2018年8月29日 更新

〈高濱正伸〉「生きる本能」が目覚める教育で、“メシが食える大人”を社会に送り出す

首都圏を中心に「花まる学習会」を展開する高濱正伸さん。その教育への熱い想いは、教室に通わせている保護者だけでなく、教育界へも新たな風を呼び込んでいます。「花まる学習会」の経営の傍ら、全国各地での講演会、公教育の改革、教育書の執筆、そして授業や野外体験の引率など、縦横無尽に舞台をかけまわる高濱さんのエネルギーの源を探りました。

2015.8.17

■日本の教育は民間が支えている

STAGE編集部:「花まる学習会」を運営しながら、公教育の改革にも積極的に取り組んでいらっしゃいますが、今、公教育に起こっていることの一番の問題はどこにあるとお考えですか?

一言で言えば、「結果責任を問われていない」ということだと思っています。小学校であれば、12歳になったら学力が定着していなくても自動的に卒業になる。これが私立や塾であれば評価の対象になるので、一生懸命やっているわけですよ。ところが公立は「教育はそういうものじゃない」とか理由をつけて、先生の結果責任を問わないから、力のない先生も居座ってしまっている。一人ひとりは善良な良い先生ばかりなのですが、そういう仕組みの問題だと。
STAGE編集部:結果責任を問われないために、公立の教育が遅れていると。

日本の教育は世界で何位、などと言いますが、塾や通信教育も含めて民間の教育が底上げをしているんであって、公立の教育だけでは国際的な教育のレベルには到底くらいついていけません。

司法試験もわかりやすい例ですよね。国を上げて法科大学院でござい、ってやったところが、みんなやっぱり伊藤塾に行く。それはなぜかというと、殺伐とした合格技術を教えてくれるからではなくて、公教育よりもよほど法の本質を教えてくれるからなんです。日本は民間の教育レベルが高いからどうにかなっているんですけど、公教育は税金を大規模に使って校舎を持って、何やっているのこれ、っていう状況なので、それをちょっとどうにかしたいなっていう。

■21世紀型学力には「思考の補助線」が求められる

STAGE編集部:これから教育界が重点的に取り組んでいくべきは、どのような学力・能力であるとお考えですか?

今までのような「公式を用いて台形の面積をつつがなく計算する」みたいなことではなくて、「補助線が浮かぶかどうか」とか、「人が思いついていない発想ができるか」とか、そういう学力・能力だと思います。これこそが21世紀型学力だと。そもそも花まる学習会ではこれをずっとやってきています。

社会に出たときに、「相手は何が言いたいのかな」って思考の補助線を引くことができたり、人が浮かばないアイデアが出たり。見えないものが見える力ってすごく重要で、これこそがいわゆる頭のよさだと思うんです。そこにずっと目をつけて、教育として落としこんでやってきたのが注目されていきているのだと思います。

STAGE編集部:IQとかEQともまた違う能力ですね。

僕がずっと大事にしているのは、一言でいうと「自立」なんです。そもそもこの国の何が問題かというと、自立してないじゃないかっていう一言なんです。12歳になったら小学校卒業、15歳になったら中学校卒業って自動的に送り出しているけれど、「いまのままじゃ将来自立できないよ」ってこだわる先生がほとんどいない。それでは教育者と言えないのでは、という問題意識を持っています。

まずメシを食える、自立する教育に変えるっていうことが不可欠です。それプラス、先ほど挙げた、思考の補助線を引く力、人ができない発想をする力、人を魅了する力、説得力。リーダーシップ、イノベーション、コミュニケーション力。これからの時代、こういう力がないと、自立にはつながっていかないですから。

■「メシが食える大人」を育てる方法

御茶ノ水教室のホールの壁面には、たくさんのCDや絵本が並ぶ。
STAGE編集部:自立を象徴する言葉として、「メシが食える大人」を育てるということをずっとおっしゃっていますね。

これからの世の中、何が起こるのかは僕も想像できない。人工知能が発達したら医者も弁護士もなくなると言われている時代ですから、将来、この職業につけば安定、という仕事はないんです。

だけど、原始的な、生きるための活力と視点があればどんな世の中になってもメシが食っていけるのではないかと思っています。具体的に魚を捕まえる仕事ができれば、生活には困らないですから。

STAGE編集部:安定して給料をもらえる大人=メシを食える大人と定義した場合に、組織の中で生き残っていくための社内政治力や媚を売る力も生きる力ということになりますか?

それも立派な生きる力です。僕の教育論の原点には、動物ってどういうふうにできているのだろうということがあるのですが、組織の中で生き残っていく力があるということは、それを含めて人間世界をちゃんとわかっている証拠ですから。

STAGE編集部:どのようにしたら、そうした原始的な生きる力が育まれるのでしょう?

野外体験ですね。体験でしか能力は伸びないので。まじめで歴史も好きで英語も好きで国語も好きだった女の子が、高校ぐらいで「補助線が浮かばないから医学部受けられないかも」ってなる。遡ると、おままごととおしゃべりをしてた女の子と、全身動かして走り回って空間で生きていた男の子との差があるんです。

今は外遊びする場所がないとか、交通事故が怖いとか言って、ゲームばっかりやらせているわけです。でも、体力を使って、異学年で遊ぶ。人間関係を学ぶためにも、脳のそもそもの根本的な力をつけるという意味でも、野外体験が大事なんです。花まる学習会でも野外体験を定期的にやっていますが、子どもたちは本当に楽しんでいますよ。

■大人になってからでもできることはある

STAGE編集部:ここまで記事を読んで「うまく思考の補助線を引けない」「原始的な生きる力が足りないかも」と思っている人がいたとしたら、何をすればよいのでしょう?

できることはありますよ。一言で言えば意識改革だけなんですよ。ただ、意識改革ほど、簡単だけどつらいことはないんです。朝、起きなくちゃいけないけど眠くてしょうがない、っていうときに、起きられない。この壁は単なる意識の壁なんですが、これが人生の壁になるから、やっぱり早起きできない人はいろんなことができないです。

一番わかりやすいのが異性の壁かもしれません。女性ってこんなふうに考えるんだっていうことがわかれば、想像以上に応援してくれる存在になってくれるんだけど、その意識改革ができない。女の人は、理屈として正しいことを聞きたいんじゃなくて、「元気ないけど大丈夫?」みたいなことを日々言ってもらえるとか、変化に気付くとか、そういうことが大事。そういくら言われても、男の人って変われないですよね。そういうことって意味ないじゃないですか、とかって言い出すんですよ。いや、あんたの言っている意味っていうのは男の世界の意味であって、女の人に「私たちも頑張ろう」って思わせることが組織の中での仕事なのに、正しい理屈にしたがって動くべきだって思っている時点でもうアウト。いっぱいますよ、そういう人。

STAGE編集部:マネジメントに置き換えると、男性と女性ではアプローチを変える必要があるともいえますね。

僕は相手によって変えますよ、全部。この子はこういうのがいいなって思うとガツッといきます。子どもの場合だと、女の子のほうがガツッといってもどんどんついてきてくれますね。

STAGE編集部:女の子にですか?

女性は、根はやっぱり生物として強いので、ガッと言って、明日来ないかな、言い過ぎたかなと思っても、ニコニコして、むしろ好意的な感じでやってくる。芯は強いですよ。男の子で免疫のない子って、翌日本当に来ないんですよね。だから、わかるわかるとか言いながら、ほどよい距離感で引き上げていきます。

STAGE編集部:そういう、女子心、男子心みたいものはどうやって勉強されてきたんですか?

僕は男子心はもともとあるんですけど、女子心は、僕こそわかっていなかったというか、何度も、えっ、っていう壁があって。講演会なんかでも昔は理屈で正しいことを言ってたんです。でも、「あなたは女心がわかっていない」「あなたが情熱的な人であることはわかるけど全然女わかってませんよ」って散々アンケートに書かれて。さすがに僕が間違っているんだろうと思いました。

それからはいろいろ挑戦ですよね。女の子が悩みとか言ったときに正しい答えを絶対言わない修行をしたり。「なんでそう思うの」「じゃあそういうときはどういうことになるわけ?」とか、とにかく聞く、聞く。そういう繰り返しの中で、そうか、こういうのが大事なんだっていうのがだんだん見えてきました。今は誰よりも主婦の気持ちがわかっているつもりです。うちの妻には甘いって言われますけど(笑)

■動物にとって「お母さん」は絶対的存在

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