STYLE   ~ Life & Money ~

「いいもの探し」はもうしない―。ミニマリストが次に見据えるキーワードとは?(沼畑直樹)

2017.1.30

ウェブサイトや著書などで、“ミニマリズム”という生き方とその哲学を発信する沼畑直樹さん。日本各地で暮らし、旅してきた経験から少しずつ研ぎ澄まされてきたミニマムな生活が確立したのは、4年前の片付けがきっかけだったとか。沼畑さんが心地よく生きるためのプライオリティと、これから見据える暮らしについて聞きました。

■例えようのない清々しさが原体験

――はじめに、沼畑さんが「ミニマリズム」という価値観とご自身のライフスタイルを結び付けたきっかけについて聞かせてください。

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ミニマリズムという概念を強く意識するようになった一番のきっかけは、2013年の秋に今住んでいる家を片づけたこと。特に大きな理由はないのですが、妻の「モノを捨てたい」という一言がきっかけで、本気でモノを極限まで減らすことに挑みました。さらにさかのぼると、2011年の初頭に、たまたまある雑誌でドイツ人文学研究者の「究極にモノの少ない部屋」を目にしたとき、例えようのない清々しさを感じたという影響も大きかったですね。

――今日伺っているこの部屋は、沼畑さんの生活空間でもあるのですよね。本当にシンプルでスッキリとした印象です。

はい。できるだけモノが目につかないように収納しています。そして、何も置いていないテーブルの上で、自分でドリップしたコーヒーをゆっくりと飲む時間が至福の時間になっています。モノが多い空間で同じことをするのとは、まったく違う感覚を味わえていると思います。

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この家自体も妻と娘と3人で暮らすにはコンパクトで40平米程度。でも、日当たりがよく、僕たち家族にとっての心地よさの条件は十分に満たしてくれる住まいです。

「ミニマリスト」というと、単に部屋を片付けてモノを減らす人と捉えている人も多いようですが、僕の場合はモノを減らした先の「その空間で何をするか」という部分がとても大事なんです。

■ただ空を見つめる時間の豊かさを知った学生時代

――モノではなく、人生で過ごす時間の質を重視されているのですね。今の考えに至るまでには、どんな価値観を持っていたんですか?

振り返ると、20年以上前、20代の頃にすでにミニマリズムを体験していました。当時は、ミニマリストという言葉さえ知られていない頃でしたから無意識のうちに。

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札幌から画家を目指して美大を受験するための美術学校に通っていたんですが、「画力をいくら身につけても、描きたい対象を知らなければ意味がない」と考えて“体験”を求める旅に出ました。荷物はリュック一つで、お金もない。日本の各地を回りながら感じたことを詩や写真に表現するようになりました。そして辿り着いたのが沖縄の久米島で、海に浮かんでただ空を見つめる時間の豊かさを味わって、心からの幸福感を実感したのもこの頃です。

その後、那覇の放送局で働いた後、東京の代官山に引っ越してきて、新宿の出版社で働いていました。そして、今の吉祥寺の家を買ったのが33歳の時。初めて自分の持ち家を持ったことで、その頃は物欲が今よりもずっと強かったですね。

吉祥寺はショッピングも楽しい街ということもあって、週末には「何かいいものはないかな」とぶらぶらと歩く。何か欲しいものがあるのではなくて、買い物自体が目的になっていて、いつも「いいもの探し」をしていましたね。置き場所を考えずに衝動的に雑貨を買って、持ち帰ってから困ったり。無意識にモノを買い続けると、モノが増え続けていくというシンプルな事実に無自覚で、漫然と買い物をしてはすぐに使い飽きてまた買う……というのを繰り返していました。

――今の買い物のスタイルとはずいぶん違いそうですね。

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まったく違いますね。今は、そもそも「何かいいものはないかな?」と探すことすらしない。自分の今の暮らしとすでにある持ち物を見つめていて、「部屋のこのコーナーに置きたい、こういうモノが欲しい」とイメージを具体的に持って、そのイメージどおりのモノに出会うまでは買いません。欲しいモノのイメージが明確だから、出会った時には迷わず買う。値札を見ることもしません。買い物の切れ味が鋭くなったと思います。

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例えば、「洗濯物を干す時に、タオルが紺色で統一されていたら気持ちがいいだろうな」と思ったので、それまであったいろいろな色や柄のタオルを全部捨てて紺色のタオルを新調する。「車のシートを茶色の単色本革にしたい」とイメージが明確になったら、すぐに車を買い替えることはできなくても、手始めに鞄を茶色の革のものに変えて助手席に置くとか。自分が過ごしたい空間に持ち物を近づけていくんです。

■モノを買うことには人生を変えるほどのパワーがある

――イメージを明確にしてから買う分、手に入れたモノは長く使うということですか?

もちろん大切にはするんですが、持ち続けることにも執着しないんです。捨てる時は思い切って捨てます。

なぜかというと、一つのモノを捨てて、新たなモノを入れるという行動は、人生にとって“変化”だからです。習慣や日常を変える可能性がある。モノを捨て、モノを買うというのには人生を変えるほどのパワーがある。そう考えると、お金の使い方も変わってくると思うんですよね。

ミニマリストになるかどうかは別として、一度、自分が普段どれくらいのモノを買っているのか、それがどれほど欲しいモノなのかをセルフチェックしてみると気づきがあると思います。自分の物欲を把握してコントロールできる人生と、漫然と買い続ける人生とでは、大きな差が出るのではないでしょうか。

――きっと沼畑さんにとって買い物は“投資”のような感覚なんですね。これからの人生の時間を豊かにするものかどうかを吟味して決める行動という意味で。

そうですね。普段、モノは滅多に買いませんが、例えば「この部屋に和楽器があったら、より人生が豊かになるかもしれない」と思ったら、たとえ数十万円したとしても迷わず買うと思います。あまり買わないから、一つひとつの買い物の意味が深まる気はしますね。

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■身の丈に合っていると感じていることが大事

――仕事についてはどうですか? モノは減らしたくても、仕事や収入は増やしたいと考える人は多そうですが。

僕の場合は、ある程度でいいという考えです。従業員を何人も雇って会社を大きく成長していくことにモチベーションを感じていなくて、個人としての信頼を積み上げていけたらというタイプ。
「ある程度稼げればいい」というのは豊かな日本という国だから言えることだとは思いますが、若い頃に比べたら日々の生活を送っていくくらいの収入もあるし、貯蓄もあるし、自分としては満足しています。

お金は結局数字で、比較によって「高い」「低い」と評価されるもの。僕の収入を「たったそれだけでいいの?」と感じる人もいれば、「そんなに稼いでいるんですか」と感じる人もいるでしょう。でも、僕自身が身の丈に合っていると感じていることが大事なのかなと。

――きっと、ご自身が満足できる生活コストを知っているから、「これだけあれば十分」と安心できるのでしょうね。

そうかもしれませんね。もともと節約主義で、すごく高いものを買う消費にあまり興味はないんです。妻も同じ価値観で、自分たちが暮らしていけるミニマムな生活を知っているから、どんな給料でもやっていける自信があります。この家だって、中古で買ってリフォーム代を含めても2,500万円。周りが6,000万円のタワーマンションを買っている頃でしたから、ずいぶん安く済んでいるほうですね。

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とはいえ、若い頃には新商品を追い求めている時期もありましたよ。カメラマンの仕事をしていたこともあって、特にカメラの新機種が出ると気になりましたね。でも、ふと気づいたんです。もしかしてメーカーに踊らされていないか?と。冷静に考えれば、持っているモノで十分に目的はかなえられることは案外多いんじゃないかって。世の中の不動産の物件価格も落ち着きましたし、「これ以上のスペックはもう要らない」と感じ始めた消費者が増えているのかもしれませんよね。

――なるほど。最後に、これからの10年で目指す生活のキーワードは何ですか?

ローカリズムに興味があります。例えば、この吉祥寺の街には住み始めて10年が経ちますが、この土地のことを何も知らないことに愕然とすることがあるんです。今の季節に月がこの家のどの方向に沈むかとか、近所の家の庭の果実がいつたわわになるかとか。そんなローカルな情報は世界の大多数の人にとっては何の役に立たないものですが、だからこその贅沢さを感じるんです。京都のような古い街には、そういうローカリズムが息づいているし、それをわかっている人を大事にする文化があるような気がします。

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自分だけに役立つ情報を集めて、身近な人と共有していく。そうすることで生まれる時間はきっと豊かなものであるはずです。ということで、今晩も、近所の商店街の焼鳥屋さんの暖簾を初めてくぐってみる予定です(笑)。そうやって少しずつ、自分しか知らない行きつけの店を増やしていけたらいい。ある映画監督が自宅の近くの居心地のいい喫茶店を応援するために足しげく通って買い物をするという話を聞いたことがあるのですが、そういうお金の使い方って素敵だなと思います。

特定の地に深くつながる、というのは、ミニマリストの価値観に近いとされる「ノマド」のライフスタイルとは対極にあるものかもしれませんが、人生を豊かにする可能性はすごく感じます。それも出身地の地元ではなく、東京の吉祥寺という街で始めるということに心地よさがあるのかもしれません。

近所付き合いが苦手だった僕の、新しいライフスタイルの挑戦が始まりそうです。

お金とは、嫌いな人が見当たらないモノ。(沼畑直樹)
最小限主義者 既婚ミニマリスト 
沼畑直樹

北海道札幌市で生まれ育つ。画家を志望し、国内各地を旅した後、沖縄・久米島に暮らす。那覇の放送局勤務、都内の出版社勤務を経て、コンテンツ制作会社テーブルマガジンズを設立。2014年、編集者の佐々木典士氏と共にウェブサイト「ミニマル&イズム」を立ち上げる。小説、写真など幅広く表現活動を行う。著書に『最小限主義。〜「大きい」から「小さい」へ モノを捨て、はじまる”ミニマリズム”の暮らし〜』など。

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