2018.4.15
アインシュテルング効果(構え効果)とは
心理学で言われる私達の思考や振る舞いの傾向は数多くありますが、よく知られたものの1つに「確証バイアス」がありますね。
たとえば、日本でとても普及しているTwitter。世間のニュースや噂話に関して、自分と同じ意見ばかり探してしまい、反対意見は無視したり初めから「間違っている」と決めてかかってしまったことはないでしょうか。確証バイアスは1950年代、イギリスの心理学者ウェイソンの実験により明らかとなりました。人は自分が客観的な方法で考えよう、検証しようとしているときでさえ、自分の考えを裏付けるものを探し、矛盾するものを無視する傾向があるのです。
この「確認バイアス」の基盤となっているのが「アインシュテルング効果(構え効果)」です。アインシュテルング効果とは、人には馴染みのある解法に引きずられて別の解法を無視する傾向があるというもの。これを示した有名なものに、アメリカの心理学者・ルーチンスによる1942年の実験があります。
ルーチンスの実験では、被験者は容量の異なる3種類の水差しを使って、指定された量の水を量り取らなければなりません。3段階の手順で解ける問題をいくつか示されたあと、2段階の手順でも3段階の手順でも解ける問題が出されます。すると、多くの被験者がこの問題を3段階の手順で解きました。一方、2段階の手順で解けるけれど3段階の手順では解けない問題を出すと、被験者はこの問題は解けないと言ったのです。
こうしたアインシュテルング効果は、様々な認知バイアスの基盤になっているとされています。たとえば、チェスや将棋などで、自分は相手よりも定石をよく知っているはずなのに負けてしまったということはありませんか。アインシュテルング効果の実験のうちチェスを使ったものに、初心者から熟達者まで様々な人を被験者としたものがあります。この実験では、ある盤面を提示して、より少ない手数で勝てる方法を探してもらいました。これは、ある定石を踏めば勝てる盤面となっているのですが、実は、それよりももっと手数の少ない方法で勝つこともできるものでした。ところが、その定石に気づいた被験者の多くが、定石以外の方法を思いつくことができなかったのです。
さらに興味深いのは、彼らの視線を赤外線カメラで追跡した結果。被験者自身は定石以外の手も考えたと主張しているのですが、カメラで追跡した彼らの視線は、定石に関係するマス目やコマばかりに向いていることが明らかになりました。チェスや将棋であなたが格下の相手に負けてしまうことがあったとしたら、もしかしたらアインシュテルング効果のせいかもしれないのです。
アインシュテルング効果を乗り越えるには
アインシュテルング効果から生じる様々なバイアスは、時として有用な新しいアイデアを無視したり、関係のない人を責めることになったりする危険性をはらんでいます。では、どうしたらアインシュテルング効果を乗り越えられるのでしょう。
残念ながら、人がアインシュテルング効果から完全に逃れることはできません。私達は、過去の経験をもとに今後起こりそうなことを予測し、対処します。特定の方法に慣れ親しむことで作業効率が上がることも多いですし、思考の節約もできます。これは、アインシュテルング効果の良い面。仮にもし人がアインシュテルング効果から完全に免れていたら、その人は決断にとてつもない時間を要することになってしまうでしょう。
問題は、有害な思い込みを生じさせるアインシュテルング効果の悪しき面。これを乗り越えるには、まずは「アインシュテルング効果から完全逃れるのは不可能だ」という意識を持つことが肝要です。