2018年1月19日 更新

「一度歯車が狂い出すと、そこからは本当にあっという間でした」第14章[第28話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

2018.1.19
 大谷はしばらく沈黙した後、僕に明るく話しかけた。
「……まあ、焦らずやることが大事だよ。時期が悪くて、たまたま、売り上げが落ちこんでいるだけかもしれない。そうだ、広告とか出してみるのはどうだ?」
「広告なんて金のかかること、やれないよ」
「チラシを作ってキャンペーンをすることも広告だぞ。たとえば、毎月何日かを割引セールの日と決めて、そのチラシを駅前で配るとか……」
「案外、コンサルって言っても、その程度の意見しか出ないんだな」
「まあ、今できるのはそんなところだ。他にも店頭で試食サービスをするのはどうだ?いろんなお店でやられているってことは効果あるってことだ。気を落とさず頑張ってくれ」
「わかった。今できることをやってみるよ」
 その後は、試食サービスや、米角のチラシが入ったティッシュを作って、駅前で配ったりもしました。アルバイトで雇った人間は、売り子だけすればいいと思っている人間も多かったので、この作業は、スタッフの間では評判はよくなかったですね。 僕の目が届かないところだと、アルバイトスタッフの罰ゲーム的な仕事のひとつだったみたいです。でも、スタッフから憎まれようと、馬鹿にされようと、僕には生活がかかっています。なりふり構っていられないじゃないですか。今までは、売れることが当たり前だった分、こういうことは初めて経験する部分でした。僕も、だんだんとイライラとすることが多くなり、スタッフに対して、小さなことで怒るなんてことも多くなってきました。
 でも、一番哀しかったことは、ここまでやっても売り上げに変化がなかったことでした。
 そして、さらに恐れていたことが起こりました。新店舗がオープン三カ月を過ぎたころから、だんだんと売り上げが減ってきたのです。そして、この月を境にすべての店舗でクリームおにぎりの売り上げが日に見えるような形で落ち始めてきました。
 三カ月が過ぎて、新しい店舗(S駅コンコース店、T町店)の売り上げは予想の半分にしか達しませんでした。
 かろうじて、旧店舗 (M駅前店、K駅構内店)の売り上げは二割減で抑えられましたが、どの店舗でもこれまでクリームおにぎりに頼っていた分、クリームおにぎりの売り上げが落ちたら、ダイレクトに経営に響きました。
 新店舗では、毎日、用意していた四〇〇個ほどのクリームおにぎりを廃棄しました。また、新しく雇ったアルバイトの半分を、このまま給料を払い続けられないという理由で解雇せざるを得なくなりました。
 僕は、人手不足から一号店であるM駅前店舗の店頭に再び立つようになりました。 久しぶりに店頭に立ち、そこから見える景色は前と少し違いました。僕が以前店頭に立っていた頃にいた常連と言われる人たちは、もう見かけませんでした。
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泉正人 | ファイナンシャルアカデミー 泉正人 | ファイナンシャルアカデミー
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