2017年12月20日 更新

〈森口 亮〉圧倒的な価値を生み出す~奇跡のお酒「獺祭」~から学ぶ3つの経営術

なぜ獺祭はこんなに人気があるのでしょうか。気になって獺祭について調べていたら、大人気の裏に非常に奥の深い、たくさんの成功要因がありましたので紹介させていただきます。

先日、母の誕生日プレゼントに何をあげようか迷いながらデパートを歩いていました。同年代の人へのプレゼントと違い、どんなものをあげてよいやら、この歳になると非常に悩ましいところです。

ふと目に入ってきたのが、小さめのおしゃれなワイングラス。「そうだ。母はお酒が好きだから、おしゃれなグラスと美味しいお酒をセットであげよう」。そう思いました。このワイングラスを、美味しい日本酒とともに贈ったら、きっと喜ぶのではないかと。

実は、私が日本酒を贈ることを決めたのには理由があります。
ここ数年のアベノミクスにより、”円安”と”インバウンド(訪日旅行客)の増加”がすごく顕著化しています。そんな中、先日ニュースを見ていたら、訪日旅行客が日本酒を飲みながら”こんなに美味しいとは知らなかった”とコメントしていました。私は思いました。これは、旅行に来た人が日本酒の美味しさを忘れられずに自国に戻っても日本酒を飲んでくれるのではないかと。また、円安で輸出にも有利な風が吹いて日本酒の輸出量が増えているのではないと。さらに、実際は日本酒はどのくらい輸出されているのだろかと興味が湧いてきました。

調べてみると、日本酒の輸出量は2003年には39億円程度でしたが2013年には105億円と、約2.7倍にも伸びていました。2011年のフランスのワイン輸出は7740億円、コニャックは2260億円、イギリスのスコッチウイスキーは5410億円と比較するとまだまだという感じではありますが、着実にしかも今までさっぱりであった欧州にも輸出実績が付いているようです。日本食のグローバル化と和食の無形文化遺産に登録されたことなどで、これからますます日本酒に期待したいと思っていた矢先でしたので、今回はグラスを見た瞬間に”日本酒を贈りたい”決めたのでした。

しかも、この時にお酒の銘柄もすぐに思いつきました。いま日本酒の中で大変人気のある「獺祭(だっさい)」というお酒です。

ただし、実際に酒屋の店頭で探してみると、なかなか見つかりません。お店の人に聞いたところ、入荷してもすぐに売れてしまうのでかなり手に入りにくいそうです。

01.失敗した経験を活かし、ゼロからのスタートを切っている。

獺祭を製造、販売をしているのは「旭酒造」という酒造メーカーです。いまでは獺祭のヒットにより日本でも有数の酒造メーカーとして知られていますが、わずか15年前には、レストラン事業の失敗により倒産の危機に立っていました。

倒産寸前の状態の中で、蔵の生命線ともいえる杜氏(お酒を作る職人)までもが酒蔵を去ってしまったそうです。まさに全てを失いかけた旭酒造が取った行動。それは「ゼロから自分たちで日本一のお酒造りをしよう」ということでした。

職人がいないなか、いやむしろ職人がいないからこそ、常識では考えられない数多くの試みと失敗を繰り返しながら、それを何度も何度も乗り越えることで「獺祭」という奇跡のお酒が生まれたのではないでしょうか。

素人目線でプロが思いつかないものを作り上げる。加えて失敗を次の経験に活かす。

これは、実は酒造りだけではなくビジネス全般に必要な要素だと思います。1990年代に日本の白物家電メーカーがアジアの新興国に進出し、これでもかと日本の誇る技術を取り入れた最先端の洗濯機を売り出しました。でもこの洗濯機は全く売れませんでしたが、これは消費者目線が完全に欠如した押し付けがましい商品だったからと言われています。その家電メーカはこの反省を踏まえ、現地採用の社員を登用し商品の設計段階から意見を吸い上げ、結果爆発的人気商品を作り上げたそうです。

素人目線と経験を活かすことは成功へのひとつの鍵となっているように感じます。

02.革新的な施策や技術開発、そしてそれを仕組み化する努力を怠らない。

旭酒造は、日本酒のなかでも最高級の「純米大吟醸」へのこだわりを特に強く持っています。純米大吟醸とは、50%以下に削った白米を原料とし、香味及び色沢が特に良好なもののことをいいます。醸造アルコールを添加せず、米、米こうじ及び水のみを原料として製造したもののみに用いることができる名前が純米大吟醸なのです。
米を小さく削ることには非常に繊細な作業が必要とされます。小さく削れば削るほど、雑味が取れてスッキリとした味わいになりますが、反面、米の品種の個性が生かしにくくなり、発酵を促すミネラル分やビタミン類も失われがちです。精米の速度が速すぎると、米が熱をもって変質したり砕けたりもします。それを、旭酒造ではなんと、細心の注意をもって最大で23%の大きさになるまで削り、徹底的に雑味を取り除いています。この高度な精米の技術が、口に入れた時の甘み、丸み、すっきり感といった、洗練された味を引き出していたのです。
この非常に難しいとされる精米の技術を、旭酒造ではすべて機械化、その機械も全て自社で開発しています。今まで職人の経験と勘に頼っていた部分についても仕組み化をして、だれでも獺祭の製造が可能な状態を作りました。さらに、大規模な空調施設により、今まで冬にしか作れないと思われていた日本酒を一年中いつでも作ることができるようになった結果、大量生産に成功しています。
ただ美味しいお酒を作っているだけでなく、製造工程においても業界にイノベーションを起こしているのが「獺祭」なのです。

ちなみに、オーストリアの著名な経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターは”イノベーションが経済を大きく飛躍させる”と唱えています。また、シュンペーターは、イノベーションの実行者を「企業者(entrepreneur)」と呼び、新たなビジネスを創造する者をアントルプレナーと定義しました。まさに、獺祭は新たな日本酒造りのアントルプレナーであり新たなビジネスを創造したと言えそうです。

03.美味しいお酒のことを考え続け、本質的な価値を追求し続けている。

以前、旭酒造の桜井社長がインタビューでこのようなことをおっしゃっていました。「ずっと日本酒を見つめていたら、ほとんどの人が美味しいと言ってくれるお酒の味に辿り着いた」と。以前は、話題性や販売戦略に力を入れていたそうですが、たくさんの経験を元に、「本質的な価値をもたせる場所は、味そのものにある」ということに気付いたそうです。
「本質的な価値」と一言で言っても、そう簡単につけられるものではありません。地ビールやビール酵母を使った日本酒など、様々な試行錯誤の末にやっと辿り着いた、徹底的にこだわり抜かれたお酒、それが「獺祭」なのです。
そして獺祭が売れ続けている今でも、さらなる向上を目指し、食品の安全基準と言われているコーシャー認定を日本酒の中ではじめてとったり、製造ラインにデータ分析室を設け、お酒そのものの成分データを毎日分析し続けるなど、その価値を高め続ける努力を続けています。現状維持だけでは、「なんか最近味が落ちたね」とお客様に必ず言われてしまうそうです。
その努力もあり、最近では日本だけにとどまらず、食の都パリをはじめとする海外にも受け入れられ、シェアを世界中に広げています。
とあるテレビ番組でも、ワイングラスを使いながら獺祭を飲むフランス人ジャーナリストが「神秘的な味がする。アルコールの領域を広げてくれるものだ」と発言していたのが印象的に残っています。おそらく「味」という商品そのものの本質的な価値がずば抜けて高いため、海外の人にも、ありのままの状態で受け入れてもらうことができるということなのではないでしょうか。これから先、世界中でさらなる獺祭ブームが起こる日もそう遠くはないのかもしれません。

本質的価値と言えば、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが代表的な例ではないでしょうか。

1995年、社長の柳井氏は全国紙の広告で「ユニクロ商品の悪口」を募集しました。約1万通の応募のほとんどが品質へのクレームだったそうです。当時のユニクロは、店舗数が100店舗を超えてきたところで、急成長している中でも自社商品の到達水準を知り、失敗を直視しました。

商売が軌道に乗ると「作れば売れる」が社内の常識となり、「一種の自動販売機状態」に陥ると柳井氏が自身の著書の中で語っています。
「市場に踊らされてはならない」という自戒は、一大ブームを創り上げた柳井氏だからこその言葉です。
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