2017年12月21日 更新

〈新井博子〉ソーシャルな活動に取り組み始めて、 お金の大切さに気づいた。

一度瞳が合うと、視線を外せなくなる。新井博子さんの瞳はとても印象的だ。 新鮮な空気と好奇心をたっぷり含んで、きらきらしているから。 その瞳が世界をどう捉えているのかを、私も見たくなるから。新井さんは、フリーのCMディレクターとして活躍しながら、特定非営利活動法人 PVプロボノ (http://pvprobono.com/)を立ち上げ、代表を務めている。 PVプロボノは、社会課題解決のための活動家と、プロの映像制作者を繋ぐ社会貢献活動を行っている団体だ。非営利活動法人だからといって、収益性を度外視した運営を行っては発展も継続もない。「世の中のためになること」を実現するために彼女が学んできた「お金との付き合い方」のリアルを教えてもらった。

2015.5.17

■始めてしばらくは、まるでサークル活動のようだった

STAGE編集部:CMディレクターとして広告という商業映像に関わっていた新井さんが、映像での社会貢献事業に携わった経緯を教えてください。

きっかけは3.11の震災です。 一人の映像のプロとして自分の経験やスキルを活かして貢献したい、プロボノを行いたい、と思ったのに、その橋渡しをしてくれるところが全くないことに衝撃を受けました。こんなにやりたい のに!と。それならば、自分でやろう、となったわけです。

そもそもお金のための事業ではなく、「自分で作りたいから、作る」というスタンスで始めたことです。当然のように、「お金がかからない」と思っていました。 しかし、お金は、かかる。どんどん出ていくのです。

STAGE編集部:どんどん出ていくお金を、どのように工面していたのですか?

自分のお金を充当していました。実はそれまでの趣味が、ゴルフでした。 プロボノ活動で必要になるお金が、ちょうどゴルフにかかる金額と同じくらいだったのです。 そこで、趣味のゴルフを止めて、その分のお金を活動に充てていました。今思うと、まるで「サークル活動」のようでしたね。

STAGE編集部:それまでは、お金についてどのように管理していたのですか?

お金については、あまり考えたことがありませんでした。 収入があって、支出があって、その差し引きが蓄えとなる、というくらいです。

CMディレクターという仕事はフィー(報酬)ビジネスなので、ビジネスをするためのお金はかか りません。余った分を貯蓄したり、住宅に充てたりして、それで十分でした。

■大きな夢を抱きながら、弾いたソロバンの答えは「破綻」

STAGE編集部:そんな新井さんが、お金と向き合うようになったのはなぜですか?

2013年に「PVプロボノ」を立ち上げました。 とても素晴らしい仲間に恵まれ、仲間と議論を重ねて進めています。

活動2年目の夏、PVプロボノの特定非営利活動法人(NPO法人)化に向け会議を行っていまし た。 NPO法人「えがおつなげて」の代表理事、曽根原さんも幹事メンバーとして参加されていて、多 くの貴重なアドバイスの中で、法人化するなら数字を示さねばならない、と言われたのです。 しかも、「数字を出すのは、新井さん、あなたがやるの!」と。

すぐ隣に仲間がいるけど、曽根原さんに名指しされては仲間にお手伝いをお願いできない。 数字を出すのは、自分でやらないといけない。

STAGE編集部:ごもっともなご指摘ですが、突然言われても、途方に暮れてしまいますね。

よろよろと会議室をでたところに、偶然、強力なサポーターがいました。 PVプロボノのオフィスを構えている、社会起業家が多く集うコワーキングプレイス「HUB TOKYO」の創業者であり代表の槌屋さんです。 「キャッシュフロー」という概念も知らなかった私に、彼女は丁寧に「キャッシュフローとは何 か」から教えてくれました。

STAGE編集部:始めに、正しい金融知識を分かりやすく習得する機会と出会えるのは、貴重なことです。

それから、HUB TOKYOのアントレプレナープログラム「 Team 360 」に参加しました。 プログラムの最初は、2ヵ月かけて事業の「WHY」をとことん追求します。 社会を変えたいという熱い想いを抱いた起業家たちが集い、互いに刺激を与え、刺激を受け、ス ケールの大きな夢を描いたところで、いきなり財務のフェーズに入ります。「現実」を目の当たりにするのです。

作成したのは、月ごとの、3年分の収支計画。その後は、年単位で、10年分まで。 その結果、PVプロボノは初年度で破綻することが分かったのです。

STAGE編集部:机上の破綻でよかった。対策を練ることができます。

収支計画を立てる際に、計算の根拠や前提、係数を用意しなければなりません。その作業の中で、 事業にとって重要な指標が何か、そしてそのインパクトを知ることができます。
PVプロボノの収支計画を立てて、近く破綻することが分かってはじめて、「カスタマーセグメン ト」を真剣に考えるようになった。それはPVプロボノが価値を提供するカスタマーの数が、収支 における重要な係数であるからです。収支計画は、そんな当たり前のことに気づかせてくれました。

■数字にすることで課題が見えてくる、仲間と共有できる。 重要な決断も余裕をもって検討できる。

STAGE編集部:少なからず人を巻き込む事業に取りかかる前には、起こりうる事象を具体的に想像しておきた いものですよね。

事業計画というものは、ミッションやアクションプランのみならず、お金のことも考えることによっ て初めてバランスがとれます。 本当にお金が無くなったらどうなるのだろう、その時に何ができるのだろう、という「最悪のス トーリー」を考えるようにもなりました。

数字は仲間に、直ぐに、すべて、共有しています。 それまでは、仲間も私も、数字も見ないで楽観視していました。今はきちんと見てもらいます。 数値化しておかないと、何かあった時に即時に判断ができません。

例えば、イベントの会費は幾らにするか、集客は何人必要か。そのような数字も、感覚的に算出 するのではなく根拠をもって算出しておけば、想定外の事象が起きた場合にも対処策が具体的に でてくるようになります。

大きな決断となる可能性のあることを、あらかじめ検討することもできます。 実は、今も、数ヵ月以内に資金的な危機が訪れるということが見えています。そのときの対応策 として、融資を受けるという選択肢も考えられます。 そういった重要な選択も、今からなら余裕を持って検討できます。

■お金は、事業を発展させるための有益な「手段」になる。

STAGE編集部:危機管理的な側面だけでなく、積極的な事業展開のためにお金を活かすこともできます。

今まさに、お金に働いてもらう、そんな仕組みを構築し始めています。より豊かな映像表現に繋がるような、新しい映像事業のアイディアがあります。 お金があれば、その事業のパイロット版を作ることができます。アイディアを具現化できるのです。 それが、きっと次の活動に繋がります。そして、お金を呼び込んでくれるでしょう。 いわば、お金を活用して、事業の水路を作っているような感じです。

また、様々な補助金制度がありますが、その多くは、まずは費用として使わないといけません。 補助金を獲得するためにも、お金が必要なのです。

利益を得ることは、それ自体が目的なのではなく、事業活動を続けるためのことなのです。PVプロボノは2015年7月、NPO法人となる予定です。 真っ当な謝金、人件費を払えるNPO法人にしたいです。

■個人の枠を超えて広がっていく「お金」と「仕事」の考え方

STAGE編集部:これまでの事業活動を通じて新井さん個人の、お金に対する意識は変わりましたか?

大きく変わりました。 これまでは自分のお財布のように感じていましたが、今は、事業のためのお金であり、公のもの だと感じています。同じお金なのに、全く別のもののようです。 NPO法人になったら、1円たりとも個人の口座からは補填しない、と決めています。

STAGE編集部:個人の仕事とPVプロボノでの活動にかける時間は、どのような配分ですか?

半分半分くらいかな。

昨年末には、自分の映像ビジネスのために株式会社を設立しました。かつてはセルフマネジメントが苦手で、スケジュール管理やギャラ交渉などはマネジメント事務所 と契約して任せきりでした。クリエイティブとマネジメントは別物だと捉えていたのです。 今となっては、それは自分の甘えだったと思っています。

今は、自分でギャラ交渉も行えるようになりました。 それは、「自分のため」の交渉ではなくなったからです。 私は、「新井博子」という社員を雇っている会社のオーナーであり、冷静に社員のギャラ交渉を することは、会社のオーナーとして責務なのです。

お金に対する知識を身につけたから、このように考えられるようになりました。

お金のことを知っているからこそ、お金を道具として「使う」ことができます。 お金のことを知らないというだけで、上手く使えないなんてもったいない。まだまだ勉強して行き たいと思います。

特定非営利活動法人 PVプロボノ代表 新井博子さん

CMや広告映像の企画・演出を数多く手がける。女子美術大学卒業後、CMプロダクションへ入社。 2008年にフリーランスCMディレクターとして独立。3.11をきっかけに「本当に価値のある映像 とは何か?」を考えはじめ、2013年にプロの映像クリエイターによる社会貢献活動団体「PVプロボノ」を立ち上げる。2014年に「ソーシャルフィルム株式会社」を設立。人や社会をより豊かに していくための映像活動を目指して邁進中。
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