GROWTH   ~ Company & School Report ~

農業にイノベーションを。「自産自消」で日本と世界を救う(西辻一真)

2016.4.4

農業を通して人生を豊かにする「自産自消」を推進する株式会社マイファーム。国内の耕作放棄地をゼロにすることで日本人の暮らしを充実させ、世界の食糧問題の解決を目指しています。代表取締役である西辻一真さんは、どのようにして農業で社会と世界を変えようとしているのでしょうか。これまでのマイファームの歩みをふり返りながら、語っていただきました。

■食と農業が切り離されていくことに危機を感じて起業した

−農業ビジネスを始められたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

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よく「実家が農家なんですか?」と聞かれるんですが、実はそうではありません。転勤族だったので、子どものころ友だちができなかったんです。そこで、1人で遊べる裏庭での野菜作りを始めたのが5歳でした。大根1本を育てるための試行錯誤は簡単です。太陽の向きに合わせて葉っぱを傾けるとか。でも、農業で100本以上作るとなると、1本1本と向き合えなくなり、農薬や肥料が必要になりますよね。僕自身が経験したように、こうやって農業に触れる機会が減っていくのは寂しいなと。

それと、2006 年ごろ国内で食肉偽装問題があって消費者の農業への不信感が募っていきました。さらに食中毒の流行で、料理教室でも子どもが野菜に触れてられないような時期がありました。これ以上、食と農業が切り離されてしまうと世の中がすさんでいってしまうんじゃないかと感じていたんです。

−食と農業が離れていくことへの危機感が、マイファームを生んだんですね。

そうですね。耕作放棄地の問題も顕在化していたので、使われていない耕地を活用すれば農業ビジネスができるとも考えました。そこで貸し農園事業を始めました。起業当初は、余っている土地なんだから、有効活用するためならタダで貸してくれるだろうと思っていたんですよ。でも、実際は違ったんです。

耕作放棄地というのは持ち主にとっては負債ではなく資産です。資産が、ただ遊休化している状態。だから無料どころかすごく高い金額を提示されたり、断られたりすることがほとんどでした。そんな中で、1年めの売上は160万円。しかも、そのほとんどが関連事業で、農園の売上は少なかった。1年間、僕たちは本業ができなかったということです。

■失敗から学び続けて、ようやく得たメディア出演のチャンス

−どのようにして本業のビジネスを軌道に乗せて行かれたのですか?

よく「農業では食っていけない」と聞きますが、それでは本末転倒です。食べるものを作るんだから、食っていけないはずはない。だから起業前から「必ず食いつなぐ」という覚悟をしていました。そこで、創意工夫しながらガムシャラに続けたんです。自治体の貸し農園は年間1万円程度なのに、僕たちは6万円。安価に農地を貸してもらえないので仕方ありません。そこで「野菜作り教室」にして、受講料として買ってもらうことにしました。

チラシを作り、テレビ局や新聞社に持ち込んで受付で渡しまくったりして。もちろんなかなか相手にしてもらえなかった。でもある時、テレビ局のデイレクターさんが「これじゃ取り上げないよ。メディアが欲しいのは社会的課題を解決・改善するサービスだ」と教えてくれたんです。耕作放棄地の活用は社会の問題なので、それを伝え始めたところ、メディアで取り上げてもらえるようになりました。

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−メディアに取り上げられたことで、お客さんが増えていったのですね。

はい。1度のメディア出演でたくさん問い合わせをいただきました。その中から、マイファームを借りたいというお客さんが8組。現在は3700組。北海道から沖縄まで全国に121カ所の農園を貸しています。「自産自消」が当たり前の社会に少しずつ近づいていると実感しています。

一般的に「自産自消」とは「自分で作って自分で食べること」と言われますが、マイファームが目指すのは、そこではありません。野菜作りの中で家族の絆や自然の脅威を感じること。そう言ったプロセスがすごく大事だと考えています。野菜作りのプロセスを通して、喜びや気づきをどんどん得てもらいたい。「食べること」は結果でしかないんです。

■世界中で農業のイノベーションを起こす人材を育てる

−スクール事業のアグリイノベーション大学校は、どのようなところなのでしょうか。

農業界には、圧倒的に経営能力が足りません。経営を理解した人たちが参入すれば、絶対にイノベーションが起こります。そこで、アグリイノベーション大学校では、卒業後に農業にイノベーションを起こす人材を育てています。

アグリイノベーション大学校で大切にしていることが3つあります。1つめは情熱を持ってくること。2つめは、経営能力を身につけること。3つめに、大切な仲間と過ごすことです。

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−「農業」という言葉がないんですね。

そう。農業技術というキーワードは入っていません。プロ技術は学校で学ぶことではない。農家の方々から学んで欲しいんです。

スクール事業としては、卒業生がいかに農業に定着するかをKPI(業績評価指標)にしています。卒業生が活躍することで、次の世代も入ってきます。そうやって世代を越えるからこそ農業が変わっていく。世の中に対しても「こうやって農業って変わっていくんだ」と感じてもらいたいです。

−卒業生の方々は、西辻さんのビジョンにあるように実際、活躍されているんですか?

はい。現在までに700名ほど卒業しています。そのうちの半数は農業ビジネスに携わっています。残りの半分は、趣味として農業をしています。入学する際の動機が「農業変えたい」、「農業が好き」という方ばかりなので、それぞれ活躍していらっしゃいますね。地元に帰って農業を通して雇用を増やしたりして。

野菜作りを越えて、畜産農家を始めた人なんかもいます。もともとビジネスセンスがある上にプログラミングができる方なのですが、以前畑を訪れた際にも「スマホひとつで牛がこっちに来るんだよ」と見せてくださって。スマホのスピーカーから鳴る音に集まってくるんですよ。「これで遠隔にいても育てられるんだ」と言っていました。営業が得意で、肉牛の売り方が上手なので、高級焼肉店とどんどん契約してビジネスを拡大していらっしゃいます。

−それはうれしいですね。アグリイノベーション大学校に対して、今後どんな展望をお持ちですか?

日々、集積し続けている農業に関する知識や経験をどんどんシェアしていきたいです。その知見が世界中のいろんな所に飛び散って、世界各地でイノベーティブな農業をしていく人が増えると嬉しいですね。今、タイのプーケットや韓国からLCC(格安航空)で2時間かけて通っている人もいるんですよ。卒業生の中には、チリでワインを作っている人もいます。世界で活躍してほしいので、テキストはすべて英語と日本語の併記なんです。

そんな風にネットワークが広がって、世界中でアグリイノベーション大学校を卒業した人たちが活躍している状態を作りたいです。そうすれば、世界の食糧問題などにアプローチできるんじゃないかと思っているんです。

2050年には、世界の人口が90億人から100億人になると言われています。今、地球で作られる農産物の面積から計算すると食料が確実に足りなくなります。対策として、さまざまな人がいろんな取り組みをしていますが、僕たちは「貸し農園」がリスクヘッジになると考えています。

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■お金は自然からのいただきもの。稼ぐにはリスクがつきもの

−未来を見据えて、個々が行動しなければならないということですね。

その通りです。まずは、日本国民みんなが畑を持てればいいなと思うんです。もちろん、仕事が忙しくて管理できない人も多いはずなので、そうであれば僕らが管理すればいいと思うんですよ。しかも無料で提供したい。貸し農園が、昔で言う別荘のような憩いの場所になると確信しているんです。

今、耕作放棄地は国内に40万ヘクタールもあるんですね。それを国民の1人1人に分け与えられればいいのに、と思います。週末にリフレッシュしたいときや心が疲れたとき、僕らが紡いだ畑があって、自分の農園に戻ったら僕らが笑顔で迎えたりして。そういうことが平和な世界を創っていくと思っています。

−素敵な夢ですね。農業に限らず、独立を目指す人にアドバイスをいただけますでしょうか。

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お金は、自然からのいただきものです。漁業も農業も畜産も全部、自然からの恵みをもらってお金に変換する作業です。自然の恵みをお金に換えるには、必ず時間などのリスクが伴いますよね。何をするにしても、リスクを冒さず日常の延長線上で夢が叶うということはありません。前職での経験や資産があることにあぐらをかかず、知識も経験もゼロだと思って取り組むこと。ゼロならガムシャラにがんばれます。

起業をして、事業を軌道に乗せて行く時に大事なのは「躊躇しないこと」だと思うんですよ。僕らがチラシを配りまくって、ようやくメディアに取り上げてもらえたように。ハングリー精神を持って始めてください。

お金とは、自然からのいただきもの。(西辻一真)
株式会社マイファーム代表取締役
西辻一真さん

1982年福井県生まれ。2002年京都大学農学部に入学後、2006年に株式会社ネクスウェイに入社。2007年9月に株式会社マイファームを設立、代表取締役に就任。2010年、平成22年度の農水省の政策審議委員に就任。2013年、耕作放棄地の再生をめざし農業の楽しみを教え、広める株式会社マイファームを設立し、代表取締役に就任。著書に『マイファーム 荒地からの挑戦 農と人をつなぐビジネスで社会を変える』(学芸出版社)。
ホームページ:http://myfarm.co.jp/

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