2020.1.10
「リエゾン」は、軍隊では出世のステップ
「リエゾン(liaison)」という言葉を聞いたことがありますか? フランス語で子音と母音を続けて発音する「連音(リエゾン)」(例:子どもたちLes enfantsは、レスアンファンではなくレザンファン)はけっこう知られていますが、それだけではありません。
英語の辞書には「連絡」「つなぎ」「橋渡し」「仲介」などの意味が載っていますが、軍隊には昔から「連絡将校(リエゾン・オフィサー/liaison officer)」という下士官がいました。連絡と言っても、第一次大戦当時のドイツ軍でアドルフ・ヒトラーがやっていたような“人間伝書鳩”の「伝令」ではありません。
陸軍と海軍や、異なる連隊・師団間、他国の軍隊との間で共同作戦の調整を図り、時には相手の意向をくんで上司の幹部将校に作戦の部分的な変更を働きかけることもあります。ふつうは相手方に常駐して「顔の見える関係」を築き、所属先を代表してその意向を伝えて「根回し」をしながら、相手の司令官から「弾薬が足りない」などの情報や作戦への意見を聞き、持ち帰って調整もしながら作戦のスムーズな遂行につなげます。所属先の意向をゴリ押ししてもダメ、相手の言うことを「はいはい」と聞きすぎてもダメという、気をつかい、頭もつかうような役回りです。
日本の政治でいえば、意見が対立する与野党の調整を図って「落としどころ」を探る政党の「国会対策委員」が近い存在でしょうか。
連絡将校は、たとえば第二次大戦の「ノルマンディー上陸作戦」のような多国籍、陸海空の大規模作戦で勝利に貢献しましたが、現代の軍隊でもその重要性は変わりません。そのため、どこの国の軍隊でも、いずれ参謀本部に入って軍のトップに立つようなエリート将校にとって、連絡将校(リエゾン・オフィサー)は一度は経験するステップで、士官学校でもそれに必要な勉強を課しています。リーダーシップや作戦立案や情報収集(諜報)などの勉強と並んで、重視されています。
企業は「リエゾン型人材」を求めている
さて、ビジネスの世界は昔から軍隊の組織や方法論をよく取り入れてきましたが、経営をうまく回すには、現場でリーダーシップを発揮して指揮をとる「司令官タイプ」も、社内や外部との調整をうまくこなす「連絡将校タイプ」も、両方必要です。
“現場主義”のゆきすぎで、目標達成の実績で起用された押しの強い司令官タイプばかり経営陣に揃ってしまうと、組織がバラバラになる危険をはらみます。トップの意をくんで、フットワーク軽く現場の当事者の間を取り持って、話をよく聞き、なだめすかし、時には説得して意思の統一を図ることができるような人材は、どんな業種のどんな企業でも、社内のどんなポジションであっても必要とされます。それを「リエゾン型人材」と呼びます。
現代の企業には取引先、株主、労働組合、消費者など多くの利害関係者があり、利害は複雑にからみあいます。また、業界団体との間、業務提携先や買収企業との間、監督官庁など政府機関や地元の自治体との間、産学連携先の大学や研究所との間、NPOのような各種団体との間、マスメディアとの間など、会社の立場を説明しながら調整を図らねばならない相手も多くなっています。
経済社会の複雑さが増す中で、スムーズな関係を築くスキルを持つ「リエゾン型人材」の重要性はますます高まり、活躍の場はひろがっています。