まず、マーブルクレイフィッシュがもつマイナスの面がわかりやすいでしょう。すなわち、「進化は長い年月をかけて起こる」という私達の常識を跳び越え、たった5年で生物が進化し得るという現実を突きつけてきました。気候変動などの環境の変化が続く中で、生物種だって急に変わることがあるのです。
2つめのマイナス面は、マーブルクレイフィッシュの繁殖力と生命力は、生態系に甚大な被害を与え得るというということです。マーブルクレイフィッシュの抱卵数は700個以上と言われており、1匹で飼い始めても産卵させれば1年後には数百匹にまで増えてしまいます。かなり劣悪な環境でも生存可能で雑食で何でも食べるとなれば、当然脅かされるのは在来種。事実、ヨーロッパでは危険視され、ドイツやアメリカのマダガスカルでは侵略的外来種に指定されました。日本でも、生態系に被害を及ぼす可能性があるとして「未判定外来生物」に指定されています。興味本位で飼育下のマーブルクレイフィッシュを産卵させたものの、数が増えて飼育できなくなった飼い主が河川に捨てるという事態も発生しているのです。専門家達は、そうしたかなり差し迫った危険を私たちに知らせています。
企業内保育所、子連れ出勤OK…あなたの会社は子育てに参加していますか?
日本人のライフスタイルや価値観は変化しているのに、企業慣習はなかなか変わらない――その具体的な問題のひとつが、出産・育児期の社員に対する企業の支援。育児中でも働くことを可能にする企業内保育施設について調べてみました。
一方、マーブルクレイフィッシュは人類にとってプラスの面ももっています。それは、まさに過酷な環境下でも繁殖・生存できる仕組みであり、マーブルクレイフィッシュの進化そのものの仕組みです。
マーブルクレイフィッシュは様々な環境で生きられますが、どの環境の個体でも遺伝子構造は同じ。環境に合わせて発現する遺伝子が異なっていると言われています。環境に合わせて発現する遺伝子を変える仕組みが解明されれば、将来的に食料の生産や人類の生存に必要な知識や技術を得られるかもしれません。
また、マーブルクレイフィッシュの進化の過程は、「腫瘍形成の最初期段階で起こることと似ている」という指摘がフランク・リコからなされています。マーブルクレイフィッシュもがん細胞もクローンで増え、様々な環境に適応できるという共通の特徴があるのです。この特殊な遺伝子構造についての基礎研究が、ひいてはがんの仕組みを理解することにつながるかもしれません。
基礎研究は目の前の問題から始まる人類の未来への投資
どこか彼岸のことのように感じられる学問・研究の世界。しかし、その始まりは私達の身の回りにある疑問や問題でした。それを引き継いで開始されたマーブルクレイフィッシュに関する研究は、今のところ生態系への悪影響を警告する声や「こんな生物がいた!」という驚きに留まっているかもしれません。しかし、こうした基礎研究はがん研究への貢献が期待されているように、やがて市井に帰ってくるための土台作りとも捉えることができます。
すぐ利益になるものに重きを置きがちな現代社会ですが、こうした基礎研究は利益につながる応用研究の礎。人類の未来への、大きな投資と言えるでしょう。