2018.4.8
もしも今、あなたが『お金持ちになる方法』のような本で必死にお金の稼ぎ方を勉強しているなら、本書を読みはじめたとたん、思わずのけぞってしまうかもしれません。
なぜなら著者は次のように断言しているからです。「今までのお金の稼ぎ方は、近い将来通用しなくなる」、それどころか「お金は稼ぐものではなくなる」と。
仮想通貨はやがて破たんする
お金はもともと価値を交換するための「手段」でした。それがいつのまにか「目的」となり、人びとはお金そのものを求めたり、お金でお金を増やしたりするようになっています。まるで人間を支配する王様のような存在。しかしその王位も、別の「あるモノ」の力によってやがて失墜するだろう、というのが著者の考えです。
というと、「仮想通貨のこと?」と思われるかもしれませんが、違います。著者いわく、「仮想通貨はあくまで、お金が電子上の世界に溶け込んだ世界に過ぎません」。短期的には盛り上がっても、円やドルにおける”国家”のような信頼基盤の欠如と、高度な流動性が生みだす投機的動機によって、早晩破たんは免れないだろうとも語っています。
実は「あるモノ」とは、仮想通貨よりも、もっと古くから私たちに馴染みのあるものです。なにかわかりますか?
新しいかたちの経済が生まれる
答えは「信用」です。社会や経済の変化、技術の進歩などによって、人びとは人生を豊かに過ごすために、お金よりも信用を増やすことが必要になるというのが著者の予測です。
大量生産でモノが余っている先進国では、現在のようなお金を使ったやりとりは、衣(医)・食・住にかかわる生活必需品や生活インフラの領域だけになります。やがてそれらも、シェアリング・エコノミーの拡大やベーシックインカムの導入によって、限りなく低コスト化・無償化へと向かってゆきます。
一方で人びとの欲求も変わります。モノではなく、自尊・所属・承認欲求といった「社会的欲求」や、そのベースとなる人との「つながり」を求めるようになります。そして社会の構造は、お金のパワーを利用した「支配・依存」関係を軸とするタテ型から、信用を介した「つながり」が軸のヨコ型へと比重が移ってゆくのです。
そのとき、今のお金中心の経済とは別に、信用を基軸にした新しいかたちの経済が生れてくるというわけです。
お金は自分で創るものになる
…と、突然いわれても、ピンとこないかもしれません。とはいえ現実に、信用を担保に資金を募るクラウドファウンディングや、個人の時間を売買できるタイムバンクなどのサービスが広まりつつあるのも事実です。詳細は本書にゆずりますが、著者は信用をベースにした経済でお金の役割をはたすのは、「時間」と「信用そのもの」になるだろうと述べています。
なにより重要なのは、信用はお金で創れないこと、そして資源が個人であることです。つまり、新しいお金は自分で創り出すものになります。そして信用を創り出すためには、価値を積むしかありません。これからは、得意なことや専門的知識など、誰もが必ずもっている固有の能力を人と分かち合い、貢献することが必要になってゆきます。
また、つながりやコミュニティをつくってゆくには、価値観や感性など内面を磨くことも大切です。ヨコ型社会で優位に立つのは、男性よりも、感性や共感力に優れた「女性」、LGBTや会社に属さない非正規雇用などの「マイノリティ」であると著者は語っています。つまり、これまで不利とみなされたり、偏見を受けたりしていた人たちほど、活躍の場が広がる可能性があるのです。
貯める人ではなく、与える人になろう
最後に、これからの時代にふさわしい生き方として紹介されている、「お金について意識すべき10の習慣」からいくつかピックアップします。
・お金以外のコミュニケーションツール(言語・共感/思いやり・価値観)を使いましょう。
・いくらお金を持っているか?ではなく、誰とつきあっているかを意識しよう。
・価値を生みだし貢献してゆくギバー(与える人)として生きよう。
(山口揚平『新しい時代のお金の教科書』p.178~180より引用)
・いくらお金を持っているか?ではなく、誰とつきあっているかを意識しよう。
・価値を生みだし貢献してゆくギバー(与える人)として生きよう。
(山口揚平『新しい時代のお金の教科書』p.178~180より引用)
実は本書には、「取引も契約も信用もまったく存在しない社会」という大胆な未来像も描かれています。こうした著者の考えを、ありうべき可能性とみるか、空想に過ぎないと切って捨てるかは読者次第です。ただ、あなたが「お金中心の生き方をしたくない」と考えているなら、たくさんのヒントを与えてくれる一冊になるはずです。