2017年6月8日 更新

十年一昔で片付けていいのか?

アメリカで、政権交代をきっかけに「十年一昔」と言わんばかりに、ある出来事から10年も経たないのに大切なルールが見直しになりそうです。

2017.2.27
先日まで1週間ほど寝込んでしまいました。原因はインフルエンザです。布団で悪寒に震えながら、「いつ以来だろう?」と記憶をたどれば14〜5年ぶりぐらいだと思い出しました。

さて、今日の話はインフルエンザの「十年一昔」ではありません。アメリカで、政権交代をきっかけに「十年一昔」と言わんばかりに、ある出来事から10年も経たないのに大切なルールが見直しになりそうです。私は、これをきっかけにいずれリーマンショック級の景気後退が再来するかもしれないと心配しています。ということで今も悪寒が走っています……。
トランプ大統領は、2017年2月3日にドッド・フランク法廃止(俗にいうボルカールール)の大統領令にサインをしました。これは、公約通りなのでサプライスではありません。しかし、このボルガールールの制定趣旨を考えると、本当に廃止でいいのかとても疑問です。
このルールは、大きな金融機関の破たんをキッカケとする経済危機をもう二度と繰り返さないためのもので、リーマンショック後の2010年7月に制定されました。リーマンショックのときに、各国の政府が一番苦労したのが、大きな金融機関が経営不安になっても影響が「大きくてつぶせない」ことでした。経営不安の責任は、本来は経営者と株主にあるのに、いざとなれば規模が大きいことと社会的に影響力が強いことを盾に、国民の税金を投入することで保護されたことに世界中から非難が集まりました。
そこで、ボルガールールの導入で金融機関の監視を強めました。特に、銀行や証券会社は、自社の資産運用のために、自社の資金でリスクを取って金融商品の購入や売却、取得や処分を行うことを禁止し、また、銀行自らのデリバティブ取引、商品先物取引、ヘッジファンドへの出資、未公開株ファンドへの出資等を制限しました。これで、金融機関が投機に暴走することを抑えることに成功しました。
さて、このような厳しい規制が金融機関や経済の成長を阻害しているということで、今回廃止になるということのようです。でも、今のアメリカの経済は停滞しているのでしょうか? この規制が導入された前の年、2009年4月以降から現在まで7年半も戦後で3番目の長さの経済成長を謳歌しているではありませんか。それよりも、米国のリセッション(景気後退)の歴史を振り返ると、多くの場合は金融危機が原因になって起こっています。この規制の撤廃で、タガの外れた金融機関の利益主義がリスクになる気がしてなりません。
さらに心配なことがあります。新聞の報道によると、トランプ大統領は、個人の資産運用について金融機関が個人向けに助言する際、投資家保護を徹底する「受託者責任ルール」の導入を見送るように大統領令として署名したそうです。
このルールは、今年4月から導入される予定でした。受託者責任とは英語でFiduciary Dutyといいます。簡単に説明すると、「金融機関の担当者は、自分の利益より顧客の利益を優先させる義務がある」というものです。投資信託や金融商品を販売するには、顧客投資助言契約を結び、受託者責任を負う。それにより、無責任に手数料の高い金融商品を販売することを抑制するということを目的にしていました。しかし、この大統領令で金融機関の手数料を稼ぎやすい、どうでもいい金融商品が全米中に広がる可能性が再び高くなりました。まさにデジャブです。
なぜ、ここまで私は懸念しているのでしょうか? それは、リーマンショックが起こった背景に似ているからです。
改めてリーマンショックはどのような流れで起こったかを思い出してみましょう。本当であればなかなか自宅を買えない層にサブプライムローンを貸し出して家を買わせ、そのサブプライムローンをブラックボックスで化粧直しして、投資、販売をしまくった金融機関が自作自演で巻き起こした金融危機でした。
では、今回はどうでしょうか? ルール改定で、また投資家を欺くような金融商品が出回り、それをさらに複雑な投資商品にした販売競争が始まると、前回と同じようなことが起こっても何ら不思議はありません。何故ならば、金融機関は稼げるときに稼ぐのが本能だから、つい前の悪い記憶は忘れ同じことを繰り返してしまうからです。
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渋谷 豊 渋谷 豊
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