ところで、両チームの試合開始直後はというと、相手がどのような戦略でくるのか、また、相手のコンディションの良し悪しなどわからないことが多いためまさに手探りの状態でスタートします。そのため、いろいろな戦略を試していきます。例えば、キックを多用したり、バックスに早めに展開したり、FW戦に持ち込んだりとか。その中で、相手に通用する戦略を見極めながらチョイスしていくわけです。このように、「戦略を一つに絞らずに、適当にチョイスをしながら確率的に戦略を選択する」ことを「混合戦略」といいます。「じゃんけん」でグーチョキパーを適当に出すのも混合戦略です。これに対して、いつも同じ戦術をとることを「純粋戦略」といいます。ずっとパーを出すとか。
さて、南アフリカは前半戦、混合戦略を取りながら、日本に対して通用する戦略を探していました。そこで前半41分に確信できたのが「モールとラインアウト」だったのです。混合戦略において、なにも考えずにランダムに戦略を繰り出すだけでは運まかせのようになりますが、勝率を上げる方法があります。それが「最適確率」といわれるものです。これは、物事を数字化して確率で分析すること。多分、南アフリカの選手の頭の中では、マイボール(自分のボールでの)のラインアウトは100%成功できる。そして、モール(ボールが地面につかずに密集戦になっている状態)を組めれば90%の確率でゲイン(前にすすめる)できる。しかし、バックスに展開してトライを狙ったり、フォワードで前に進める戦略は50%程度、つまり互角。つまり、モールとラインアウトが勝利への最適な確率だと確信できたのではないでしょうか。
ここで話は戻ります。南アフリカは、前回大会で日本に負け、今回は確実に勝ちに来ました。負けは許されません。そのため慎重にゲームに入り「混合戦略」で慎重に進めながら自分たちの勝率の高い戦略を探っていました。そして前半の41分にラインアウトとモールという「最適確率」を見出したのでは無いでしょうか。後半の南アフリカは、立ち上がりから徹底的にモールとラインアウトでゲームを支配しその結果、後半は0対21と点差が大きく開いてしまいました。
では、日本が混合戦略をとっていなかったのかというと、そんなことはありません。それどころか、日本は明らかにいつもより多くの戦略を投入して混合戦略を取っていました。しかし、今大会で自信を深めてきたオフロードパスやキックパスも、そして早い展開のパスも思うように通用しません。そうしているうちに、南アフリカに先に「最適確率」を見つけされ押し込まれてしまったということだと思います。私は今回日本代表が得たものは、このような大舞台で相手よりも早く「最適確率」を見つけ出す、ゲーム巧者になることがベスト4への道だということではないかと思います。2015年のイングランド大会ではフィジカルの強さと規律を極め、2019年の日本大会では選手の自主性と「最適確率」を学び、そして2023年のフランス大会では輝かしいベスト4入りとティア1入りを果たしてくれること心から楽しみにしています。
欧州経済の「日本化」が進んでいる?今後最も避けたい3つの恐怖
9月12日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が発表した総合的な金融緩和策では、欧州の低成長と低インフレの長期化を阻止するのに不十分であると市場の評価は冷ややかです。いかなる金融政策を講じても経済回復に至らない「低成長」「低インフレ」「デフレスパイラル」という日本化が本当に欧州圏で進んでいるのでしょうか。
渋谷 豊
ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
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