2018年6月7日 更新

究極のミニマリストが次に見据えるキーワードとは?「いいもの探し」はもうしない―。〈沼畑直樹〉

「お金とは、嫌いな人が見当たらないモノ。(沼畑直樹)」

STAGE編集部:今の買い物のスタイルとはずいぶん違いそうですね。

まったく違いますね。今は、そもそも「何かいいものはないかな?」と探すことすらしない。自分の今の暮らしとすでにある持ち物を見つめていて、「部屋のこのコーナーに置きたい、こういうモノが欲しい」とイメージを具体的に持って、そのイメージどおりのモノに出会うまでは買いません。欲しいモノのイメージが明確だから、出会った時には迷わず買う。値札を見ることもしません。買い物の切れ味が鋭くなったと思います。
例えば、「洗濯物を干す時に、タオルが紺色で統一されていたら気持ちがいいだろうな」と思ったので、それまであったいろいろな色や柄のタオルを全部捨てて紺色のタオルを新調する。「車のシートを茶色の単色本革にしたい」とイメージが明確になったら、すぐに車を買い替えることはできなくても、手始めに鞄を茶色の革のものに変えて助手席に置くとか。自分が過ごしたい空間に持ち物を近づけていくんです。

■モノを買うことには人生を変えるほどのパワーがある

STAGE編集部:イメージを明確にしてから買う分、手に入れたモノは長く使うということですか?

もちろん大切にはするんですが、持ち続けることにも執着しないんです。捨てる時は思い切って捨てます。

なぜかというと、一つのモノを捨てて、新たなモノを入れるという行動は、人生にとって“変化”だからです。習慣や日常を変える可能性がある。モノを捨て、モノを買うというのには人生を変えるほどのパワーがある。そう考えると、お金の使い方も変わってくると思うんですよね。

ミニマリストになるかどうかは別として、一度、自分が普段どれくらいのモノを買っているのか、それがどれほど欲しいモノなのかをセルフチェックしてみると気づきがあると思います。自分の物欲を把握してコントロールできる人生と、漫然と買い続ける人生とでは、大きな差が出るのではないでしょうか。

STAGE編集部:きっと沼畑さんにとって買い物は“投資”のような感覚なんですね。これからの人生の時間を豊かにするものかどうかを吟味して決める行動という意味で。

そうですね。普段、モノは滅多に買いませんが、例えば「この部屋に和楽器があったら、より人生が豊かになるかもしれない」と思ったら、たとえ数十万円したとしても迷わず買うと思います。あまり買わないから、一つひとつの買い物の意味が深まる気はしますね。

■身の丈に合っていると感じていることが大事

STAGE編集部:仕事についてはどうですか? モノは減らしたくても、仕事や収入は増やしたいと考える人は多そうですが。

僕の場合は、ある程度でいいという考えです。従業員を何人も雇って会社を大きく成長していくことにモチベーションを感じていなくて、個人としての信頼を積み上げていけたらというタイプ。
「ある程度稼げればいい」というのは豊かな日本という国だから言えることだとは思いますが、若い頃に比べたら日々の生活を送っていくくらいの収入もあるし、貯蓄もあるし、自分としては満足しています。

お金は結局数字で、比較によって「高い」「低い」と評価されるもの。僕の収入を「たったそれだけでいいの?」と感じる人もいれば、「そんなに稼いでいるんですか」と感じる人もいるでしょう。でも、僕自身が身の丈に合っていると感じていることが大事なのかなと。
STAGE編集部:きっと、ご自身が満足できる生活コストを知っているから、「これだけあれば十分」と安心できるのでしょうね。

そうかもしれませんね。もともと節約主義で、すごく高いものを買う消費にあまり興味はないんです。妻も同じ価値観で、自分たちが暮らしていけるミニマムな生活を知っているから、どんな給料でもやっていける自信があります。この家だって、中古で買ってリフォーム代を含めても2,500万円。周りが6,000万円のタワーマンションを買っている頃でしたから、ずいぶん安く済んでいるほうですね。
とはいえ、若い頃には新商品を追い求めている時期もありましたよ。カメラマンの仕事をしていたこともあって、特にカメラの新機種が出ると気になりましたね。でも、ふと気づいたんです。もしかしてメーカーに踊らされていないか?と。冷静に考えれば、持っているモノで十分に目的はかなえられることは案外多いんじゃないかって。世の中の不動産の物件価格も落ち着きましたし、「これ以上のスペックはもう要らない」と感じ始めた消費者が増えているのかもしれませんよね。
STAGE編集部:なるほど。最後に、これからの10年で目指す生活のキーワードは何ですか?

ローカリズムに興味があります。例えば、この吉祥寺の街には住み始めて10年が経ちますが、この土地のことを何も知らないことに愕然とすることがあるんです。今の季節に月がこの家のどの方向に沈むかとか、近所の家の庭の果実がいつたわわになるかとか。そんなローカルな情報は世界の大多数の人にとっては何の役に立たないものですが、だからこその贅沢さを感じるんです。京都のような古い街には、そういうローカリズムが息づいているし、それをわかっている人を大事にする文化があるような気がします。
自分だけに役立つ情報を集めて、身近な人と共有していく。そうすることで生まれる時間はきっと豊かなものであるはずです。ということで、今晩も、近所の商店街の焼鳥屋さんの暖簾を初めてくぐってみる予定です(笑)。そうやって少しずつ、自分しか知らない行きつけの店を増やしていけたらいい。ある映画監督が自宅の近くの居心地のいい喫茶店を応援するために足しげく通って買い物をするという話を聞いたことがあるのですが、そういうお金の使い方って素敵だなと思います。

特定の地に深くつながる、というのは、ミニマリストの価値観に近いとされる「ノマド」のライフスタイルとは対極にあるものかもしれませんが、人生を豊かにする可能性はすごく感じます。それも出身地の地元ではなく、東京の吉祥寺という街で始めるということに心地よさがあるのかもしれません。

近所付き合いが苦手だった僕の、新しいライフスタイルの挑戦が始まりそうです。
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