2018.11.19
ゲーリー・ギンズバーグ氏とは何者か
孫社長が最も必要としているのは、世界的なコネクション作りと政治的イメージの向上ではないでしょうか。その両方を可能にするのがゲーリー・ギンズバーグ氏です。
ギンズバーグ氏(56歳)はクリントン政権の顧問弁護士を務めた後、「メディア王」と呼ばれる、ルパート・マードック氏の側近として、ニューズ・コーポレーションの役員も務め、その後は2010年から今年の6月までタイム・ワーナーで広報役員として活躍しておりました。
また、ブラウン大学からの友人であるケネディ・ジュニアが創刊した高級誌『George』(現在は廃刊)の法律顧問兼編集も務めていたこともあり、ケネディー家とも関わりを持っています。
ギンズバーグ氏はユダヤ系アメリカ人であり、現イスラエル国首相、ベンヤミン・ネタニヤフの友人として、スピーチライターをしていたこともあります。ユダヤ系のコネクションもかなり強力ということです。
孫社長がギンズバーグ氏を迎えた狙いとして、ニューヨーク・タイムズではソフトバンクグループが抱える現在の懸念事項をまずは「Image-Maker」としてスムーズに解決してもらうことではないかとみています。
政治的なイメージ向上
懸念事項の一つは、ソフトバンクグループが今後、柱としようとするテクノロジー投資事業、ソフトバンク・ヴィジョン・ファンド(SVF)が設立2年目にして政治的な窮地に立たされたということです。
しかし、政治的なイメージの問題をどう乗り切るかのアドバイスは経歴から見てもギンズバーグ氏が得意とするところではないでしょうか。
原因はSVFが誇る約11兆円という世界最大規模の資金源の大半がサウジアラビアのムハンマド皇太子が会長を務めるサウジアラビア政府系の公共投資ファンドによるものだということです。
ムハンマド皇太子は10月にサウジアラビア人記者、ジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件で世界中から非難を受けており、サウジアラビアを資金源とするSVFのモラルや将来性も問われ、ソフトバンクグループの株価が急落するという事態になりました。
この問題に対し孫社長は11月5日のソフトバンクグループの決算説明会で、サウジアラビアからの資金は、サウジアラビアが石油だけではない多様化した経済を作るために預かったサウジアラビア国民からの資金であると、純粋な一般国民に対する責務があるという事に焦点をあて、今後もサウジアラビアとビジネスを続けていく意向を述べました。
上手い方向へ問題点をそらし、一時的には落ち着かせた様子です。しかし、今後もこのような政治的な問題に巻き込まれる可能性を見込めば、ギンズバーグ氏の存在は心強いでしょう。
アメリカで5Gネットワーク競争を勝ち抜く
孫社長が今とても手こずっているのが、2013年に買収した米携帯電話会社、スプリントとそのライバル会社、T-Mobileを合併させることです。
それは5Gネットワーク競争に勝ち抜くという目標を達成するためです。このためにも、ワシントンに強いつながりをもつギンズバーグ氏の力が必要となるのです。
実は、2013年にもT-Mobileの買収を試みたのですが、米政府側から却下された経緯があります。
再度挑もうと孫社長は2017年にT-Mobileの合併交渉に乗り出しました。一時、経営権で折り合いがつかず難航しておりましたが、2018年5月にソフトバンクグループが持ち株率27%と、経営権を放棄する形で合意しました。
現在は米政府の承認待ちで、ギンズバーグ氏の根回しに期待するというところでしょうか。
アメリカでどうしても5Gネットワークに関わりその競争に勝ち抜くという目標を優先させるのならば、とにかく2社で力を合わせる必要があり、また、T-Mobileのジョン・レガー社長の経営手腕に委ねることは、戦略的に有利だと考え、経営権を譲る形でも合意をしたのではないでしょうか。
なにしろ、T-Mobileのジョン・レガー社長の経営手腕は世界的にも評価が高く、孫社長自身も今回の合併交渉で身をもって実感したことでしょう。
また、スプリントが抱えていた純有利子負債の約3.4兆円(2017年末)をT-Mobileに渡すこととなり、財務面でもメリットがあるようです。
ソフトバンクグループは手を広げ過ぎで投資家にとっては先が読みづらい、などと言う声もあります。しかし、あの手この手で「群戦略」をモットーに情報革命の可能性を限りなく広げていく孫社長のヴィジョンにはブレはありません。
参照:
https://group.softbank/corp/irinfo/presentations
https://www.nytimes.com/2018/10/31/business/dealbook/softbank-gary-ginsberg.html