2018.7.14
長友選手が発した「アモーレ」は夫婦げんかの時にも使われる
インテルで活躍していたサッカーの長友選手が、婚約者のことを「アモーレ」と呼んだのは記憶に新しいところです。
イタリアではこの「アモーレ」という言葉は、家族や恋愛関係にある相手に頻々と使われており、大げさに言えば夫婦げんかの最中にも飛び出す言葉なのです。
「アモーレ」と並んで愛する相手を呼ぶ言葉には、「テゾーロ」があります。これは、「宝物」のこと。「愛する人」だの「宝物」だのと呼ばれて有頂天になっていると、けんかの最中にもこの呼び方をされて、結局のところ「君」とか「おまえ」あたりと同じ使われ方をしていると気づくのです。
しかし、生まれた時からこうした愛の言葉で呼ばれ続けることは、あまり愛の言葉をあからさまにしない日本と比べると心理的に何らかの相違が生まれるのは当然のことかもしれません。
「母」であることはなににも勝る免罪符であり、それこそ路上で息子を抱擁しキスをしようが、頬を撫でて愛しげに見つめようが、周囲の人も気にも留めません。
もともと、イタリアは人間同士の肉体的接触が多い国でもあり、日本人から見ると奇異に見えるほど老若男女問わず体を触れ合う習慣があることも確かです。
もともと、イタリアは人間同士の肉体的接触が多い国でもあり、日本人から見ると奇異に見えるほど老若男女問わず体を触れ合う習慣があることも確かです。
しかし、自分のパートナーがここまで母親に密着していることは、女性であれば誰でも不快になるのが当然。よってイタリアは、「嫁vs姑」のバトルも激しいことで知られているのです。
聖母信仰さかんなイタリアにおける「母」
キリスト教が国教のイタリアは、特に聖母信仰が強い国でもあります。プロテスタントの教えには聖母信仰がありませんが、バチカンを総本山とするカトリックにはイエス・キリストだけではなく、その母マリアも信仰の対象になるのです。
この聖母信仰は、歴史の中でしばしば「カルト」扱いされるほど熱く盛り上がることもありました。ミケランジェロが制作した「ピエタ」を思い出してください。
死せるイエス・キリストが、美しい母マリアに抱かれているあの姿を。あれは、イタリアだからこそ生まれた芸術なのかもしれません。
欧州一高い親との同居率
親もとを離れざるをえない大学生活においても、週末の度に一週間分の洗濯物を持って高速バスで親もとに戻り、マンマが作ったトマトソースの瓶詰を山ほどもって下宿先に戻る。そんな大学生活を送るのは、たいてい男性です。
娘に対しても、過剰な愛情表現をするマンマは存在するのですが、なぜか息子だけが「マザコン」として注目されるのはやはり、息子の相手となるのが母親と同性というのが大きな理由かもしれません。
日本では、「パラサイトシングル」という言葉がはやりました。失業率が高いイタリアも結婚をせずにいつまでも親もとに寄生する若者が増えています。
欧州連合統計局が行った調査によれば、18歳から34歳の人が親と同居している割合は、欧州の中ではイタリアがダントツのトップで67.3%。欧州全体の平均が47.9%で年々わずかながら減少しているのに、イタリアだけは増加傾向にあるのです。
さらに、親の元から自立した男女の差も顕著で、この年代の男性の71%が親もとに残っているのに対し、女性は半数以下の41%となっています。強いマンマ予備軍は、若いころから自立心旺盛といったところでしょうか。
同居する息子が心配なあまり、息子が仕事中であろうがデート中であろうが頻繁に電話を入れ、無事に家に帰れば抱きしめてキスをし、「アモーレ」「テゾーロ」を連呼するのですから、「親との同居」という点では日本と変わらなくても、イタリアのそれが「マザコン」と呼ばれても仕方がないのでしょう。
「マザコンであること=モテない」の図は必ずしも成立しない
というわけで、しつこいマンマの愛情表現に付き合っている男たちはたいてい優しく、女性に対しても自然で紳士的な立居振舞を身につけています。
困っていればさっと手助けをしてくれる男性が多いので、女性たちもついクラクラっときてしまいます。
ただし、逆にマンマがなにもかもしてくれるので気づかいが足りないまま大人になってしまった男性も少なくありません。
ただし、逆にマンマがなにもかもしてくれるので気づかいが足りないまま大人になってしまった男性も少なくありません。
恋愛当初はそのあたりの柔らかさで大いに盛り上がっても、あまりのマザコンぶりに女性が愛想をつかす、という例は枚挙にいとまがないのです。