2018.1.23
現代における「サイボーグ」の事例
私達の世界にどのくらいのサイボーグがいるかと尋ねられたら、何と答えますか。近年AIが話題となり、いわゆる「AIスピーカー」が日常生活に入ってきています。こうした人工知能の発展に注目が集まる一方、人間のサイボーグ化は一部でしか話題となっていません。そんな中、2015年のTEDグローバルで「世界初の公認サイボーグ」が講演を行いました。
講演を行ったのは、アーティストのニール・ハービソン。先天的な全色盲である彼は、周囲の人々が色の話をしていることに興味を持ち、協力者を得て「アイボーグ」という装置を開発しました。アイボーグは、後頭部に埋め込むマイクロチップとそれに接続するアンテナの2つのパーツから構成され、アンテナから伝達される光の周波数がマイクロチップによって振動に変えられ、「色を聴く」ことができる装置です。アメリカのマンフレッド・クラインズらが提唱した「サイボーグ」の概念は、完全に人体と一体化して動作するような機械と生体の結合体というもの。ハービソンは自分とアイボーグの関係性から、自分はサイボーグであると認識しています。
ハービソンだけではありません。彼の友人であるダンサーのリバズは、上腕に振動する磁石を埋め込み、リアルタイムで地震情報を受信し振動を自分の体で感じられるようになりました。他にも、頭部に人工内耳システムを埋め込んだ人が世界に30万人。人工内耳をONにすれば周囲の音を知覚でき、OFFにすれば音が聞こえなくなる点が一番気に入っていると患者の一人は語っています。パーキンソン病の症状を抑えるために、装置を頭に埋め込んだ人も世界に10万人。最新の義手はインプラント技術によって腕に接続され、物の重みや感触も感じることができるそうです。そしてアメリカのピッツバーグ大学では、2016年に人間の脳とコンピュータ、ロボットアームを繋いで、人間の脳によってアームを制御したりアームが触れた物を脳が感じたりするという実験に成功しました。
人間のサイボーグ化は、思いのほか現実的な形で進んでいるのです。
ハンデキャップを補うサイボーグ化と付加機能を求めるサイボーグ化
サイボーグ化には大きく2種類あります。1つは、病気の症状や身体的ハンデキャップを和らげるという目的で行われる医療としてのサイボーグ化。もう1つは、利便性や人間の能力を拡張するのを目的とした付加機能を求めるサイボーグ化です。
医療としてのサイボーグ化には、アイボーグや人工内耳システム、パーキンソン病で用いられる装置、義手などがあります。付加機能を求めるサイボーグ化としては、後にアイボーグに追加された紫外線や赤外線を知覚する機能、そうした知覚をインターネットに接続して共有できる機能、リバズの地震感知機能などがあるでしょう。さらにわかりやすいものでは、ドアやコンピュータの自動ロック解除や自動ログインを可能とする装置を埋め込む例があり、すでに1万個のチップが販売されたと伝えられました。後者の例において、人間の本来もっている能力を拡張することは、新しい人類の登場や人類が次の段階に進むことであると彼らは考えているのかもしれません。
「サイボーグ」と「人間」の境目という問題
サイボーグは、人間として生まれた者が機械と結合した存在です。人間として生まれたのだから、当然彼らには人間としての権利があるはず。しかし、現実には複雑な問題があります。