コーヒーやサンドイッチの購入に使われない仮想通貨

金融リテラシーで変わる社会
私たちをとりまく社会はいま、大きく変化している。大企業に新卒で採用され、そのまま定年を迎えるまで勤め上げれば定年後は安泰。そんな少し前まで当たり前だった人生はもう夢物語だ。【連載】金融リテラシーで変わる社会(第8回)
2017.7.10
ここ数日、Bloombergやウォールストリートジャーナル等、様々な媒体で「仮想通貨は日常の決済には使われない」との記事が掲載された。これは仮想通貨バブルに警笛を鳴らすものなのか。
2017年7月1日より、仮想通貨に消費税がかからなくなった。今までは通常の物と同様に、8%の消費税がかかっていたが、1日からは資金決済法の下で仮想通貨は「物」ではなく、通貨や商品券のような「支払手段」と位置づけられた。多くの海外では消費税がかかっていないため、国際標準に合わせた形だ。
かねてより仮想通貨、特にビットコインについては日本国内の市場とアメリカや中国の市場で価格が大きくずれいることが注目されていた。多くの場合日本が最も価格が高くなっていたため、流動性の問題に加えて消費税分の上乗せがされていると考えられていた。この消費税の有無については価格が8%変動してしまうため、場合によってはアービトラージができる状況になっていた。
近年、金の密輸が多発しているのも、海外では金が非課税にもかかわらず、日本では消費税がかかる事による、8%の価格差異を密輸によって取りに行こうとするものである。そのため、理論的には、7月になった瞬間に消費税分の8%が日本市場で下落をするかと思われていたが、結果的には6月30日と7月1日の間ではほぼ変動がないような状況であった。
ビットコインが、特に日本国内においてはいかに理論外で動いてしまっているかの象徴ともいえる事態であった。この理由の一つが、日本においていまだに仮想通貨について大きな誤解が蔓延していることにあるからであろう。
日経新聞によると、7月10日からメガネ専門店のメガネスーパーが全店舗でビットコインでの支払いに対応するという。またすでに有楽町等のビックカメラが支払いに対応しているほか、様々な飲食店がビットコイン支払対応をはじめており、中には山王パークタワーに存在する聘珍樓の様な高級飲食店までも対応を始めだした。
しかし、本当にビットコインの決済が一般化するのだろうか。ここ数日の間に、海外の経済メディアで仮想通貨は日々の決済には対応できないとの記事・コラムが相次いだ。
その理由は複数存在するが、まず価格の変動が激しいことが存在する。そして、従来言われていたこととは逆に、仮想通貨での決済については現状、クレジットカード等での決済に比べて決済に時間がかかると共に、手数料が割高である状況があり、それらを踏まえて利用がほとんど存在していないことが挙げられている。
実際に、タイム誌やデル、ワードプレスも既にビットコインの採用は中止している。
ビットコインをはじめとする仮想通貨の商業面での過熱は、2007年頃のセカンドライフのブームを思い出させる。当時、セカンドライフには多くの企業が進出し、セカンドライフ支社の設立、またセカンドライフ内の土地が高値で取引されていたが、2017年現在には過疎化しており、その資産価値は暴落している。
仮想通貨の意義が、「決済手段」から「有価証券」に変化しつつある現在、その本質の変化についてはしっかりと注視していかなければならない。

岸 泰裕

金融工学MBA、大学非常勤講師

大学卒業後、Citiグループの日本における持株会社に勤務。在籍中に金融工学MBAを取得する。その後スタンダードチャータード銀行の東京支店に転職。現在は金融機関を退職し、明治大学、名古屋商科大学、龍谷大学や企業研修・セミナーなどで金融論等について各種講義を行っている。

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