TALENT   ~ Special Interview ~

新たな挑戦と継続が、未知なる世界を拓く(渡部 建)

2017.3.9

お笑いコンビ、アンジャッシュの渡部建。「王様のブランチ」の新MCに決定するなど、MCにゲストにテレビで見ない日はないほどの活躍ぶり。またグルメ、高校野球など多趣味でも知られ、その趣味を仕事にしてしまう天才でもある。果たして渡部建は生き馬の目を抜く芸人の世界で、いかにして今のポジションを築き上げてきたのか?その道程を紐解いていく。

■デビューの頃、いつ芸人をやめてもおかしくない状況だった

― 駆け出しの頃、仕事は順調だったんですか?

「21歳で芸人になったんですが、デビュー当時はもう全然ダメでしたね。ライブや番組のオーディションはありましたけど、オーディションなので仕事ではないですよね。10連休とか当たり前の毎日でした。今考えると、とっくに芸人をやめてなければいけない状況でしたね。

仕事がなかったので当然生活も厳しくて、当時は年利30%近くでしたけど、消費者金融で借金していました。給料を全部返済にまわしても元金がぜんぜん減らないんです。

当時付き合っている子にもお金を借りていたし、親にも『歯医者行くからお金くれ』って嘘ついたりして、もうボロボロの状態でした。その後、全部返しましたけど、今考えると本当にダメでしたね」。

―芸人の世界においてスタイリッシュで几帳面なイメージのある渡部建。しかし、そのスタートは前途多難。成功のカケラも見えないどん底からの船出だった。

■救ってくれたのは、先輩芸人の熱い想い

― そのような辛い状況で不安にはならなかったんですか?

「もう不安も不安ですよ。20代後半になって、相方の児嶋が本気でやめようとしたんですが、その時に先輩芸人のX-GUN西尾さんが説得してくれたんです。『ネタもウケてるし面白いんだからやめるな。お前らが解散するんだったら、俺らも解散しなきゃいけなくなるし』と。その先輩の熱い想いを受けて、あと一歩のところで踏みとどまったんです。当時、児嶋に『やめよう』と言われていたら、あの頃の僕なら『いや、続けよう』という根拠はどこにもありませんでした。確実に芸人をやめていたと思います。

だから、西尾さんには本当に感謝してるんですけど、いまだに会うと『あのとき俺がいなかったら、お前ら今いないんだから』と。普通はシャレで『100万くれ』とか言うじゃないですか?でも西尾さんは『月に5万くれ!』と。そのリアルなお願い何すか!って(笑)。でもそのおかげで今がありますね」。

―成功の糸口さえ掴めず、あきらめかけた時に得た先輩の言葉。何も見えてはいなかったが“続ける”という選択肢を選んだ結果が、次につながった。

■芸人としての転機は、テレビじゃなくてラジオの帯番組だった

― 仕事が順調に回り始めたのはいつ頃だったんですか?

「2004年、31〜2歳の頃に『エンタの神様』などネタ番組のブームが来たんですよ。一気に営業の仕事も増えて、レギュラー番組も増えて、もう天下取ったぐらいの調子こきまくりの時期でした。

でも、そんなにうまくはいきませんでした。バラエティ番組にバッと呼ばれて、一通りいろんな番組に出させてもらったんですけど、ぜんぜん結果が出せない。だから徐々に出演が減っていって、また仕事のない毎日に舞い戻ってしまいました。

そんな時にJ-WAVEの『PLATOn(プラトン)』という帯番組のオファーが来たんです。「月曜から木曜、夜10時から12時までやりませんか?」と。お笑いの仕事でもないしコンビの活動もできなくなるからと躊躇したんですよ。でもマネージャーがせっかくのチャンスだからというので受けたんです。

そこが、転機というか、第2の修行期間になりました。2007年から3年間やったんですが、そこで1,500人ぐらいの方にお会いできたんです。そして『PLATOn 』が終わってラジオからテレビに戻ってきたら、勝手に「物知りキャラ」になっていたんですよね。お笑いの仕事とは少し違うナビゲーターの仕事が図らずも大きな財産になったんです。

しかも相方の児嶋にとっても予想外の転機になったんです。自分だけがテレビに出て忙しくなった時に「児嶋は何もない」、「児嶋は暇だ」というのがキャラクターになったんです。そこで今のみんなが児嶋をいじるというフォーメーションができあがりました。

『エンタの神様』でブレークした状態のままで行っていたら、今はもう消えてえいると思います。2人ともお笑い芸人としての変なプライドがあったんですが、それをちゃんと捨てられたのが良かった。しっかり自分たちを見つめて、お笑いじゃ敵わないからやれることを必死にやろうと思えたのが、転機につながりました」。

― ネタ番組でブレークしたものの、そこで頭打ちに……。芸人としてのプライドをかなぐり捨てあらゆることに取り組んだ結果、意外なところから道が開けた。キャラが弱いと言われ続けてきたアンジャッシュは図らずも「物知りキャラ」「いじられキャラ」という武器を手に入れることとなった。

■他の芸人さんがやらないことにBETしたら、道が開けてきた

― デビュー当時のままだったら、今の自分たちはなかったということですね。

「もともと不器用だし、キャラクターもないし、しゃべり下手なんですよ。ゴルフで喩えると、ドライバーが全然飛ばなかったから、それを諦めてスコアメイクだけを考えることで上達できた。もしドライバーが飛んでいたら、気持ちはいいかもしれないけれど、スコアがまとまらなかった。

2010年頃から、昔では考えられなかったかもしれないですが、『芸人さんがやっていない仕事を全部やろう』がテーマになったんです。FMラジオの帯番組からスタートして、毎年、人が持っていない資格を取るとか。そうすると、みんなに『何やってんだ?』って突っ込んでもらえるんですよね。不思議なもので、お笑いから離れれば離れるほど、お笑いに跳ね返ってくるんです」。

― 最近は、趣味のグルメの仕事も多いですよね。

「もともと食べることは好きだったんでけど、これもJ-WAVE『PLATOn 』でのタベアルキスト・マッキー牧元さんとの出会いが大きいですね。

ただ、少しグルメがわかってきたかなというぐらいの時、あまり詳しくない人が『焼肉はここが一番!』みたいなこと言っていたんですよ。『いやいや、何軒行ってそれを言っているの?』と思ったんですけど、よく考えると自分も同じ延長線上にいるんだなって気づいたんです。

それを反面教師にしようと、とにかくお店に行きまくることにしました。やっぱり10軒行っての1位よりも、1,000軒行っての1位のほうがいいですよね。ピンからキリまで食べないと『この値段でこの質で』って言ってはいけないなと。それからは本当に年間何百軒と食べ歩いています。

よく『趣味が仕事になっていいね』とか言われるんですけど、仕事になったら真剣にやらなきゃいけないという考え方。すごい影響を受けたのが、イチローさんのドキュメントです。『年間200安打を打つのはすごく大変ですよね。努力が要りますね』という質問に『僕は年間200本打つことを決めたので、その過程のことは努力でも何でもないですよ』と言っていて、これをやらなければと思いました。」

― 仕事だから真剣に年間何百軒回ると決めて回っていると?

「ルールにするというやり方です。あと、誰かに『いいお店知らない?』と言われたら必ず紹介するというルールも決めました。めちゃくちゃ面倒でメリットもないんですけど、どんな忙しい時でも必ず紹介しています。1度ルールを決めたら、そこに対する感情が無視できるので、もう“店紹介マシン”になって答えています。

体を張るロケのときにも「ロボモード入ります」と言って、疲れたとか眠いという感情を捨てて、淡々と言われた通りやるというメソッド(笑)。このロボモード理論を今タレントさんの間ですごく流行らせています。

今、長距離走も始めているんですけど、これも同じです。辛いと思った時に辛いと考えずにネガティブな感情を放棄すると、意外と誤魔化せてうまく続けられるんですよ」。

単なる“好き”だけでは人の心を動かせるまでにはならない。自分にルールを課しそれをやり続けることで頭一つ抜きん出ることができる。たまたま手にしたグルメキャラを独自の方法論で突きつけることで、芸能界きってのグルメと言わしめるまでに昇華させた。

■食べることにかけるお金と時間のコストは“投資”

― 借金をしていた頃から比べて仕事も収入も増えたと思いますが、その使い方というのは?

「やっぱり食費はかかりますね。日本に生まれたからには四季を楽しみたいので、旬のちゃんとしたものを食べようと思うとそれなりに費用がかかります。これをどう捉えるかですけど、“食費”と考えると寂しいので、将来への“投資”だと考えています。自分を育成しているという意識です」。

― いいものを食べることにはお金を惜しまないということですね。

「美味しいものに関してもロボモードですよ(笑)。値段は考えないようにしています。シェフに『これがありますけど、どうします?』と言われれば、全部乗ります。今、お金を使わなきゃいけないところは“そこ”だと思ってるので」。

― いまお金を使った分が、後から返ってくると。

「そうですね。今はマネージャーにお願いして仕事より飲食店優先のスケジュールを組んでもらっています。最初は仕事に支障が出るのは怖かったし、事務所も反対でしたが、そうやって多少無理してでも食べることに“投資”をしたら、いいものを食べながら、仕事もうまく回って、運動もできて、結果的に時間をうまく使えるようになりました」。

ひとつの道を極めるためには中途半端ではいけない。仕事よりも飲食店に行くスケジュールを優先するなど、無謀とも言える挑戦に出た。時間が制限されお金もかかる。だがそれによって誰もが知るグルメキャラという確固たる地位を築くことができた。

■新しいことにチャレンジすると、時間はゆっくりと流れる

― 時間の使い方にもこだわりはありますか?

「必ず新しいことにチャレンジする時間を設けることですね。脳のメカニズムで、歳を取ると経験したことばかりになるから時間の流れを早く感じるそうなんです。子どもの頃は初体験が多いから長く感じて、大人になると経験したことばかりなので時が経つのが早く感じると。

つまり、新しいことをやらないと、人生はあっという間に終わる。だから人生でやっていないことをやるということをまた自分に課すルールにしました。大変ですけど、これまでやってなかったことをやると、充実した時間を過ごせ豊かな気持ちになるんですよ。時の流れをゆっくり感じるためには、自分のできることだけをやらないで、ちょっとだけ負荷をかけることも必要なんです。」

― 新しく始めたことが、意外なことに活きたりするものですか? 

「例えば、今ランニングを始めたんですけど、旅の楽しみが1個増えましたよね。旅もご飯も温泉も好きだけど、観光にはあまり興味がなかったんですよね。歴史が全然分からないから。でも、全国各地のお城の周りを走ることが楽しみになったんですよね。そこから今度はお城に興味が湧くようになりました。そうやって興味が増えていくと、人生が楽しくなるし豊かになると思うんです。」

かつては、借金しながらしか生活できず、芸人として落第点を取っていた渡部。だが、悪いところは素直に認め、プライドを捨てて新たな分野に挑戦し続けた。手にしたお金を出し惜しみすることなく“投資”した結果、他の誰でもない独自の地位を築き上げることができ、それが収入にもつながっている。渡部にとって、お金はさながら自分への通知表ともいえる。

歳を取れば取るほど、初めてのことに挑戦するのは腰が重いもの。だが勇気を出してその一歩を踏み出せば、その先には未知の世界が待っている。渡部はこれからも未知への挑戦を続けることで人生を楽しんでいくに違いない。

お金とは、通知表のようなもの。(渡部 建)
芸人 渡部建さん

1972年、東京都八王子市出身。神奈川大学経済学部卒。1993年、高校の同級生だった児嶋一哉とお笑いコンビ「アンジャッシュ」を結成。緻密な計算に裏打ちされたスタイリッシュな勘違いコントで人気を博す。またグルメ・高校野球・心理学…など幅広い知識を活かし、バラエティ番組で活躍。テレビ・ラジオの司会者としてもその才能をいかんなく発揮している。

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