2017年12月20日 更新

〈渋澤 健〉家庭も、経営も、社会も、長期の時間軸で考える 〜効率だけを追求しない、渋澤健の人生論

渋沢栄一さんという資本主義を日本に持ってきた方から5代目にあたる渋澤健さん。「論語と算盤」をテーマに経営塾を開催するほか、ご自身でも日本に長期投資を根付かせようと「コモンズ投信」を提供しています。いま51才の渋澤さんに、これまでの人生を振り返り、現在のご自身の生きる軸となった考え方やご自分への投資、得てきた資産、そして未来についてお話をお聞きしました。

2015.3.28

長期投資の起点は、長男誕生がきっかけ

神原
まず、個人向けの長期投資の視点から運営している「コモンズ投信」についてお話を伺いたいと思います。金融のスペシャリストであり、ヘッジファンドなどで、ある意味、短期間ですごく成果を求められるビジネスをされてきた渋澤さんが、何故「長期投資」、それも個人による投資に興味を持ったのでしょうか?

渋澤
子供の成長と共に長期的にできることを考え、株式がいいのではと思い、インデックス投資をやろうと思った。それが長期投資との出会いでした。
38歳で結婚し、39歳で長男が生まれたとき、子供の健康やしつけ、教育などを考える中で、子供のためになにかできないかと考えて、思いついたのが積み立てでした。定期預金でも良かったのですが、それでは芸がない。子供たちが大きくなって海外留学をしたいとか、事業を立ち上げたいといったときに、「これ、使えよ!」とかっこいいお父さんになりたかったんですね(笑)

神原
個人の子供への思いで始めた長期投資が、ご自身の事業に発展していったわけですね。日本では数少ない個人向けの投信の販売というビジネスは、日本において新しい分野だったと思います。そういう新しい市場を立ち上げていく難しさ、厳しさもわかったうえで、あえて事業としてチャレンジした理由は?

渋澤
ほんとうにいろんな要素が重なり合って、会社を設立するまでに飛躍したんです。
僕は仕事としてはヘッジファンドなどの業務を通じて、資本市場の参加者としてやってきましたが、2002年に経済同友会に入会して、初めて資本市場というものを経営者の立場から見るようになりました。
そのとき感じたのは、「少なからず、ファンドを嫌っている経営者がいる」ということでした。

経営者の立場から見て感じた「時間軸の違い」

神原
経営者の方もそれなりに金融の知識を持っていると思います。その経営者が、ファンドを嫌う理由はなんなのでしょうか?

渋澤
資本市場の「効率性を追求する時間軸」と、経営者の「企業の持続性を追求する時間軸」が合わないのではないかと思ったのです。
資本市場の立場から見ると、ある程度株価が上昇して、オーバーヴァリュー(割高)になれば売る、というのは当然のことなので、自分は当然と思っていたのですが、一部の経営者の方から「ファンドはすぐ逃げてしまう。長期的に付き合っていくお金じゃない・・・」「ファンドは、自分が弱っているときにドーンと入ってきて、調子よく上がってきたら逃げて・・・」と指摘されました。
自分の会社が市場から評価されて株価が上がることを嫌がる経営者はいないと思うのです。
でも、ファンドというのは、投資家から大切なお金をお預かりして、その投資家の期待に応えなければいけない。ファンドマネージャーのパフォーマンスや評価は、IRR(収益率)をいかに「より高く」「より短期間に」高めたかで決まる世界です。
一方経営者は、「私の最大の仕事は、次の後継者を見つけること」であり、「資本の効率性というのは分かる。でも、会社は機械じゃない」と考えています。
結局、資本市場と経営者は、縦軸(収益性)は両者合っていたのだけれども、横軸(時間)は合っていないのだと思いました。

未来の可能性は、無駄の中にあるかもしれない

渋澤
時間軸を考えていく中で、「効率性」についても「絶対的に良いことなのだろうか?」と考えるようになりました。
機械論・生命論、と言う考え方があります。機械論は「効率的に物事を動かしましょう」という考え方。一方、生命論は、「生命が宿り、体全体を循環しています」という考え方です。パーツ論じゃなく、全体論です。
そんな中で、経営においても、無駄を排除する効率性よりも、その無駄とか矛盾の中には、未来の可能性がたくさん含まれているのではないかと考えるようになりました。

神原
現在の経営においては、“いま”強い事業のフォーカスをして、非採算部門や利益率の低い事業を売却してしまうということが多いようです。企業にとって無駄にみえるそれらに、なにか可能性を感じているということでしょうか?

渋澤
はい。実は生命って、無駄だらけ、矛盾だらけなんです。これを投資の世界に置き換えた場合、例えばどこかの会社が、非常に無駄に見える研究をやっている。「訳のわからない研究をしていて、それ、どういう価値を創造するのですか?」と聞いても、そのときは分からないのです。
でも、だからといってすべて機械論、効率的・短期的の方向に向いてしまうと、将来咲くであろう花の種を蒔くこともできないし、もしかすると捨てているかもしれない。もしかするとその混沌とした研究や、捨ててしまった種や無駄の中に、次の、その企業が大発展するヒントがあるかもしれないと考えるようになりました。

神原
なにが金の卵なのかわからないが、どこかにその卵があるかもしれないんですね。それを効率化だけを考えて捨ててしまっては、逆に将来の成長の可能性がなくなるかもしれない。

渋澤
はい。こういったものを育てるには、長い時間軸で事業や会社を評価し、それを支える資本が必要なのです。そういう長い時間軸で使えるお金が自分の資源としてあれば、企業との対話が出来るんじゃないか。では、長期の時間軸を支える資本は誰が出すのか。
これまでのファンドの経験からすると、それは組織ではなく、個人だろうとの考えに行き着いたのです。それが、長期投資指向の投信会社「コモンズ投信」を立ち上げたきっかけでした。

「利己」が「利他」となり、未来に還元される

渋澤
「利己」と「利他」という言葉がありますね。
あるフォーラムで、「利他」というのは生命論的にいうと「種族の持続性」に強く関係している、という話を聞きました。
「種族の持続性」とは、つまり「家族の持続性」です。私たちのコモンズ投信は、「家族の持続性」をテーマにしているんだと気づきました。
つまり、自分の子供や孫という「利己」の持続性は、「利他」につながるんだということに気づいたのです。

神原
お金があろうとなかろうと「家族」を大切に思う気持ちには変わりありませんよね。「家族」を大切に思う気持ちを「利己」だと考えると、家族を大事に思うなら「利他」として投資をしませんかということだと思うのですが、どのように「利他」が「利己」につながるのでしょうか?

渋澤
例えば、家族のために、積み立て投資をはじめてみませんかと呼びかけています。それが長期的な資本として社会に回ることになるのです。持続的価値を創造する企業に投資すれば、子供たちが大人になった時に、その企業は豊かな世の中の形成に貢献していると期待できます。
お金は、生命論のように経済全体を循環していきます。家族のための投資、つまり「利己」のお金が「利他」につながり、そして自分の子供の「利己」に戻ってくるというわけです。一方、「他」に流されて、「己」という軸がなければ、結局、「他」の利にはなりえません。

渋澤さんにとっての「資産」とは?

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