2017.10.20
老人は深く息を吸うと、一気に話し始めた。
「実際はごくごく当たり前のことなんだ。借りる人がいれば、貸す人がいる。支払う人間がいれば、もらう人間がいる。お金が動くときは必ず裏と表、ふたつの面がある。
支払う↔もらう
借りる↔貸す
施す↔恵まれる
お金に縁遠い人間は、このふたつの意味をすぐに忘れてしまうんだ。しかし、このふたつの意味を正確にとらえれば、借金で心悩ますことはないだろう。でも、正確にとらえられないと、火傷を負ってしまうこともある。
「君はなぜ借金が嫌いなんだい?」
「結局のところ、自分のお金ではないことが一番嫌ですね。金利を支払う必要があるということは、いつかは返さなくてはいけない 。ずっと、紐付きのお金を使っているという感覚です」
「ほほう、紐付きのお金かね、面白いことを言うね。それでは、その紐の所有者は誰だね?」
「それはお金を貸してくれた人間、もし銀行からお金を借りていたら、銀行が真の所有者といったところでしょうか?」
「そうかね。それでは銀行が持っているお金は、すべて銀行のモノかね? 言い換えるなら、銀行のお金は誰のモノなんだ?」
「…………誰でしょう? ん…預金者ですか?」
「結局のところ、自分のお金ではないことが一番嫌ですね。金利を支払う必要があるということは、いつかは返さなくてはいけない 。ずっと、紐付きのお金を使っているという感覚です」
「ほほう、紐付きのお金かね、面白いことを言うね。それでは、その紐の所有者は誰だね?」
「それはお金を貸してくれた人間、もし銀行からお金を借りていたら、銀行が真の所有者といったところでしょうか?」
「そうかね。それでは銀行が持っているお金は、すべて銀行のモノかね? 言い換えるなら、銀行のお金は誰のモノなんだ?」
「…………誰でしょう? ん…預金者ですか?」
僕はその仕組みの不思議さに気づき始めていた。
「君は借金をすることを嫌がるのなら、きっと人に貸すことも嫌だろう。しかし、そんな君でもお金が余ったら、銀行にお金を預けるはずだ。銀行は預けられたら、金利をつけて君にお金を返さなくてはいけない。預金とは、銀行にとっての借金なんだ。銀行は預けられたお金を事業者に貸し付けをして、金利をもらい、その一部を預金者の君に支払う」
「君は借金をすることを嫌がるのなら、きっと人に貸すことも嫌だろう。しかし、そんな君でもお金が余ったら、銀行にお金を預けるはずだ。銀行は預けられたら、金利をつけて君にお金を返さなくてはいけない。預金とは、銀行にとっての借金なんだ。銀行は預けられたお金を事業者に貸し付けをして、金利をもらい、その一部を預金者の君に支払う」
僕は以前銀行に勤めながら、その仕組みについて真剣に考えたことはなかった。
「少し混乱しますね。僕は金利を払いながら、受け取る立場になる可能性もある」
僕は自分の頭の中に大きな円を描いて、自分の言ってることを反芻した。
「まあ、その通りだな。頭が混乱する理由は、君がお金を所有できるものだと考えているからだ。
「少し混乱しますね。僕は金利を払いながら、受け取る立場になる可能性もある」
僕は自分の頭の中に大きな円を描いて、自分の言ってることを反芻した。
「まあ、その通りだな。頭が混乱する理由は、君がお金を所有できるものだと考えているからだ。
お金に、所有者は存在しない。
世界中に回ってるお金は、今という瞬間だけ、その人物の手元にあるということだ。本来、所有できないものを所有しようとするから、無理が生じるんだ。お金の使い方を学ばなければいけない理由はそこにある。お金持ちは、お金を所有できないことをわかっているから、その使い方は一定のルールに則っている。