2019.7.16
自分の店を持つ夢は甘いが、現実は厳しい
外食企業で料理人や店のマネージャーを務める人に「将来の夢は?」と聞くと、「お金を貯めて自分の店を持つことです」という返事が返ってくることが、けっこうあります。
しかし、独立・起業の夢が夢で終わることもありますし、念願かなって自分の店を持ってもあっけなく閉店・廃業し、借金を抱えて人に雇われる身に逆戻り、ということもあります。コンクールで賞を取った腕ききの料理人でも自分の店を廃業させることはあります。味だけで勝負できるほど甘くはありません。
なぜ、そうなるのでしょう? その一つに「自分の店を持つと、稼ぐ前からお金がどんどん出ていく」という事情があります。人通りが多い駅前のような好立地は、設備が整った外食店舗を借りるための権利金が非常に高いのです。店の改装費用もかかり、従業員を雇えば人件費もかかります。開店前にちゃんと宣伝をしないと、お客さんは来ません。
そのようにコストがかさみ、経営の損益分岐点が高くなるので、開店後に客足が途絶える「氷河期」がやってきたらアッと言う間に赤字経営に陥り、あせって打った集客作戦も裏目に出て結局閉店という道をたどりかねないのが現実です。どんな繁盛店も、どこかでそんな大ピンチを乗り越えて、今があります。
「店を持つリスクがそんなに高いのなら、独立しても店を持たずにやったらいい」
「えっ?」と思うかもしれませんが、冗談ではありません。外食には店舗を持たずに起業する方法があります。ひっくるめてそれを「アウトソーシング系外食業態」と呼びます。
「えっ?」と思うかもしれませんが、冗談ではありません。外食には店舗を持たずに起業する方法があります。ひっくるめてそれを「アウトソーシング系外食業態」と呼びます。
ニューヨーク発祥の「ゴーストレストラン」
「ゴーストレストラン」をご存知ですか? 幽霊が出そうなガラガラの料理店ではありません。「存在しているが、店としての姿は目に見えない」という意味でゴーストと名付けられています。料理人はいます。メニューもあります。お客さんから注文を受け付けます。
しかし実店舗はありません。料理はスピーディーに客席ではなく、お客さんの自宅や職場に配達されます。届けるのは、個人がマイカーに乗せて収入を得る「ウーバー(Uber)」のような、スマホ、ITを活用したデリバリーサービスです。
「ピザや寿司の宅配と同じだ」と思うかもしれませんが、もっと幅広く、レストランで出す料理と同じものを届けます。たとえばボルシチを頼めば、さめないうちに配達します。
これは外食店の客席をお客さんの自宅や職場にアウトソーシングするようなものです。それなら店舗も、客席も、ウェイターやウェイトレスも必要ありません。会計的に言えば、容器代や配達をアウトソーシングする委託料はかかりますが、店舗の権利金もテナント料も、改装費も、テーブルや椅子の購入費も、接客係の人件費も必要ありません。極端に言えばキッチンさえあればいいので、家庭のキッチンを使って営業することもできます。アウトソーシング系外食業態のゴーストレストランなら、独立・開業しやすいわけです。