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「自分らしく生きる」ことに本気になれば、奇跡は誰にでもおとずれる(杉山知之)

2015.11.23

ますますデジタルが発展する未来に、コンピュータと共存しながら、私たちが人間らしく生きるには、どうすればいいのか――。デジタルと人間のあり方の変遷を40年以上にわたって世界の最前線で見てきた、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏。2015年10月12日(祝)に開催された「お金の教養フェスティバル2015」での講演から、21世紀の「人間らしい生き方」のヒントを学ぶ。

■アメリカで見た「21世紀」を日本でも創りたかった

僕はいま、61歳。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスよりも1つ年上です。ずいぶん長い間デジタルの進化を見てきました。僕が大学生のころのコンピューターは、大きな部屋に1台がどかーんと置いてあるようなものだった。いまはそれをみんながスマートフォンとして持っている時代です。

大学は、日本大学理工学部建築学科で、建築音響を学んでいました。スピーカーから出る音のビジュアライゼーションについて研究していたんです。音を測定し、コンピューターグラフィックスで可視化することで、多目的ホールの壁の角度やデザインを決めていく。卒業後、大学の助手となって、その研究を8年間続けました。

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そんな中、僕の運命を大きく変えるチャンスが訪れました。

世界トップレベルのデジタルコミュニケーション研究所、MITメディア・ラボへの派遣が決まり、3年弱、アメリカに行くことになったんです。当時の日本はバブル期。国内に大きな研究所を作るために「アメリカの研究スタイルを学んできなさい」と。これが、後にデジタルハリウッドを設立するきっかけにつながります。

帰国して2年後の1992年。いよいよ日本に戻って研究所を立ち上げるというときに、なんと計画が白紙になってしまったんです。バブル崩壊でした。でも、もとの生活に戻ろうにも、戻れない。なぜなら、自分がMITメディア・ラボで見てきた世界はもう完全に21世紀だったのに、日本の研究はそうじゃない。そのギャップに戸惑いました。このままじゃ僕が見てきた未来を日本で表現することができない。だったら、自分で学校を作ろう。そして、1994年にデジタルハリウッドを株式会社として設立したんです。

本当は、すぐに大学院を作りたかったけれど「大学院はこういうものだ」という、日本独特の規制がある中で、まったく新しい形の大学院を作るのは難しかった。でも、当初からきっといつかチャンスが来ると思っていた。そしてチャンスが来た。2004年に小泉純一郎さんが政権をとって構造改革特区が生まれたことで、これまで株式会社では作れなかった大学院を、文部科学省に認可を審査してもらえることとなり、そこから半年で夢だった大学院を開校できたんです。

翌年、四年制大学も作りました。東京は、ゲームやアニメの本場です。だから、世界中から問い合わせがくるんですよ。油絵をやろうと思えばパリ、現代アートならニューヨークに行こうと思うのと同じです。だから、デジタルだけでなく、英語も基礎からしっかり学べるようにという想いから、大学院だけでなく、大学も作ったんです。

■“世界で何が起こっているのか”を知ろう

アメリカでの研究や、留学生の受け入れを通して思うことですが、皆さんには“世界で何が起こっているのか”を知っていただきたい。“Fact you should know”、つまり知っておくべき事実って、たくさんあるんです。

1899年、ガソリン自動車よりも先に、電気自動車が存在していました。当時の最高速度は105.9キロ。速いですね。それが2015年現在、518キロを出せるようになりました。100年で5倍です。

一方、コンピュータはどうでしょうか。1982年に発売されたPC-9800から30年後の2012年、パソコンの性能がどれだけよくなったのか計算してみたんです。そうしたら、なんと、コンピュータは30年前から100万倍も進化していたんです。

これは「半導体の集積度は18ヶ月ごとに2倍」というムーアの法則とほぼ一致していました。最近の発展を見ると、じつは10年間で10万倍ぐらいのペースなのです。そこで「2045年問題」が出てきます。コンピュータと全人類ができることが同じになってしまう、という未来なのです。

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たとえば、ニューヨークのがんセンターに、ワトソンという人工知能型コンピュータがあります。ワトソンは、60万件の医療報告書、150万件の患者の記録、200万ページの医療雑誌のデータなどを全部覚えている。目の前の患者の状態を見て「この人にはこの治療法がよい」という提案をしてきます。とんでもなく勘のいい医師でないとやれないことを簡単に超えてしまうんです。

近い将来、車はぶつかることがなくなると言われますよね。人を察知して車が勝手にブレーキを踏んでくれる。すでにドイツでは、ベンツのトラックが無人で走行したり、日本でもトヨタが無人運転の実験を始めている。いろんな夢が、もう夢ではなくなっているんです。

■すべてのことをデザインし直さなければならない時代

「コンピュータとネットワークが空気のように存在している新世界」。それが21世紀です。僕は“Re-Designing The Future”という言葉を25年ほど使っています。デジタルが発展を続けていくなかで、新しい環境を活かしていくためには、すべてのことをデザインし直す必要ある。いま、そんなフェーズに来ています。

人間は太古の昔から、変化する環境に適応することで進化してきました。コンピュータも、僕たちの社会にとっては、付加価値ではなく、環境そのものなんです。このコンピュータの発達によって、いつの間にか全人類は、“気づかないうちに新大陸に上陸しちゃった”というくらい環境が変わったんです。

親子関係や人間関係も、昔とは大きく違います。学校にいる子どもと常に連絡が取れる。会社を立ち上げるのにオフィスを借りなくてもいい。最初に登記をして、自宅でパソコンさえできれば、ビジネスができてしまう。

たとえば、ある夫婦が小さな街でお菓子屋を営んでいたとします。近所では美味しいと評判だけれど、町民が少ないから経営がギリギリ。友人たちは「こんなに美味しいのだから東京でお店を出しなよ」なんて無責任に言いますが、そうなったら5,000万円近く必要。そんなお金はありません。

でも、楽天などのEコマースを活用して出店したら日本中で売れる。購入者からのフィードバックをもとに改善していったらさらに売れる。生産が間に合わないからプレハブ工場を建てて、地元のお母さんたちにパートで働いてもらう。自分が生まれ育った大好きな街で、日本中を舞台に好きな仕事ができて、お金もちゃんと入ってくる。そんなことが当たり前のようにできるんです。

あなたは、このようなデジタルコミュニケーションを前提として、ものごとを判断し、人生をデザインしていますか? このことが問われる時代になっているということです。

■コンピュータが人間を支配する時代がやってくる!?

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こういう話をすると、いつかコンピュータが人間を支配する時代がやってくるのではないかという議論になるのですが、僕はそうはならないと思っています。

確かに、デジタルの台頭によってなくなった仕事はたくさんある。たとえば、洗濯機が出てきて、手で洗濯をするという職がなくなったりとか。でも、本質的には毎日同じ仕事を繰り返したいわけではなかったはず。「家族を養うためには、お金を稼がなきゃいけない」と、理性的に感情を押し込めて、毎日同じことを続けるという、そういう歴史が長かったんです。そこから自分を解放して、新しいことに挑戦するって、それはそれで楽しそうだなと思う。それが人間の本来の好奇心なのではないでしょうか。

ルーチン化した仕事など渡せるものは早いところコンピュータに渡して、マシンじゃできないことをもっとやっていこうよってこと。22世紀に向けて、いま問われているのは、人間が本当するべきことは何なのかってことなんですね。

コンピュータに「人間はどんなデザインを美しいと感じるのか」ということを教えたら、80点や90点のものは簡単に創れます。でも、120点のデザインは作れないでしょう。発想の転換やあっと驚くようなイノベーションを興すことも、コンピュータにはできません。スーパーコンピュータもロボットも、自らの意志はまだ持っていません。持てるかどうかも怪しいのです。僕たちが美しいものを見て、「ああ美しい」って脳からドーパミンが出て気持ちよくなるようなことは起きない。人工知能と言っても、自らの意思がある人間とは異なるものなのです。

最後はやっぱり、人間のクリエイティビティ。それを活かせる世界にしたいから、多くの人に学びから、自分の持つ創造性を発見してもらいたいんです。

■本気になれば、誰にでも奇跡がおとずれる

デジタルハリウッドで学ぶ学生は、一度社会に出た経験を持つ人が多いんです。彼らの多くが、学び始めたきっかけをこう言います。「なんとなく社会に出て、ふと立ち止まったときに管理職の先輩たちを見て、あんな風になるために僕は生きていていいのだろうかと思った」と。

毎日がんばって仕事をするなら、好きなことをしたほうがいい。好きなことを仕事にするなんて、世の中そんなに甘くないんじゃないかって思うかもしれませんが、本気になったときの人間の力はすごいです。

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デジタルハリウッドの学生たちには、奇跡が起き続けています。普通のサラリーマンがたった1年後には、信じられないような作品を創るんですよ。26歳まで普通のOLだった女性がデジタルハリウッドでCGを学んだ数年後に、アメリカのロサンゼルスのプロダクションでただ働きを始めた。いまではハリウッドの超大作映画のタイトルシーンやCMを手掛ける会社で、たった1人のアートディレクターとして活躍しています。

奇跡を起こす方法はひとつ。「やってみろ、諦めるな」、以上。

諦めないって、ものすごく重要です。諦めなければ絶対に叶います。だって僕の研究員時代を知っている教授たちは、まさか僕がこうして大学の学長に居座っているなんて、絶対に想像できないですから(笑)

デジタルハリウッド大学から生まれた学発ベンチャーの数は国内で14位です。私立では早稲田や慶応の次なのです。僕らの学校がいいからというより、実は、デジタルコミュニケーションを利用した新規事業って、まだ空席があるんですね。起業しやすい分野なんです、ICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)分野を基盤とするビジネス、とくにサービス業は、まだまだ作れるのです。

これからは、ICTを基盤にしながら違う分野で花が咲いていく時代だと思います。たとえば、デジタルヘルスもそう。農業もそうでしょうね。

そういう意味では、デジタルコミュニケーションを学ぶことはツールを学ぶことであって、ゴールではないんです。お金も同じかもしれません。お金が、世の中でどんなシステムで動いているのかを知って、お金を活かすことで、より自分らしく生きやすくなる。

自分らしく生きる。それは、コンピュータが持つことのできない、人間だからこそ持つことのできる目標なんです。

お金とは、自分らしく生きるためのシステム。
(杉山知之)
デジタルハリウッド大学 学長
杉山知之さん

1954年東京都生まれ。工学博士。1987年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。国際メディア研究財団・主任研究員、日本大学短期大学部専任講師を経て、1994年10月にデジタルハリウッドを設立。2004年に日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」、さらに翌年「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。「新日本様式」協議会、CG-ARTS協会、デジタルコンテンツ協会など多くの委員を歴任。1999年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。

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