2018年1月23日 更新

SF世界ではない、私達の世界のサイボーグ化はここまで進んだという事実。

近年、AI技術のめざましい発展で生産性の更なる向上やライフスタイルの変化が生じています。その一方で、人々が機械を体内に埋め込み様々な機能を獲得するという人間のサイボーグ化が起きています。今回は、サイボーグの現実と今後生じうる問題について考えます。

たとえばハービソンのパスポート更新問題。アイボーグが装飾品であると見なされ、更新申請が却下されるという事態になりました(ハービソンの訴えにより後に解決)。また、アイボーグのアンテナがカメラに見えることから、「撮影されている」と勘違いした警官に暴力を振るわれたこともあります。つまり、機械が自分の一部となっている人々に対して、そうでない人々が思わぬ誤解をする可能性が十分にあるということです。
これが誤解で済むならまだよいのですが、偏見や差別につながる可能性もあります。というのは、医療分野で行われるサイボーグ化は倫理的に受け入れやすいものである一方、付加機能を求めて行われるサイボーグ化は賛否の分かれるものだからです。どのくらいサイボーグ化しているかも問題になるかもしれません。
アイボーグや人工内耳のような一部の感覚器官であれば、パッと見て「不思議な装置をつけた人間」で済むでしょう。これがもし、体の多くを機械にかえた人物が登場したらどうでしょうか。脳や神経、筋肉と人工のアームを繋いで自分の腕のように使う技術の実現は、最先端の義手やピッツバーグ大学での実験を見るに、遠い未来の話とは言えなそうです。体の多くが機械になった人物を、私達はどこまでなら「人間」として捉えることができるのでしょうか。
装置を埋め込んでいない人間から、体の多くの部分を機械化したサイボーグまで、人類における多様性はグラデーション的に拡大していくかもしれません。そこには人種差別問題や性差別問題と同じように、何らかの差別が発生する可能性があります。倫理的な部分でコミュニティから拒絶される可能性もあるし、サイボーグ化によって問題が生じれば政治や法による対応を迫られることだってあるかもしれません。

あなたは「サイボーグ」化をどう考えますか

機械と生体の結合体という定義に照らせば、体内に医療機器を埋め込んでいる人の多くがサイボーグに当てはまるでしょうが、彼らが「サイボーグである」という自覚のもとに生きているとは限りません。ハンデキャップを補う目的で機械を体の一部にしたという背景がある以上、倫理的な観点からいっても、彼らをサイボーグというよりは人間であるといいたい人々は多いでしょう。しかしその一方で、「自分はサイボーグだ」というアイデンティティのもとで、そうすることを望んだ者達がいるという事実があります。彼らにとってサイボーグになることは、人類の新しい可能性の追求です。サイボーグ化を「本来あるべき能力の欠落を補完するもの」と捉えるのか「人類の可能性の追求」と捉えるかは、本人の自覚や倫理的側面から見て重要な分岐点といえるでしょう。
そして、どこまでサイボーグ化を許容するかも重要です。手に自動解除や自動ログインを可能にする装置を埋める程度なら許容できるのか、兵士の脳とロボットを接続して戦うこともOKなのか――。
想像以上に浸透している人間のささやかなサイボーグ化がやがて大きな問題となる前に、あるいはそうならないように、私達はAIがもたらす未来について考えるのと同じようにサイボーグ化についても考えなければならないのです。
【参考】
Harbisson, Neil (2012), “I listen to color”, TEDXTalk, http://www.ted.com/talks/neil_harbisson_i_listen_to_color
Wikipedia、 "Neil Harbisson” https://en.wikipedia.org/wiki/Neil_Harbisson#Activism
Max, D. T. (伊藤和子 訳)(2017), 『ナショナルジオグラフィック 日本版』 2017年4月号, ナショナルジオグラフィック社
日本耳鼻咽喉科学会、「人工内耳について」、http://www.jibika.or.jp/citizens/hochouki/naiji.html
NHK、「BS世界のドュメンタリー「私のまわりはサイボーグ」」https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/253/2145540/index.html

Anshi

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