2017年12月21日 更新

〈山本典正〉日本酒で「誇り高いものづくり」の実現を目指す

「お金とは、繋ぐもの。(山本典正)」

■良いものづくりを続けることが一番のメッセージ

ーしかし、寒い季節も早朝出勤に夜勤、長時間に及ぶ肉体労働、少ない休日と、決して楽ではない仕事に、全国から若者が集まってくるというのは、一見、不思議に思えます。

大事なことは、「何を作っているのか」です。良いものを作っているということが良い人を集め、良い人が集まるから良いものが作られる、という好循環が生まれます。業界内のポジショニングもその会社の魅力の源となりますが、どのようなジャンルの、どういうクオリティのお酒を作っているのか、ということ自体が、蔵の在り方を示すメッセージとなります。良いことをし、良い品質のものを作っていると、周りはしっかりと見ていて、メッセージを受け取り、人が集まってきます。
良いものを作る技術を会得するには時間がかかります。潤沢な資金をもって酒蔵を買収したとしても、すぐに成功をおさめるのが難しいのはそのためでもあります。

また、良いものには、良い「質感」があります。お客様は分かっているようで分かっていない、と云われることもありますが、分かっていないようで分かっているものです。良くないものは、自ずと選択しなくなります。高級ブランドを冠したビニール製のバッグが話題となり一時的に流行したとしても、その旬は短いものです。

いざという局面で勝つためにも、常に良いものづくりをしていることが肝要です。

■長期視点に立ち、本業への先行投資を行う

ー『紀土』もそこにこだわり続けてきたと。

日本酒ビジネスは、変化が目に見えるようになるまで時間のかかるもので、まるで大きな船の舵を切るようなものです。『紀土』も7年かかって今、大きな成長を遂げています。

日本酒は決して利益率の高いものではありません。毎年のように多額の設備投資が発生します。それでも私は今年、現在の日本酒の売上規模に比してアンバランスなほど大きな投資を決断しました。

これは先行投資です。ものづくりを本業とする私たちにとって、長期的に確固たる競争力をもたらすものづくりへの投資が最も利回りが高い、と思っているからです。堅調に収益を上げている日本酒以外の商品による現在の利益を、将来の日本酒の可能性に繋いでいきます。
ー将来の日本酒の可能性をどのように捉えていますか?

今後確実に人口が減少していく中、これまでの大企業を中心とした効率重視の成功モデル一辺倒から脱却し、成長の新しい軸を作っていくことが急務です。まだ人口減が始まっていない東京では実感が沸かないかもしれませんが、地方では確実に人口減による厳しい生存競争が起きています。

しかし過剰に悲観することはありません。日本の各地には素晴らしい文化が残っています。ただし発信力が弱いので、眠ったままです。発信することのポテンシャルはとても高いものだと考えています。

お酒は、地方で戦える可能性を持つ貴重なコンテンツの一つだと思います。今年、万博にあわせてミラノの高級ホテルで日本酒のテイスティングセミナーを行ってきました。その高い評判に、改めて発信することの重要性を感じました。お酒のみならず、着物や器、アートや思想といった日本の文化を発信していくことは、文化に重きをおく外国からの資金流入に繋がります。

■ものづくりは、人にしかできない。

ーこれまで受け身で「発見される」ことに慣れてしまった私たち日本人は、能動的に文化発信することはあまり得意ではありませんよね。

フランスなど伝統産業を活力にしているヨーロッパの国々の事例は、私たちにヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

例えば、ヨーロッパでは、料理人や手工業者といった職人が国民的スターになることは珍しいことではありません。しかし現代日本における職人の待遇は、恵まれたものとは言い難いです。脈々と受け継がれてきた技術を持つ職人が、このままでは絶えてしまいます。

それは一度失っては取り戻ることのできない不可逆的なものであり、日本文化の多様性を支えてきたものです。ものづくりは、数値化できない、つまりコンピューターでは代替不可能な、とても人間的な活動です。

これからは日本も、ものづくりの人がエリートとして見られ、その生み出す価値に見合った収入を手にできるようになればと思います。

■誇りを抱いて働くと、楽しい。人生が、輝き出す。

ー山本さんにとって「働くこと」とは。

私は実家が酒造りを営んでいたので、若い時から「経営」を見て育ちました。しかし、一般のサラリーマン家庭であれば、大学卒業まで20年以上もの間、お金やビジネスのことを知らないまま、というのは珍しくありません。その状態で、その後数十年にわたるビジネスマン生活の最初の選択をするのですから、最も無難な「つぶしがきく」道を選ぼうとするのは当然です。だから就職してから「何がしたいのか分からない」と困る若者が多発するのも、当然なのです。
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