2019.5.7
統計の錯覚を利用されて欺かれないように
今年2月、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」で行った不正が発覚し問題になりました。発端は企業に賃金の数字を聞く際、2004年に全数(全企業対象)調査をサンプル(抽出)調査に変更したことで、うっかり全数調査との差を補正する計算処理をしていなかったため14年間、賃金の数字が不当に低くなっていました。しかも、気づいた担当者は2004年にさかのぼって全部修正せず、直近の2018年の数字だけを修正してお茶を濁したため、2018年の賃金はめざましく伸びたように見えました。
これは言い訳ができないミスですが、政府や自治体や民間が発表する各種の統計データやそのグラフには、ミスなど何もしていなくてもうっかり錯覚してしまいそうな部分がいろいろあります。世の中にはそれを利用して欺こうとする人間もいますから注意が必要です。
「平均」は「ちょうど中ぐらい」ではない
けっこうよく知られているのが「平均」をめぐるトリックです。
WHO(世界保健機関)が発表している「平均寿命」は、2018年の1位は日本で84.2歳、最下位はアフリカのレソト王国で52.9歳でした。では50歳のレソト人はあと3年の命なのでしょうか? レソトには60歳以上の人はほとんどいないのでしょうか? 実際にレソトに行ってみれば、70歳、80歳まで生きている人はざらに見つかることでしょう。
レソトは1歳未満の乳児死亡率が1,000出生中72、5歳未満の小児死亡率が1,000出生中92で、日本(乳児死亡率2、小児死亡率3)に比べて非常に高いために平均寿命が短いのです(UNICEF「世界子供白書」2017年)。決して、大人が60歳になる前にバタバタ早死にする国ではありません。
日本の金融広報中央委員会が発表する「家計の金融行動に関する世論調査」の「平均貯蓄額(金融資産保有額全世帯平均)」も、そんな錯覚を生みました。2017年の調査結果は1,771万円でしたが、毎回「そんなにあるはずがない」という批判を呼びました。第一にこの調査は「金融資産を保有していない」世帯をカウントせずサンプルから除外していましたし、第二に「単純平均値」なのでその性質上、金融資産が多い人(富裕層)の極端に高い金額に数値が引っ張られ、実感からずれていました。そのため平均額と一緒に「中央値」も発表され、2017年は600万円でした。
2018年、批判に応えて金融広報中央委員会は「金融資産を保有していない」世帯をカウントしてサンプルに加えたので、平均貯蓄額は1,234万円、中央値は350万円へ大きく減りましたが、そのために今後、過去のデータと比較することができなくなりました。
「社員の平均年収」も、採用数が多い会社では給与・賞与が安い新入社員に引っ張られて下がる傾向があるので、同じ年齢層の平均年収で見比べて判断する必要があります。
「平均(単純平均値)」は決して「ちょうど中ぐらい」ではないので注意しましょう。
「社員の平均年収」も、採用数が多い会社では給与・賞与が安い新入社員に引っ張られて下がる傾向があるので、同じ年齢層の平均年収で見比べて判断する必要があります。
「平均(単純平均値)」は決して「ちょうど中ぐらい」ではないので注意しましょう。