2017.7.28
老人は柔和な笑みを浮かべながら悠然と僕の目の前に立っていた。
(からかわれているのか? それとも本気なのか? もし本気だとするなら……何か目的があるはずだ……。 目的? どんな目的があるんだ……?)
老人は、僕がさっきまで座っていたベンチまで歩くとフワリと優雅に腰をかけた。そして話をおもむろに再開した。
老人は、僕がさっきまで座っていたベンチまで歩くとフワリと優雅に腰をかけた。そして話をおもむろに再開した。
「お金というのは不思議なものでね。人はそれを持った瞬間に選ばされるんだよ。それを使うか?使わないか? 使うんだったら、何に、いつ使うのか?
でも、ほとんどの人間はそんなことは考えもせずに、衝動的に使ってしまう。
今、必要なんだから、『今』使う、とね」
でも、ほとんどの人間はそんなことは考えもせずに、衝動的に使ってしまう。
今、必要なんだから、『今』使う、とね」
僕はただ老人の話を聞くしかなかった。ジョーカーと名乗るこの老人の迫力に気圧されていた。
「君は、まず求めているものとは違うものを間違って買いそうになった。それから、 今ということにこだわって、もっと安く買える選択肢を自ら捨てた」
「……はい。おっしゃる通りですが、僕は、一 刻も早く暖まりたくてここから動きたくなかったし、自販機の表示も薄暗くてよく見えなかったんです」
「君は、まず求めているものとは違うものを間違って買いそうになった。それから、 今ということにこだわって、もっと安く買える選択肢を自ら捨てた」
「……はい。おっしゃる通りですが、僕は、一 刻も早く暖まりたくてここから動きたくなかったし、自販機の表示も薄暗くてよく見えなかったんです」
「お金で間違いを冒す人間の九割は、 タイミングと選択を間違えるんだよ」
老人は、僕の言い訳めいた言葉にそう返した。
「お金の扱い方を間違える人のほとんどは、そのことに気づいていない。人のせいにしたり、天候や気温のせいにしたりする。そして、同じ間違いを何度も冒すんだ」
「お金の扱い方を間違える人のほとんどは、そのことに気づいていない。人のせいにしたり、天候や気温のせいにしたりする。そして、同じ間違いを何度も冒すんだ」
この老人に今の僕が置かれた状況と今の気持ちをがわかってたまるか!
「でも、余裕がなかったんです。あなたの言う通り、近くのスーパーまで行くのすら、さっきの僕には億劫だったんです」
「お金というのは、本当に不思議でね。もしも、一銭もなければ、君はミルクテイーなんて欲しがっただろうか? 諦めてさっさと家に帰って、やかんを火にかけてお湯でも飲んでいたんじゃないのかい? わずかなお金を持っていたばかりに、君は正常な判断を下せなかったようだ。人はお金を持つと理由もなく使いたがるようだ」
「でも、余裕がなかったんです。あなたの言う通り、近くのスーパーまで行くのすら、さっきの僕には億劫だったんです」
「お金というのは、本当に不思議でね。もしも、一銭もなければ、君はミルクテイーなんて欲しがっただろうか? 諦めてさっさと家に帰って、やかんを火にかけてお湯でも飲んでいたんじゃないのかい? わずかなお金を持っていたばかりに、君は正常な判断を下せなかったようだ。人はお金を持つと理由もなく使いたがるようだ」
何をバカな!
あまりに失礼な物言いに僕は怒りを込めて反論しようとしたが、次の瞬間、老人はさらりと言ってのけた。
あまりに失礼な物言いに僕は怒りを込めて反論しようとしたが、次の瞬間、老人はさらりと言ってのけた。
「今の君は 100円程度のお金も扱えない男なんだよ」
この老人は、僕をコケにし続けているが、ここまでバッサリ言われると、反抗する気力がなくなってくる。
「まぁまぁ 、すまないね。育ちが良くないせいか、言葉が荒っぽかったようだ」
「…いえ、いいです。ご老人のおっしゃる通りですから」
「人は、お金を持つとそれを使いたがると言ったね。大型家電やテレビ、もしくは新築住宅や新車、そのどれを売ってるセールスマンも、迷ってる客相手には同じことを言っ てくる 。
「まぁまぁ 、すまないね。育ちが良くないせいか、言葉が荒っぽかったようだ」
「…いえ、いいです。ご老人のおっしゃる通りですから」
「人は、お金を持つとそれを使いたがると言ったね。大型家電やテレビ、もしくは新築住宅や新車、そのどれを売ってるセールスマンも、迷ってる客相手には同じことを言っ てくる 。