2019年9月20日 更新

金融界で注目!SDGsのための「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」とは

「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」は国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」を達成するための投融資で、第1号は日本で行われました。金融企業もファイナンスを受ける企業もイメージアップし、中・長期的な企業価値の向上につながるといわれています。

2019.9.20

ポジティブ・インパクト・ファイナンスとは

あなたは「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」をご存知ですか?
英語で「ポジティブ(Positive)」は積極的とか肯定的という意味、「インパクト(Impact)」は衝撃、影響が大きいという意味で、「ファイナンス(Finance)」は金融や投資や企業の資金調達を意味します。
「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」は直訳すると「積極的に良い影響を及ぼす投融資」ですが、何に影響を及ぼすのかといえば、それは人間の社会や経済や環境です。
国連は社会問題。経済問題の解決、地球環境問題の解決のために、2015年9月に「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を定めました。これは「持続可能(サスティナブル/Sustainable)な世界」を実現するために、貧困をなくそう、気候変動に具体的な対策をなど「17のゴール」と「169のターゲット」で成り立っています。2030年を目標年に、その達成のためにアメリカや日本のような先進国も、中国やインドのような新興国も、発展途上国も共に努力をしようと提唱しています。

ですからポジティブ・インパクト・ファイナンスは、SDGsを達成するための投融資だと解釈しても間違いではありません。
国連機関の国連環境計画(UNEP)は1992年、「国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)」を設立し、銀行、保険、証券会社など世界の金融企業とパートナーシップを結びました。そのUNEP FIはSDGs制定翌月の2015年10月に「ポジティブ・インパクト宣言」を出し、SDGsを達成する目的で2017年1月、「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則(PPIF:The Principles For Positive Impact Finance)」を制定しました。

PPIFは「定義」「フレームワーク」「透明性」「アセスメント」の4つの原則で成り立っていますが、最初の「定義」でポジティブ・インパクト・ファイナンスを「SDGsの達成に向け社会、環境、経済のいずれか一つ以上に貢献するとともに、負のインパクトを特定・緩和する投融資」と定めています。

ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、この原則に基づいて行われます。

PIF第1号は日本の三井住友信託銀行が実施

ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に基づいたファイナンスの世界第1号は、2019年3月、日本の金融機関と日本企業との間で契約されたものでした。
金融機関は三井住友信託銀行、形態は融資(貸付)で、融資先は食用油などを生産する不二製油グループ本社でした。

同社は、東南アジアでアブラヤシの実からつくるパーム油を輸入して日本の工場で食用油を生産し、スーパーやコンビニや食料品店を通じて一般消費者に販売しています。

「サステナブル調達」として、アブラヤシの栽培やパーム油の生産で児童労働や違法な労働をさせていないか(人権)、廃棄物でその国の水や空気などの環境を汚していないか(環境)、調達先をチェックしました。

「生産活動における環境負荷低減」として、水や空気を汚していないか、廃棄物削減に取り組んでいるか、気候変動の原因の化石燃料の使用を抑えているか、チェックしました。
「食の創造によるソリューション提供と食の安全・安心・品質」として、技術や新製品で健康増進に役立っているか、植物性素材は健康にいいとアピールしているか、食の安全に取り組んでいるか、貧困や飢餓を起こす売り方をしていないかなどをチェックしました。
この3つのテーマはそれぞれSDGsの「17のゴール」のいくつかに対応しています。不二製油グループ本社はポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に合致しているか日本格付研究所に「第三者評価」を依頼し、その結果、SDGsの達成に貢献する環境、社会、経済に配慮した取組を行い「原則に合致している」という評価を得ました。それをもとに三井住友信託銀行は融資に「ポジティブ・インパクト」があると評価し、融資(ファイナンス)を実施しました。
融資はポジティブ・インパクト・ファイナンスでなくても可能でしたが、第三者の評価を受けることで不二製油グループ本社はSDGsに基づいた経営をしていること、三井住友信託銀行はSDGsに基づく金融活動を行っていることを国内外にアピールでき、企業イメージがアップしました。たとえば菓子メーカーが「わが社はSDGsを重視しています」とアピールしたければ、食用油の調達先を不二製油グループ本社にすれば「サステナブル調達」の条件をクリアできます。それによって食用油の売上が伸びることもありえます。当面のコストはかかっても「中・長期的な企業価値の向上」につながるというわけです。
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