2019年7月16日 更新

実店舗がない「ゴーストレストラン」が外食ビジネスの常識を変える?

実店舗がないゴーストレストラン、シェアキッチン、クラウドキッチンのような「アウトソーシング系外食業態」のような、自分の腕やアイデアを試したい人が低コスト、低リスクで独立・起業できます。アメリカ・ニューヨーク発のトレンドですが、日本にも上陸しました。

ゴーストレストラン発祥の地は、不動産の家賃やテナント料がべらぼうに高いアメリカのニューヨークです。自分の店を持つための敷居は高いが、「それでもニューヨークで腕を試したい」という若い料理人が始めました。

調理はシェアキッチン、クラウドキッチンで

ゴーストレストランでも、キッチンは借りなければなりません。ニューヨークで広いキッチンつきの部屋を借りるには、これまた高い家賃を払わなければなりません。そこで若い料理人たちは考えました。
「レストランが営業していない深夜から午前中にかけて、そのキッチンを使わせてもらえないだろうか?」
レストランが、商売敵になるかもしれない人たちにキッチンを時間貸ししてくれるでしょうか? しかし、彼らの熱意を買ってイエスと言う店が現れるのが、ニューヨークという街のふところの深さ。借りる方はレストランの設備が整ったキッチンが使えます。貸す方は営業外の時間にレンタル料が得られます。これが「シェアキッチン」と呼ばれるアウトソーシング系外食業態で、シェアキッチンのニーズを狙ってキッチンを時間貸しするビジネス「レンタルキッチン」も生まれました。
また「クラウドキッチン」というアウトソーシング系外食業態もあります。クラウドキッチンは個人住宅の「マイキッチン」で料理をつくり、それを中間業者を介してお客さんに提供します。つくるのはプロの料理人の「在宅勤務」や「副業」もあれば、主婦の「内職」もあります。育児に忙しい専業主婦も、リタイアした高齢女性も、得意の料理の腕前を活かして収入を得ることが可能です。
ゴーストレストランの中にはキッチンすら持たず、お客さんの注文をシェアキッチンやクラウドキッチンにつないで調理を外注(アウトソーシング)しているところもあります。外注先が多ければ時間に縛られず、注文が集中しても対応しやすくなります。また、フードデリバリーサービスの「ウーバー・イーツ(Uber Eats)」や「GrubHub」は配達だけでなくオンライン注文の受付も請け負ってくれるので、ゴーストレストランがやることがメニュー開発、外注管理、品質管理、ブランド管理、広告・宣伝、財務・会計など、大手外食企業で言えば「本部」機能に絞られる可能性もあります。そこまで〃バーチャル〃になれば、経営者は料理人でなくても、外食産業の経験が全くなくてもよく、優れた起業家がこの業界に参入しやすくなります。
腕が超一流でも、創作料理のアイデアにあふれていても、ビジネスのセンスには欠ける料理人であっても、「看板シェフ」としてゴーストレストランから調理をアウトソーシングされ、逆に外食店舗経営のビジネスのリスクをアウトソーシングすることで、低リスクで独立・起業を果たせます。なぜなら、「自分の店を持ったら何でもやらないといけない」ではなく、「自分が得意なことだけをやっていればいい」ようになるからです。
ゴーストレストランの代表は、14のブランドを持ちニューヨークやシカゴで営業する2013年創業の「グリーンサミットグループ」です。ドイツのベルリンや東京にも上陸し、東京都内ではカレー専門の「6curry(シックスカレー)」がシェアキッチンとウーバー・イーツを利用して営業中です。2019年5月には複数のゴーストキッチンが入居する「キッチンベース」が東京・中目黒にできました。
このアメリカ発のトレンドが将来、世界の「食」の地図を塗り替えるかもしれません。

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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