2019年11月1日 更新

日本人ノーベル賞受賞者が出た「電池」次世代電池の研究開発最前線は?

11月11日は「電池の日」。10月9日、「リチウムイオン電池」開発の功績で吉野彰博士がノーベル化学賞を受賞しました。「全樹脂電池」「リチウム空気電池」「全固体電池」など次世代電池の開発競争もますます盛んで、最前線では日本人科学者も活躍しています。

2019.11.1

リチウムイオン電池の開発で吉野彰博士がノーベル化学賞受賞

11月11日は「電池の日」。イタリアの物理学者ボルタが最初の電池を発明したのは219年前の1800年でした。自動車で使われる鉛蓄電池は1859年に、乾電池は1888年に発明されました。生活の中でおなじみの電池ですが、新技術の開発競争はまさにハイテク最前線で、10月9日、「リチウムイオン電池」開発に貢献した功績で旭化成名誉フェローの吉野彰博士がノーベル化学賞を受賞しました。
何度も充電できるリチウムイオン電池は、ニューヨーク州立大学のスタンリー・ウィッティンガム博士が1970年に原理を発見し、テキサス大学のジョン・グッドイナフ博士が電極材料を改良し、吉野博士が電極の改良とともに簡単に発火しない安全性を確立して実用化の道を開きました。
この3人の博士がノーベル化学賞を受賞しました。最初の製品が発売されたのは1991年で、現在はスマホから電気自動車まで幅広く使われています。
リチウムイオン電池は「小型・軽量でも大きなパワーが得られる」「充電、放電を繰り返しても容量が目減りせず寿命が長い」「自己放電しにくい」「酷暑、酷寒の地でも使える」「リチウムは塩水湖に大量に埋蔵され低価格でつくれる」といった優れた特徴があり、そのおかげで広く普及しました。
しかし、「いや、まだ物足りない。もっといい電池をつくれないのか?」という産業界、社会のニーズは尽きることがありません。それに応えようと、世界中の科学者、技術者が、リチウムイオン電池に取って代わる次世代のイノベーションを生み出そうと、研究に、開発に懸命に取り組んでいます。もし人の生活を一変させたり、地球環境問題の解決に大きく貢献するような画期的な電池が発明されたら、再びノーベル賞を授賞されるでしょう。

純国産の次世代電池「全固体電池」とは

リチウムイオン電池の「次」を狙う次世代電池開発プロジェクトに「全樹脂電池」「リチウム空気電池」「全固体電池」があります。
「全樹脂電池」はリチウムイオン電池と原理は同じですが、電気を蓄える部分や電極などの材質が異なります。リチウムイオン電池では正の電極に金属のコバルト、負の電極に炭素素材が使われますが、全樹脂電池はほぼ全てが樹脂(高分子材料)でつくられます。同じ大きさならリチウムイオン電池のほぼ2倍のパワーが得られ、電気自動車(EV)に向いています。リチウムイオン電池と比べて部材が少なくなる分、材料コストはほぼ2分の1で、製造工程が簡素化されるため工場の設備投資額は数十分の一ですみます。
全樹脂電池を考案し特許を取ったのは当時、日産自動車に勤務していた慶應義塾大学の堀江英明特任教授で、2018年10月に慶大発のベンチャーキャピタルの出資を受けて量産化技術を確立する新会社APBを設立。共同開発先の三洋化成工業も出資しました。実用化が近い純国産の次世代電池です。

「リチウム空気電池」「全固体電池」も有望

全樹脂電池と同じリチウムイオン電池の改良型に「リチウム空気電池」があります。リチウムと空気中の酸素の化学反応を利用するので「空気電池」と呼びます。重さはリチウムイオン電池よりはるかに軽く、1回の充電で長く使えるのでドローンの電源や、ウエアラブル端末や体内医療機器のIoT(モノのインターネット)用電源に向いています。
原理が発表されたのは1996年ですが、2013年から国家プロジェクトとしてつくば市の国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)が欧米と競争しながら研究開発を進めています。充電時間の問題、寿命の問題などの課題は残りますが、2018年4月にはNIMSとソフトバンクが「先端技術開発センター」を設置し、2025年頃の実用化を目指しています。
21 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

プチプラの次は?フォーエバー21の破綻に見るファッション業界の行方

プチプラの次は?フォーエバー21の破綻に見るファッション業界の行方

断捨離した後の服の行方を考えたことがありますか。経済的な成長の裏にはほとんど犠牲が伴い、堅調な成長を見せるファストファッション市場もその一例です。しかし今、利益追求を優先しすぎたファストファッション業者のモラルと、消費者の良識が問われる時期がきたようです。
経済 |
欧州経済の「日本化」が進んでいる?今後最も避けたい3つの恐怖

欧州経済の「日本化」が進んでいる?今後最も避けたい3つの恐怖

9月12日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が発表した総合的な金融緩和策では、欧州の低成長と低インフレの長期化を阻止するのに不十分であると市場の評価は冷ややかです。いかなる金融政策を講じても経済回復に至らない「低成長」「低インフレ」「デフレスパイラル」という日本化が本当に欧州圏で進んでいるのでしょうか。
今年の秋は10月からスタートする米国企業の業績発表に注目

今年の秋は10月からスタートする米国企業の業績発表に注目

最近では、トランプ大統領の中央銀行への圧力や世界的に広がる貿易戦争などのトピックスに対して反応が鈍くなっているように感じます。一方で、景気の弱さと企業業績の不透明感が徐々に台頭していることについてはニュースとしてあまり取り上げられてないので知られていません。
ウェルネスブームが世界中で止まらない!4兆ドルの経済効果と背景

ウェルネスブームが世界中で止まらない!4兆ドルの経済効果と背景

マインドフルネスをはじめとした、ウェルネス(健康を維持、増進させようとする生活活動)に興味を持つ人が増えつつあります。ウェルネスツーリズム、アプリなど新たな商品が出回り、今やウェルネス産業の市場規模は4.2兆ドル以上。このブームの実態や背景、昨今のトレンドについて解説します。
経済 |
米中貿易摩擦は来年まで引っ張れば、中国のほうが有利になる

米中貿易摩擦は来年まで引っ張れば、中国のほうが有利になる

アメリカ大統領選の歴史を振り返ってみると、勝利の方程式はやはり経済が好調であるということです。2020年11月の大統領選までのスケジュールから判断すれば、トランプ大統領は遅くとも直前の2020年7-9月期のGDP(速報値は10月末頃の発表予定)で3.0%以上の成長を達成し、経済が好調であることをアピールしたいところです。そこから逆算すると、6月がタイムリミットになります。

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

STAGE編集部 STAGE編集部
お金の教養講座
お金と投資のセミナー情報(無料)

お金の教養講座

おすすめ

お金の教養講座

⼤⼈として知っておきたいお⾦の知識。
⼈⽣そのものを充実させるためのお⾦の基礎講座

月5万円で資産1億円を目指すゴイチセミナー

1億円を作った人が実践してきた「資産運用のルール」を真似しよう


ファイナンシャルアカデミー公式SNS