株式市場が波乱の幕開けでも見誤らないための3つ視点

2020年の株式相場は波乱の幕開けとなりました。日本の株式市場が1月6日からと遅いスタートであることから警戒する投資家も多かった中で、やはりかという感が強い年始となりました。それでも波乱相場では落ち着いて冷静に判断することが一番大事です。今日は相場を見誤らないための3つの視点を見ていきます。

2020.1.17

米国の予防的利下げの今後についての視点

トランプ大統領が就任して以降、大統領の発言や行動に左右される相場が多くなってきました。その都度、今回こそは株価が大きく調整するという緊張感や思惑が市場をリードし相場が下落する場面がありました。また、1954年以降で今回の景気拡大期間(127カ月目)が最長であることから、景気後退期への突入が懸念されてきました。このような思惑による相場変動に敏感であることは投資家である以上必要ではありますが、冷静さを失うことは即、負けに直結するため常に冷静に正しく判断していく必要があります。
正しく判断する1つ目の視点は、米国の金融政策です。米国で予備的に行われた昨年の政策金利の利下げ以降、今年以降の政策金利動向がどのようになるかとても大事なポイントです。昨年の利下げは、市場で評価され、結果としてダウ工業平均は史上最高値を更新することになりました。企業業績も堅調に推移し、EPSも上昇し、PERには少し高値警戒感こそありますがバブルといえるレベルには達していないように思えます。
そのため、今年以降も引き続き利上げは回避され、どちらかといえば景気サイクルに配慮して利下げすらあるのではないかと見る市場関係者が増えています。
一方で、今回の予防的利下げが1998年当日に利下げ回数などが類似しているため注意が必要だというコメントがいくつか聞かれます。1998年の予備的な利下げは、1999年以降のITバブルを助長し、その結果、翌年以降に利上げを行わざるをえなくなりバブル崩壊の引き金を引いたといった事実があります。もし、予備的な利下げで景気に過熱感が生じた場合には同じ道を歩む可能性があるため要注意です。
では、その可能性はあるのでしょうか。今回の予備的な利下げがバブルの形成を促し最終的には景気後退に突入するというコメントもありますが、今回利上げに転じるような経済環境にあるかを冷静に判断していくと、米国の物価上昇率、賃金上昇率、住宅価格の上昇率などから現時点では可能性が低そうです。一方、原油価格の高騰など物価上昇に関する指標を冷静に見ながら1998年〜1999年に類似してくる場合には注意を高めれば良いと思います。

緊張するホルムズ海峡への視点

2020年の年明け以降、原油価格が急上昇しました。きっかけは米軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害です。1月8日の深夜にトランプ米大統領が戦争を回避したい旨のコメントを出したことで事態は沈静化したように見られています。しかし、それでも変わらない事実があります(1月10日現在)。それは、イラン政府は1月5日に声明を出した欧米との6カ国と結んだ核合意の逸脱の第5弾の措置として、無制限にウラン濃縮を進めるというものです。この結果、濃縮度が兵器級の20%以上近づくことでイランが核保有国に近づくことが現実味を帯びてきました。これから分かるように司令官殺害を発端とした当面の危機は回避されたかもしれませんが、引き続きイランが核保有に近づいているということは、2008年のように原油高になるリスクをはらんでいるということを忘れてはいけません。
2008年にWTI(原油先物)は147ドルまで大幅に上昇しました。これにより各国は景気後退局面にあったにも関わらず、物価高騰の懸念から政策金利の引き下げ対応が遅れリーマンショックに至ったとされています。この2008年の価格高騰の背景ですが、諸説あるもののイラクとイスラエルにおける核問題が大きかったのではないかとされています。イスラエルはイラクに攻め込まれる前にイラクの核関連施設を先手必勝で空爆し撃退するといった懸念が高まり、市場では原油の供給量の低下するのではといった思惑から急激に147ドルまで高騰しました。国こそ違いますが、あきらかに今と同じような核問題を背景にしたものでした。
今回も類似している点があります。国こそ変わりますがイランが核保有に向かい準備を進めており、今後もホルムズ海峡を挟んだ親米国の諸国が核の脅威にさらされ続けることからいつでも危機が台頭する可能性はあります。もし、今後何かをきっかけに緊張が高まり原油輸送の大動脈となるイラン沖のホルムズ海峡が封鎖されたとすると原油価格は150ドルは超えてくるというアナリストのレポートがあります。ホルムズ海峡を通る原油は、世界全体の海上輸送される原油の約3分の1、日本が輸入する原油の約8割を占め、世界経済への打撃も避けられません。
当面の危機は回避できたものの、今後はイランのウラン濃縮に関するニュースにはアンテナを張っておく必要がありそうです。

大事な指標への視点

地政学のリスクが台頭すると各経済指標からなんとなく目が離れがちです。地政学リスクの方がドラマチックなので何かと話題になりますが相場を大きく変える直接的な原因にはなりません。本当に相場を大きく転換させるのは、政策金利と長期金利、景気後退か拡大か、そして為替レートの動向なのです。だからこそ、どんな時も目を離さないでチェックする必要があります。
今年に入って発表された今後のヒントが隠されている3つの指標に注目してみました。
1つ目は米ISMが発表した12月の製造業総合景況指数です。景況感指数は47.2に低下し2009年6月以来の低水準に落ち込みニュースでも広く取り上げられていました。指数自体もとても悪いのですが、中身はさらに悪い内容です。19年の年間平均は51.2と10年ぶりの低水準で18年の年間平均を7.6ポイントも下回っています。2001年以来の大幅な落ち込みと聞けばなおさらで、一時的な落ち込みとはいえはなさそうです。さらに、18業種のうち15業種が活動の縮小を報告しており特に衣料品や木材製品が低調ということなのですが、この個人消費と住宅関連に関する業種の報告はかなり米国経済にとってはショッキングな結果だったといえます。
2つ目は、ISM非製造業景気指数です。ISM製造業の結果と対象的に12月の非製造業総合景 況指数は55.0と好結果でした。しかし、2019年全体ではISM非製造業景況指数は平均55.5と3年ぶりの低水準です。新規受注は54.9と3カ月ぶり低水準で雇用も55.2に低下しています。このように内容的にはあまり良い印象は持てませんでした。
3つ目は、米雇用統計です。結果は、14万5000人の増加にとどまり、市場の予想を下回りました。製造業の雇用減少が影響しています。自動車や家電などの製造業分野で就業者が1万人余り減少したことが影響しているようです。失業率は3.5%と引き続き低い水準ではありますが、時給の平均は、前年の同月比で2.9%の上昇と伸びがやや鈍化しています。この雇用統計もあまり良い内容とは言えません。
このように3つの指標から連想できることを一言でいえば今年も米国は物価上昇のペースが弱そうであることです。経済指標からは物価上昇が緩やかであり金融政策が利上げに転じる可能性は低そうで、それより利下げの可能性のほうが現実味がありそうです。外的要因として原油価格が高騰するようなことがあれば別のシナリオになりそうですが、政策金利引き上げをトリガーにした株価調整は当面なさそうに見て取れました。
年初から難しい相場ではありますが、それでも昨年から変わった点、変わらない点、その点が景気動向にどのような影響を与えるかということに視点を向ければ大きな相場動向は意外に簡単に読みきれるかもしれません。
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