2017年12月25日 更新

「価格の決定力がブランドの力を決める」第12章[第24話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

2017.12.15
 平成23年11月11日22時
 季節は初冬というのに、それほど寒さは感じなかった。やはり成功話をするのは気分がいい。書店に成功者の書いた本が溢れているわけだ。なぜだか、気持ちが高揚してくる。
 老人も黙って話を聞いていたようだ。何を考えているんだろう。ふと、老人の方を見ると、彼は目を閉じたままだった。
「……ご老人、…ジョーカーさん」
「あ、すまん。ちょっと寝てたよ」
「……え?」
「この年になると、成功した話には飽きてしまって……」
 ジョーカーは、ふと時間を見るように左腕の袖をめくった。
「稼ぐ額も飛躍的に上がり、君たちはずいぶんと潤った。それなのに……というところだったな。
君は当時の自分を振り返って何を考える?」
「う~ん、色々と思うところもありますが、大旨、うまくやっていたつもりです」
「そうか、君には、金を持ったとき人の本性が現れるという話をしたな。だが、今まで聞いたところによると君の良いところが出ているようだ。君は、余裕もできて周りを見渡せるようになった。その状態はとても良いことだ。
 お金を持つことで現れる良いことは、自由にできることが増えるということと、余裕ができることなんだ。余裕があれば、人間は冷静になり、間違いを冒さない」
「はい、その通りだと思います」
「君はいくつもの危ない橋を渡りながらも、周りの協力者に支えられ、うまくやってこれた。だが、問題はそこからだったんだね」
 ジョーカーさんの言う通りです。
 当時、二店舗を合計した月の売り上げは一千万円を越えていましたから、たった二店舗でも年商一億二千万円の飲食チェーンのオーナーです。
 銀行を辞めた当初、「元銀行員が客商売やったって絶対うまくいかない」という人もいました。でも、人間死ぬ気でやれば、なんとかなるもんです。
 クリームおにぎりの人気は安定してきたように思いました。それなりに認知度もあがりました。
 他に従業員のアルバイトを雇う余裕もでき、僕も毎日お店に出なくても、お店は回るようになっていましたね。
 コンビニで「おにぎりのコラボ商品を出す」という話が持ち上がったのは、二号店が軌道に乗って、しばらく経った頃でした。大谷がある大手コンビニチェーンに話を持ちかけたら、二つ返事で、ぜひ、やらせてほしい!となったということでした。
 コンビニにとっては、評判のいいおにぎり屋の特殊なおにぎりというのが、新鮮で良かったんでしょうね。米角ブランドを売り込む絶好のチャンスでした。
 でも、僕はこの話がきたときに、正直迷いました。だから、葉山と大谷を呼び出して、二人で会合を持ちました。
 大谷はもちろん賛成、葉山は反対、僕は態度を決めかねていました。
 コンビニから提示された条件は契約金二五〇万円でロイヤリティは売り上げの一%。なかなかの好条件だったと思います。
 ただし、共同開発というものの、実質クリームおにぎりのレシピを渡すことと、価格決定権はコンビニ側にあるというものでした。ここにひっかかったのです。
 大谷は今は何よりも認知度を上げることが大切だということを僕らに説きました。
 葉山の反対理由はレシピを渡してしまうことだったようです。やはり苦心して作った会心作ですからね。その気持ちもわかります。
 でも、僕がひっかかったのは、コンビニに価格決定権があるという点です。コンビニ側としては、おにぎり売り場の売り上げを上げるために、米角のクリームおにぎり人気に便乗しようとしている。そして、コンビニのおにぎりの価格帯としては、きっと二〇〇円前後で発売するつもりだったんでしょう。
 二〇〇円で売られているコンビニのおにぎりがあるのに、三〇〇円出して僕らの店で買うだろうか?
 そして、大谷のこの話に乗ろうという気持ちもわかる。まだまだ全国的な知名度がない今、コンビニでクリームおにぎりがヒットしたなら、一気にクリームおにぎりを全国展開させることも夢ではないだろう。米角ブランドヘの寄与効果は計り知れない。
 僕は選択に迫られました。そして、散々悩んだあげく、この話は断ることにしました。
    *
「その決断は、米角のトップとして考えた結果なのかね?」
 老人は間髪をいれず、僕に聞いた。
「はい 、その頃には僕は米角に関するすべての決定をして、その責任を負う立場になっていました」
 老人は、納得をしたのか、うなずくとまた話を聞く姿勢をとった。
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泉正人 | ファイナンシャルアカデミー 泉正人 | ファイナンシャルアカデミー
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