2017年8月24日 更新

英国のブレグジットで一番損したのはだれ?

英国のEUからの離脱の賛否を問う国民投票で、国民は離脱を選択しました。世界をアッと言わせたこの結果は、「2016年6月23日の英国の決断」として、未来永劫、記憶されるでしょう。英国民の生き方を見せつけたとも言えますが…。

2016.6.30
英国のEUからの離脱の賛否を問う国民投票で、国民は離脱を選択しました。世界をアッと言わせたこの結果は、「2016年6月23日の英国の決断」として、未来永劫、記憶される日となることでしょう。今後、この離脱について様々な論評を見かけるかと思います。これまでのヨーロッパの長い歴史による不協和、人の流れによる経済環境の変化、年代別の感情的な問題などと説明されるでしょうが、いずれにしろ「ルビコン川は渡った」のです。未来志向で考えるしかありません。

さて、今回は政治的な分析や今後のユーロの見通しといった話ではなく、ブレグジットで誰が一番損をしたのかという視点で少し考えてみようと思います。

「損をした」というキーワードになるとまずは「賭け」という連想で、英国伝統のブックメーカー(賭け屋)で損をした人を思い浮かべる読者も多いのではないかと思います。

ある英国の大手のブックメーカーによると、ブレグジット開票直前の2016年6月23日時点でのオッズは、EU残留が1.25倍、EU離脱が4.3倍と圧倒的に残留派が優位でした。この投票直前の段階でも、残留することが濃厚であったことが改めてうかがえます。
この賭けで損をした人は誰か? 答えは「残留に掛けた人」です。損をした彼らが、どれほど大きく損をしたのかについては、正確な数字が公表されていないので不明なのですが、大口で賭けた人が10万ポンド(1,300万円)を失ったと大々的に報道されていることを考えると、実際には数億円程度を損した人がいたかもしれません。ただ、一番損をした人では間違いなくありませんね。

やはり、新聞などを見ていると株式市場や金融市場で投資をしていた人が一番損をした本命ではないかと思われます。私に「本命」と言われるまでもなく、この記事を読んでいるほとんどの人はそう感じているとは思いますが。さて、英国がEU離脱を選択したその日、世界の株式市場はパニック状態に陥りました。ほんの1日で、たった1日で、いや数時間で、世界の株式時価総額が3.3兆ドル(310兆円)も失われる事態になりました。上品に言ってはいられません。ここは、「310兆円が吹っ飛んだ!」という表現の方が正しいかもしれません。

あの、思い出すだけで恐ろしい2008年9月15日のリーマンブラザーズが破綻したその日でさえ1.7兆ドル(170兆円)の損失です。リーマン・ショックに「さえ」という表現使えることこそが、まさに今回の事態の大きさを証明しているのではないかと思います。余談ですが、今後、大暴落の例えにリーマン・ショックを使えなくなると思うと、なにやら少し寂しくなってきました。
とうことで、今回一番損をしたのは「投資家だ」と結論付けたくなるわけですが、本当にそれでいいのでしょうか。私は、今回の出来事はもう少し深いキズを残したのではないかと思っています。

今回の株価下落で失われた310兆円は、捉え方によっては一時的な損失ともいえます。リーマン・ショック後に、世界の株式市場の時価総額は40兆ドルから30兆ドル(3,000兆円)まで落ち込みましたが、その後6年間で70兆円(7,000兆円)まで大きく膨れ上がりました。つまり、今後各国の金融政策次第で株価は、取り戻される可能性は十分にあるとも言えるわけです。

しかし、今回、金融政策では回復できない、大きく失われた2つのことがありました。1つ目は、政治的な停滞です。英国の離脱が決まった後、英国内である変化が起こりました。それは、新聞等でも大々的に報じられていますが、投票後の英国民の気持ちの変化です。その変化を一言で表現すると「後悔」(Regret)。この後悔の言葉を文字って「リグレジット(Regrexit)」や「ブレグレット(Bregret)」などといった造語が浸透しはじめているようです。英国国民は、「恥ずかしながら変化を選択したものの熱が冷めてきたら少し心配になってしまいました」という、少し残念なメッセージを世界に発信してしまいました。

この影響は大きいです。このようなメッセージが世界中に広まることで、これから控えている世界の国政選挙に大きな影響が出てきます。2016年の米国大統領選挙、2017年のドイツ、フランス、オランダなどの国政選挙など目白押しで控えています。各国の投票者が、この「後悔」を知ることにより、変化を恐れ、現状維持を選好することで政治的な均衡や牽制構造が崩れ、経済の成長スピードが低下することは歴史で証明されています。新聞報道によると、短期的に英国の経済損失が16兆円になるなどと報道されていますが、世界的な政治の停滞による損失はもっと大きなものになるといえそうです。
2つ目は、グローバル化の停滞です。グローバル化は、自由な資本・労働力の移動により世界経済の成長を支えてきました。グルーバル化には賛否両論ありますが、経済の恩恵を受けてこなかった国々が今後も恩恵を受けるには、今後もグルーバル化の進展は欠かせないと考えられます。今回、英国が離脱を選択したことにより多くの国が内向的な政策に転換するとすれば、世界経済にとって副次的な痛みが伴いこと間違いなさそうです。現実的には、現在の資本主義は経済規模の拡大を前提に成り立っています。新たな経済的な枠組みが確立されていない現状では、グローバル化の停滞による損失は計り知れません。

以上のようなことから、今回、本当に損をしたのはブックメーカーに投資をした人でもなく、投資で損失を負った人でもなく、実は、好きな国や地域で労働することが不自由になった人、また、政治の停滞により影響を受ける人などが本当に損をした人だといえます。この失われたものを補う新たな枠組みが誕生することに期待したいと思います。

渋谷 豊 ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所(FAG総研) 代表

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで執行役員を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かし、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。 ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所 http://fagri.jp/ ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/
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