ゴーン社長が本当に犯罪を行ったのかは別にして、逮捕や勾留などについての、日本の制度は国際的に見ておかしいのでしょうか? 弁護士に訊きました。
【ある女性より質問】
ゴーン氏の逮捕について、フランスのメディアは「日本の制度はおかしい」と考えているという記事を読みました。ゴーン氏はもう何週間も勾留されていますが、フランスでは勾留期間はもっと短いそうです。また、取り調べにも、フランスでは弁護士が立ち会えるのに、日本では立ち会えない。日本の刑事司法は、フランスなど先進諸国と比較して、本当に違っているのでしょうか? 万が一自分が「罪人」と認定されたときなど心配です。(20代女性)
日本の司法制度は異常なの?
異常かどうかは、判断が難しいですが、欧米諸国とはかなり違っていることは間違いありません。もともと、日本は江戸時代まで、欧米諸国とは全く違う法制度を持ってきました。それが、明治維新になって、欧米の法制度を入れることになったわけです。
アジアの優等生になろうとして、頑張って欧米の制度を採り入れましたが、どうしても完全というわけにはいきません。さらに、欧米の法制度自体、その後も進化しています。また、明治に日本が採用した制度はヨーロッパのものですが、その後はアメリカの制度が世界基準になってきました。
それらの諸事情を考えると、日本の刑事司法は、「異常」かどうかは別にして、欧米諸国とは違うものになっているのです。
本質的に何が違うの?
日本では、検察が起訴すれば、99.9%有罪になると言われています。このこと自体は、皆さん聞いたことがありますよね。ただ、なぜそうなるかを知っている人は少ないと思います。マスコミでも、「国家権力の陰謀だ!」みたいな記事を書き散らしてますから、本当のことはなかなか分からないのです。日本で、起訴されたまず間違いなく有罪となるのは、「間違いなく有罪となる事件しか、検察官が起訴しない」からなんです。本当は、70%の確率で有罪になるとしか思えない人も、起訴されないで、野に放たれているわけです。私には、こちらの方が大問題に思えるんですが、ほとんどすべてのマスコミには、この問題はスルーされています。
起訴されない代わりに何が起こるの?
「絶対に有罪」の人しか起訴しないという制度をとる場合、どうしても捜査を緻密に行う必要が出てきます。日本の刑事司法は「人質司法」と言われていますが、ゴーン氏のような被疑者を長期間拘束して、何とか事件を証明しようとするわけです。言い訳などされるといけないので、取り調べには弁護士の同席など認めません。「悪い奴」が起訴されないで終わらせるわけにはいかないと、捜査機関が頑張るので、どうしても行き過ぎた取り調べなどが行われてしまいます。
逆に言うと、これだけの「対価」を支払うことで、「かなり疑わしくても起訴されない」という、制度が維持されているとも言えます。
国際化の中での日本の司法
起訴されて前科が付くのは、多くの人にとって大変なダメージです。それを考えると、99.9%確実でないと起訴しないという、日本の制度も一概に悪いとは言えません。ただ、勾留制度など、日本の司法制度全体を見ないで、外国から批判されてしまうことも事実です。
今後は、望むと望まないにかかわらず、欧米式の制度に移行していくことは、間違いないところだと思います。