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GROWTH   ~ Company & School Report ~

日本酒で「誇り高いものづくり」の実現を目指す(山本典正)

2015.11.30

昨今、女性や海外での人気が高まり注目を集める日本酒。しかし、実際の生産量は、この40年間減少し続け、ピーク時に比べると3分の1となっています。

そんな中、7年前に立ち上げた清酒ブランド『紀土(KID、キッド)』の売上を当初の15倍まで伸ばし、世界最大規模のワイン品評会の吟醸・大吟醸の部では2014年2015 年と連続して金賞・リージョナルトロフィーを受賞している、和歌山県海南市の平和酒造。品質とセールスの両方を向上し続けているチームを率いるのは、専務の山本典正さんです。京都大学経済学部卒業後、東京の人材系ベンチャー企業を経て、ご実家の酒蔵に入りました。

■造り手と飲み手との距離を縮めていく

ー今回は、東京の青山・国連大学前広場で開催されているFarmer’s Marketの一角で開催されている日本酒イベントにお邪魔しました。日本酒や食べ物はもちろん、音楽や器なども楽しめるブースもあり、賑わっていますね。

日本酒マーケット「AOYAMA SAKE FLEA」は2014年9月、2015年6月に続き今回で3回目の開催です。誰でもふらっと立ち寄れることができて、より幅広い方に楽しんでもらうための企画が好評のようです。

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ー平和酒造さんからは、山本さんの他に2人の女性蔵人さんがいらっしゃって華やかです。

蔵人には日本酒セミナーやイベント、試飲販売会など、お客様と接してもらう機会に、積極的に参加してもらうようにしているんです。多くの見知らぬ人と接することは皆にとって易しいことではなく、またコストも掛かることですが、メリットが大きいものです。実際に酒造りをしている人の話を直接聞くことによって、そのお客様にとってお酒はより印象深いものとなります。また、お客様の反応や感想を、造り手がダイレクトに吸収し、反映させることによって製品力が向上します。さらに、お客様の「おいしい」の顔をイメージしたお酒づくりができるようになります。

当社には専任の「営業マン」はいません。あえて言うなら、私だけでしょうか。全ての蔵人がお客様と接する経験を持っているからこそ、そういった仕組みが可能となるんです。

■日本酒造りを夢見て入社した大卒の女性蔵人が、クラフトビールを醸す

ー大手以外の酒蔵では珍しく、大学・大学院の新卒採用を続けられていますね。採用にあたっては何を重視されていますか?

人材採用にあたっては、その人の「可能性」を見ています。あらかじめ「こういう役割を担う人が必要だから」と考えることはありません。集まってきた人を見て、面白いことができるようにフォーメーションを組みます。

昨年から始めたクラフトビールの醸造は、その一例です。「ビールを作ろう」という事業計画があったからではありません。図らずもビール好きの社員が入社したことが端緒となりました。蔵での利き酒の会に、彼女はいつもビールを持ってくるんです。

★ph2東京農工大出身で入社5年目の髙木加奈子さん。
お米作りも愛している彼女は、『紀土』の代表的な
酒米『山田錦』の生産者でもある。

実は私はビールが得意ではなく、自ら進んでビールを飲むことはありませんでした。しかしビール好きの彼女が持ってくるクラフトビールを度々飲むようになり、しばらくたったある夏の暑い日、ごく自然に「ビールが飲みたい!」という感情が湧き上がってきたのです。我ながら驚きました(笑)。そして、彼女の意欲を確認して、ビール醸造を担当してもらい、清酒『紀土』と同じ仕込み水のクラフトビール「HEIWA CRAFT(ヘイワ クラフト)」が生まれました。

■「ものづくりの人」の成功モデルを作りたい

ー「日本酒の蔵人」を越えた仕事の機会があるというのは、造り手にとって刺激的な環境ですね。

企業もまた一つの生命体です。蔵人一人ひとりのポテンシャルを引き出していくことが、継続的な成長の要と考えています。

日本酒造りのトップは「杜氏(とうじ)」といい、多くの酒蔵では、経営者たる「蔵元」と異なる現場監督の役割を果たしています。杜氏は昔ながらの職人気質の方が多く、当社の柴田杜氏とも数年にわたってディスカッションを重ねました。その結果、今や彼が造り手の皆の力を伸ばしてくれるようになり、新しい芽が続々と育ってきています。私が酒造りそのものからは距離を置いているからこそできることもあるようです。

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蔵人には、自身をプロスポーツ選手やミュージシャンと同じと考えるように、と伝えています。好きなことをして生活を営むために何をすべきか、は与えられるものではなく、自ら見つけなければいけません。さらに、期待を寄せてくれる人に、結果で返さなければなりません。我々にとって結果とは、「美味しい」ということです。しかも、必ずしもお客様の望み通りであることが正解ではなく、それ以上、時に、違うアプローチで驚きや感動を与えることも必要です。

日本酒の酒蔵は基本的に世襲制で、販売にも免許が必要な、いわば参入障壁の高い業界です。そのため、外から入ってくる人の成功の青写真というものがありません。私は、日本酒の「ものづくりの人」の成功モデルを作りたいと思っています。成功事例としてモデル化できれば、他も真似し始めるでしょう。外からいい人材が流入してくることが、業界の発展に繋がります。

■良いものづくりを続けることが一番のメッセージ

ーしかし、寒い季節も早朝出勤に夜勤、長時間に及ぶ肉体労働、少ない休日と、決して楽ではない仕事に、全国から若者が集まってくるというのは、一見、不思議に思えます。

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大事なことは、「何を作っているのか」です。良いものを作っているということが良い人を集め、良い人が集まるから良いものが作られる、という好循環が生まれます。業界内のポジショニングもその会社の魅力の源となりますが、どのようなジャンルの、どういうクオリティのお酒を作っているのか、ということ自体が、蔵の在り方を示すメッセージとなります。良いことをし、良い品質のものを作っていると、周りはしっかりと見ていて、メッセージを受け取り、人が集まってきます。

良いものを作る技術を会得するには時間がかかります。潤沢な資金をもって酒蔵を買収したとしても、すぐに成功をおさめるのが難しいのはそのためでもあります。

また、良いものには、良い「質感」があります。お客様は分かっているようで分かっていない、と云われることもありますが、分かっていないようで分かっているものです。良くないものは、自ずと選択しなくなります。高級ブランドを冠したビニール製のバッグが話題となり一時的に流行したとしても、その旬は短いものです。

いざという局面で勝つためにも、常に良いものづくりをしていることが肝要です。

■長期視点に立ち、本業への先行投資を行う

ー『紀土』もそこにこだわり続けてきたと。

日本酒ビジネスは、変化が目に見えるようになるまで時間のかかるもので、まるで大きな船の舵を切るようなものです。『紀土』も7年かかって今、大きな成長を遂げています。

日本酒は決して利益率の高いものではありません。毎年のように多額の設備投資が発生します。それでも私は今年、現在の日本酒の売上規模に比してアンバランスなほど大きな投資を決断しました。

これは先行投資です。ものづくりを本業とする私たちにとって、長期的に確固たる競争力をもたらすものづくりへの投資が最も利回りが高い、と思っているからです。堅調に収益を上げている日本酒以外の商品による現在の利益を、将来の日本酒の可能性に繋いでいきます。

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ー将来の日本酒の可能性をどのように捉えていますか?

今後確実に人口が減少していく中、これまでの大企業を中心とした効率重視の成功モデル一辺倒から脱却し、成長の新しい軸を作っていくことが急務です。まだ人口減が始まっていない東京では実感が沸かないかもしれませんが、地方では確実に人口減による厳しい生存競争が起きています。

しかし過剰に悲観することはありません。日本の各地には素晴らしい文化が残っています。ただし発信力が弱いので、眠ったままです。発信することのポテンシャルはとても高いものだと考えています。

お酒は、地方で戦える可能性を持つ貴重なコンテンツの一つだと思います。今年、万博にあわせてミラノの高級ホテルで日本酒のテイスティングセミナーを行ってきました。その高い評判に、改めて発信することの重要性を感じました。お酒のみならず、着物や器、アートや思想といった日本の文化を発信していくことは、文化に重きをおく外国からの資金流入に繋がります。

■ものづくりは、人にしかできない。

ーこれまで受け身で「発見される」ことに慣れてしまった私たち日本人は、能動的に文化発信することはあまり得意ではありませんよね。

フランスなど伝統産業を活力にしているヨーロッパの国々の事例は、私たちにヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

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例えば、ヨーロッパでは、料理人や手工業者といった職人が国民的スターになることは珍しいことではありません。しかし現代日本における職人の待遇は、恵まれたものとは言い難いです。脈々と受け継がれてきた技術を持つ職人が、このままでは絶えてしまいます。

それは一度失っては取り戻ることのできない不可逆的なものであり、日本文化の多様性を支えてきたものです。ものづくりは、数値化できない、つまりコンピューターでは代替不可能な、とても人間的な活動です。

これからは日本も、ものづくりの人がエリートとして見られ、その生み出す価値に見合った収入を手にできるようになればと思います。

■誇りを抱いて働くと、楽しい。人生が、輝き出す。

ー山本さんにとって「働くこと」とは。

私は実家が酒造りを営んでいたので、若い時から「経営」を見て育ちました。しかし、一般のサラリーマン家庭であれば、大学卒業まで20年以上もの間、お金やビジネスのことを知らないまま、というのは珍しくありません。その状態で、その後数十年にわたるビジネスマン生活の最初の選択をするのですから、最も無難な「つぶしがきく」道を選ぼうとするのは当然です。だから就職してから「何がしたいのか分からない」と困る若者が多発するのも、当然なのです。

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しかし、一度しかない人生を「必ずしもやりたいことではないけれど、働かなければいけない」と思いながら過ごすのは辛いですよね。

平和酒造の蔵人たちは、お客様が「美味しい」と喜んでくれるようなものをづくりに従事しています。彼ら彼女らが同窓会に行くとします。大企業勤務の人は「私はどこそこ(社名)で働いている」と自慢気に話すかもしれません。しかし皆には「私はこのお酒を作っている」と、目をキラキラさせながら言って欲しいのです。

働くことはお金を生み出す行為であり、お金を稼ぐことは経済活動の一部です。その成功モデルは一つではなく、多様なはず。一人ひとり異なっていても自然なことです。「自分の仕事が誰を喜ばせるのか、どのような価値を生み出すものか」を考え、そのために取り組んでいると思えば、働くことが楽しくなり、喜びになります。

働くことが喜びとなると、働いている時間が生き生きとしたものになります。それはつまり、人生が輝き出すということにほかならないんじゃないかなと思います。

「お金とは、繋ぐもの。(山本典正)
平和酒造代表取締役専務
山本典正さん

1978年、和歌山県に生まれる。京都大学経済学部を卒業後、東京のベンチャー企業を経て実家の酒蔵に入る。大手酒造メーカーからの委託生産や廉価な紙パック酒に依存していた収益構造に危機感を覚え、日本酒業界にあっては他に類をみない革新的組織づくりをするとともに、自社ブランドの開発・販売に力を尽くす。一方で、全国の若手蔵元と協力のもと、日本酒試飲会「若手の夜明け」を立ち上げ、2011年から代表をつとめる。代表的な銘柄は清酒「紀土」とリキュール「鶴梅」。著書に『ものづくりの理想郷』(dZERO)がある。
インタビュアー 柴田 亜希子

一橋大学商学部卒業後、米系コンサルティングファーム、米系広告代理店、証券会社、グローバ ル金融グループでキャリアを積んだ後、日本酒の日本・海外での市場拡大の可能性に着目して株式会社 東京酒店 を設立。

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