2019年8月7日 更新

ソフトバンクとトヨタのMaaSプロジェクトが高齢者ドライバーを救う?

悲惨な事故で注目された高齢者による自動車事故の問題を阻む大きな壁が、地方の交通事情です。「クルマがないと生きていけない」を「クルマを手放しても生きていける」に変えられる可能性を秘めた「MaaS」に、2018年9月にソフトバンクとトヨタ自動車が共同で設立た「モネ・テクノロジーズ(Monet Technologies)」が本命プロジェクトとして浮上しました。

2019.8.7

高齢者の運転の問題の解決を阻む大きな壁

2019年上半期、大きな話題になったのが「高齢者による自動車事故の問題」でした。4月19日、東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が暴走して自転車に乗った母親と幼い女の子が死亡し、男女10人が重軽傷を負うという悲惨な事故が起き、それをきっかけに国民レベルの議論が巻き起こり、翌5月、東京都の運転免許証の月間自主返納数は過去最多を記録しました。政府は2020年以降、75歳以上の人を対象に、自動ブレーキなどの安全機能がついた車種だけを運転可能な新しい運転免許証をつくる方針を打ち出しています。
75歳以上の高齢ドライバーは2018年末時点で563万人で、彼らが起こした死亡事故は2018年1年間で全体の約15%を占めています。2018年の運転免許証の自主返納は約40万件にとどまりました。「身体的な問題で運転に自信がなくなったら自主返納しましょう」という呼びかけには、「都会ではどうか知らないが、地方ではクルマがないと生きていけない。免許証を自主返納したくでも、できないのだ」という反論の声があがります。地方の交通事情は、この問題の解決を阻む大きな壁になっているようです。
「自動運転技術で解決できる」と言う人がいますが、運転の操作は自動化できるとしても、認知症などで意識レベルが低下した人が事故時の警察への通報や負傷者救護などの義務を果たせるかなど、また別の問題もあります。
ただ、100年に一度のモビリティ革命といわれる「MaaS(マース)」が地方の交通事情を変え、高齢者の運転の問題を解決に導くかもしれないという期待の声があがっています。

運転免許を返納してもMaaSが肩代わりする

MaaSは英語の「Mobirity as a seirvice(サービスとしての移動手段)」の略称です。総務省のホームページでは「自動運転やAI、オープンデータなどを掛け合わせ、従来型の交通・移動手段にシェアリングサービスを統合した次世代の交通」と説明しています。つまりMaaSではICT(情報通信技術)が非常に重要な役割を果たすことになります。
従来型の交通・移動手段とは電車、バス、船、飛行機などの公共交通機関です。シェアリングサービスとはマイカーをシェアリング利用する「Uber(ウーバー)」のような新しいビジネスです。それらを統合して、移動経路や時刻の検索も、予約も、運賃の支払い(キャッシュレス決済)もスマホで一括して行えるようにしようというのがMaaSです。
たとえば、高齢者が朝8時に病院に着きたいけれど公共交通機関の時刻を検索しても間に合わないという時、その地域のシェアリングサービスの予約状況を検索して、その予約サイトに誘導されるというぐあいです。会社をリタイアした地元の60歳代の人が、マイカーで80歳代の後期高齢者を病院に送り迎えし、その収入を年金の足しにする、というようなイメージです。
そうやって「足」が確保されますから、地方の交通事情は「クルマがないと生きていけない」から「クルマを手放しても生きていける」へ変わっていき、高齢者が運転免許証を返納してもMaaSがそれを肩代わりできるなら、免許の自主返納が促されます。

MaaSはもともとヨーロッパで、都市部の交通渋滞対策、「パリ協定」の目標を達成するために二酸化炭素の排出量を抑える環境対策、公共交通が不便な地方での交通弱者(買物弱者)対策として考えられたのですが、日本ではそれに高齢者の運転の問題の解決策という役割が加わっています。
MaaSの実現には、スマホ1台で検索から予約、決済まで何でもできるようにし、交通関係の支払いを全て1ヵ月分まとめて利用者の銀行口座から引き落とせるようにするICTインフラの整備・普及や、運賃支払いも含めた公共交通機関の相互連携、地方での自動車シェアリングサービスの十分な普及などが必要で、日本はまだまだ整備途上ですが、ビジネス界は未来を見据えてすでに積極的に動き始めています。その主役はIT企業と、運転免許証を返上されたらクルマが売れなくなって困るはずの、自動車メーカーです。
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