2019年4月16日 更新

近代日本の財政破綻の危機を救った蔵相・高橋是清は、転職魔だった

江戸末期にアメリカ・オークランドで牧童をしていた高橋是清は、職業を転々とした三十年余の年月を経て、明治三十二年には日銀副総裁に栄進し、日露戦争や世界恐慌の勃発により日本が財政破綻の危機的状況に陥ったなか、戦費調達や金融・財政政策に辣腕を振るい国家の破綻を救いました。 この間の転職歴は十数回におよび、ときには遊びで身を持ち崩したり、事業の失敗で失業するなど人生の辛酸をなめましたが、その生き様の中でどのような軌跡を描き人生の成功者となっていったのでしょうか?

芸妓の男衆まで成り下がった高橋是清にも人生の転機が訪れます。横浜時代の知人からの唐津藩英学校教授職の誘いで、まさに天佑ともいえました。高橋是清は顔合わせの意味も兼ね吉原遊郭の金瓶大黒で唐津藩家老との晩餐に臨みました。
宴には小少将という花魁が顔を見せ、宴の後、小少将は初会の客であった高橋是清を金瓶大黒にある彼女の座敷に招きました。小少将は高橋是清に何か感じるものがあったのでしょう。
高橋是清が小少将の座敷に入ると、床の間に当時洋学者の垂涎の的であった原書のウエブスターの大辞書やガノーの理学書などが並び是清を驚かせます。遅れて入ってきた小少将は高橋是清に話し始め、「この吉原は貴方の来る所ではない。貴方は大いに勉学して世に出なければいけません。二度とここへは来ないように。」と諭したのです。
吉原遊郭という苦界に身を沈めている小少将に意見をされた高橋是清は我が身の振る舞いを大変恥ずかしく思い、その後二度と放蕩の道へと踏み違えることはありませんでした。

3転職魔だった高橋是清

高橋是清の前半生は、牧童、芸妓の男衆、英語教官、文部省通訳、英語学校長、翻訳業、農商務省官吏、鉱山開発経営、日銀職員、正金銀行員など10を超える多種多彩な職種・職業を経験しています。何故このようなことが可能だったのでしょうか?
(1)語学の才を生かした高橋是清
明治時代は雇用システムがまだ確立していないため、高橋是清のように英語力など高度に専門的なスキルを持つ人材の引き抜きが活発に行われていました。
高橋是清の経歴を見ると、その英語力を買われての転職が過半を占めており、雇用の流動性が低い当時でも、訴求効果の高い専門的スキルを身につけることは求職に有利だったと言えます。
(2) 自己研鑽でキャリアアップした高橋是清
明治二十五年、日銀総裁に請われ日本銀行に入行した高橋是清ですが、金融・財政についての知見が皆無であったため、大蔵省内外法令集や英字経済誌・新聞・論文など関係資料を渉猟して自己研鑽に努め、明治二十八年横浜正金銀行に転出後は、為替業務の実務の習練を積み重ね、その金融・財政に関する該博な知見をキャリアアップしていきました。
(3)高橋是清の信条―「仕事に誠心誠意であたり、仕事に安んずる」
「仕事に安んずる」とは、与えられた仕事の環境・条件に不平を持たないことを意味します。
この信条の本旨は、自分に与えられた仕事に誠心誠意であたることにより他の人からその仕事の中味が評価され、その評価は仕事をした人への信用となり、この信用の積み重ねがその人にとって大切な財産となることを意味します。
高橋是清は、著書「随想録」の中で、仕事に不平不満を持ち、仕事を軽蔑してかかる者は決して仕事に成功することはないと断言していますが、高橋是清の転職履歴を見ると、受け入れ先も高橋是清の信条を踏まえたそれなりの人物評価、実績評価をしたうえで採用していることが垣間見えます。
近代日本は、高橋是清のような型破りの人物を受け入れるだけの社会構造の柔軟性・受容性のある時代でした。そして、その時代の求めに応えて数度にわたる財政破綻の危機を救った金融・財政政策のエキスパート・高橋是清は、その波瀾万丈の人生とともに近代日本を語るうえで欠かせない人傑と言えます。
【参考文献】
高橋是清「高橋是清自伝」(中央公論新社)、高橋是清「随想録」(中央公論新社)
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