェーンという仕組み自体の根本的な問題を露呈した。
Bitcoinをはじめとする暗号通貨は、ブロックチェーンで運営されている。中央主権ではなく、分散で処理がなされており、またマイニングといわれる承認の処理が行われたものだけが、チェーン上につながっていくのがブロックチェーンだ。
そして、このブロックチェーンは仕組み上、どうしても1秒当たり7回しか送金ができないことになっている。この問題を抱えた中で、最近の暗号通貨の価格暴騰に伴い様々なマスコミで報道がされたことで認知度が上昇。取引量が爆発的に増加したため、最近では取引を行うために余分な手数料を支払う必要性や、いつまでたっても取引が完了されない問題が発生していた。
この問題の解決については、2つの方法が考えられている。

① 情報を保存するブロックの大きさを約8倍に大きくする。
② ブロックに保存する情報を整理し、署名データを保存するのをやめる。

現在の分裂騒ぎは、この2つのどちらの手法で解決するかの意見対立が原因である。
そして、この意見対立の背景にあるのが、ASICBoostと呼ばれる技術だ。これは端的に言えば、Bitcoinのマイニング作業について、システム的な抜け道を利用して、20%~30%高速化させる技術である。この技術を利用しているか否かで大きく、マイニングの成功率が変化するため、不公平だとの声があがっており規制すべきだとの意見が強い。一説ではこの技術を利用しているマイナーと言われるマイニング業者は、年間1億ドル相当の不当な利益得ているともいわれている。
そのため、この解決方法については、 
① ASICBoostの利用について対応はしない。
② ASICBoostについて利用できないようにする。
というオプションが存在している。
そして、ASICBoostの利用に対して対応しない方法(もしくは対応することを明示していない)を支持しているのが、ビットコインのマイニングについて大きなシェアを持っている中国のマイニング業者であり、また中国政府となっている。彼らは中国の業者のマイニングに関する優位性を確保することと、中国政府による暗号通貨市場への野心により、同意が得られないにしても新しいBitcoinとしてBitcoin Cashの作成を強行すると表明していた。
そして8月1日になり、①の主張を反映したブロックの大きさを8倍にする新しい暗号通貨として、Bitcoin Cashが誕生した。それまでのブロックチェーンについてはBitcoinの情報を引き継いで、1日以降はBitcoinとは別の新しい暗号通貨として取引が始まった。これがBitcoinの分裂騒ぎだ。
8月2日現在、BitcoinおよびBitcoin Cashは当初想定された形とは異なる動きを示している。当初、Bitcoinは暴落すると思われていたが、多少の変動はあるものの日常のボラティリティの枠内に収まっている。またBitcoin Cashは取引がなされないのではないかと言われていたが、即座に時価総額ベースではリップルを抜き、Bitcoin、イーサリアムに次ぐ第3位の時価総額約77億ドル、日本円にて約8500億円もの時価総額を持つまでに至った。1コインあたりの価格においてはまだ5万円程度と5分の1程度になっているが、これからの需給によっては価格が高騰していく可能性も大いにあるので、今後は双方ともに注視していく必要がある。
いずれにしても、今回の分裂問題については様々な課題が表面化した。特に近年様々な企業でブロックチェーンの導入が進んでいる中で、「ブロック(情報)を蓄積し繋げていく」という考え方について、運用が長期間にわたっていく中で情報量の蓄積が膨大なものとなったとき、果たして運用に支障がないかどうか。社内システムのようにブロックチェーンでありながらもあくまで中央管理型で運営していればシステムの変更もたやすいが、外部に提供しているような分散型での運営の場合は今回のように意思決定の困難さが存在することがわかった。
今回の分裂騒ぎによって即座にブロックチェーンの仕組み自体が否定されるものではないが、現在のブロックチェーンブームともいえる状況については一石を投じたものであることは間違いない。

岸 泰裕

金融工学MBA、大学非常勤講師

大学卒業後、Citiグループの日本における持株会社に勤務。在籍中に金融工学MBAを取得する。その後スタンダードチャータード銀行の東京支店に転職。現在は金融機関を退職し、明治大学、名古屋商科大学、龍谷大学や企業研修・セミナーなどで金融論等について各種講義を行っている。

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