2018.11.1
日銀は次の景気後退時に打つ手がない
これに対して、日銀では未だに出口戦略についてまったく議論がなされていません。2019年中に利上げの議論が出たとしても、実際に着手するのはほぼ不可能といっても過言ではないでしょう。その結果として、為替市場がFRBの利上げの終了を意識し始めた時点で、円高への圧力が強まっていく展開が予想されます。
過去25年のFRBの利上げの行程を振り返ってみると、利上げの終了から利下げの開始までの期間は1年程度、もっとも長いケースでも1年6カ月でありました。仮に2020年の3月に利上げが終了するとすれば、景気後退は2021年3月に始まってもおかしくはないという計算になります。
為替市場の前倒しで動く習性から判断すれば、2020年を前にして(残り1回の利上げを残した時点で)、市場はFRBが利下げへ転換する時期を意識して動き始めるでしょう。そうなれば、日銀が出口に進みたいタイミングが訪れたとしても、円高によって出口に進めない事態に陥っていくのではないでしょうか。
過去の日銀の利上げの開始時期は、いずれもFRBの利上げ終了後になっています。せっかく日銀が利上げを開始しても、FRBが利下げに転じた後は円高が進み、結局のところ、日銀はすぐに利上げを終了せざるをえない状況に追い込まれていたのです。
残念なことですが、日銀はこういった経験を今回も生かすことができなかったといえるでしょう。それどころか今回の場合は、世界的な不況が2020年中にでも始まれば、日銀は1回の利上げすらできなくなってしまうかもしれません。
みなさんのご記憶にも新しいでしょうが、今年の2月には米国の長期金利が3.0%に達しただけで米国株の暴落、ひいては世界的な株価暴落が引き起こされました。今回も長期金利が3.2%台になっただけで同じような状況が引き起こされています。FRBとしては次の景気後退を意識して利上げのペースを速めてきたのでしょうが、米国株が今回の暴落をきっかけに調整に入るようなことがあれば、景気への下押し圧力が従来よりも強まり、利上げの終了の時期が早まることもありえるでしょう。
そのようなことまで考えれば、2019年前半には円相場は110円を突破し、2020年までには100円が射程圏に入ってくることも十分に考えられます。安倍政権が出口戦略を容認し始めたとはいうものの、日銀の出口は非常に難しいものとなっていくのではないでしょうか。もちろんこれは過去の事例の検証であり、今後の展開が必ず当てはまるとは限りませんが、それでも確度がかなり高いシナリオになりつつあるように思われます。
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米国の長期金利が示す「景気減速の兆候」と「株式市場の調整」

米国の長期金利が9月下旬から上昇基調となり、10月に入るとこれまで壁として跳ね返されてきた3%のラインを突破してきました。その後は3%の壁を明確に突き抜けて3.2%台まで上昇し、2011年5月以来の水準にまで戻ってきています。今の長期金利は「これまでの上限が下限になる」というチャートの理論を体現する形となってきているようです。