2017年12月20日 更新

〈渋谷豊〉ラグビー日本代表の歴史的勝利とナッシュ均衡

私は2015年9月20日という歴史的な日を忘れることはないと思います。その日は、テレビの向こうで起きている大変な出来事に日本時間の深夜3時であることを忘れて、そして妻子が寝ていることを忘れて絶叫した日です。

2015.11.2
私は2015年9月20日という歴史的な日を忘れることはないと思います。その日は、テレビの向こうで起きている大変な出来事に日本時間の深夜3時であることを忘れて、そして妻子が寝ていることを忘れて絶叫した日です。ラグビー日本代表が、ワールドカップで、ラグビー界でニュージランド、オーストラリアと並ぶ3強国の一国である南アフリカを倒す、そんな日でした。世界屈指のFW、世界トップクラスのフィジカル、圧倒的な経験、常に世界王者候補であることは誰もが認める国、しかも、南アはワールドカップでは2度の優勝を飾り、過去4敗しかしていない凄すぎる国です。
 
さて、私は試合観戦後も興奮を抑えきれずに、このようなラグビー界の巨人を倒すことができた理由をいろいろと考えていました。その後の報道や紙面によると、チームの結束力、ヘッドコーチであるエディーさんの功績、徹底したフィジカルトレーニングなど理由はいくらでも挙げられていましたが、すべてが勝因であることは間違いありません。でも、私はスポーツと経済学を愛する人間として、今回の勝利をどうにか経済学と結びつけて考えてみたいと思いました。この歴史的な勝利を経済に結びつけて考えることで長く記憶に残すために。
そこで思い切った仮説を立ててみました。それは、今回の勝利の背景には「ナッシュ均衡」があったというものです。ナッシュ均衡とは、天才経済学者ジョン・ナッシュが考えた理論です。ちなみにこのジョン・ナッシュは映画「ビューティフルマインド」のモデルになった人です。

ナッシュが提唱した「ナッシュ均衡」をすごく簡単に説明すると、「ゲームに参加している全員が選んでいる戦略が、間違いなく一番いい戦略であること。そして、その下では、自分の満足も最大化される状態であること」です。これでも、少し難しいかもしれません。もっともっと簡単に砕いてみると、アイスクリームが大好きな人と、生クリームが大好きな人と、コーンフレークが大好きな人がチョコレートパフェを注文し3均等に分け合ったら、みんなが最高にハッピーな状態になるようなことです。すごく大まかな説明になりますが、これが「ナッシュ均衡」です。ここに生クリームだけしか食べない人がいると均衡が崩れてしまいます。
試合に戻ります。日本代表は試合時間残り2分で29-32の3点差負け。このままでは善戦ですが負けです。しかし、ここで日本にラストチャンスが訪れました。ここで選べる選択は2つ。同点を狙うか、逆転を狙うか。逆転を狙うにはトライしかありません。しかし、残り時間2分で南アからトライを奪うことは、一つのミスも許されないすごく確率の低い、賭けに近い選択です。しかし、日本代表はトライを目指すことを選択しました。引き分けでも十分に評価される状態であったにもかかわらず、チャレンジしたのです。結果は、日本の十八番である連続攻撃からトライを奪い勝利。
私は、ここにナッシュ均衡があったのではないかと思うわけです。つまり、参加している日本選手全員がトライで逆転を目指すことがチーム全員の思いが満たされ、選手個人も満たされる状態だったこと。また、この強国に勝つと強い気持ちで試合に臨んだことで、チームのナッシュ均衡が形成され、この逆転劇が生まれたのではないかと。ここで、もし選手15人の中の一人でも引き分けを目指していたら、ナッシュ均衡は崩れて負けていたのでないでしょうか。ミクロ経済的に考えるとこのようになります。

ナッシュ均衡を一般的な言葉にすると「結束力」や「一致団結」でしょうか。日本代表は強気なチャレンジでトライしましたが、経済学専門の方々に突っ込まれることを覚悟の上で、この歴史的な勝利が、私のやや思い切った説明で読者の皆さんの記憶にトライできればそれで十分です。

渋谷 豊 ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所(FAG総研) 代表

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで執行役員を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かし、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。 FAG総研 http://fagri.jp/
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