2017年12月20日 更新

〈原正人〉“情熱”と“そろばん”で映画を成功に導く 映画プロデューサーの仕事

伝説の映画プロデューサー/エグゼクティブ・プロデューサーとして、『戦場のメリークリスマス』『失楽園』『リング』などの数々のヒット作を世に送り出してきた原正人さん。50年以上にわたって日本映画を支えてきた原さんに、プロデューサーの重要な仕事である“資金集め”や、日本映画界の現状についてお話を聞きました。

2015.3.28

監督の夢を応援しつつ、いかに採算を合わせるか

神原
私が原さんに初めてお会いしたのは20年近く前になりますね。原さんがプロデューサーを務められた『写楽』という映画が、私の実家で運営する「みろくの里」で撮影されました。そのご縁で、設立して間もない私の会社にプロモーションサイトの制作を依頼していただきました。


インターネットを使ったプロモーションは当時としては画期的な試みでしたね。お金がなかったので、いろいろな人に協力していただいてできた映画でした。『写楽』の主人公は蔦屋重三郎という江戸時代の版元で、才能とお金で組織をまとめ、一つの夢を実現させるという人、いわばプロデューサーの走りです。その蔦屋を店の名前にしているということで、当時店舗数の少なかったカルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)の増田宗昭さんに出資してもらったりしました。いろいろな意味でエポックメイキングな映画だったと思います。

神原
95年ですから、バブル崩壊後でお金を集めるのが大変だった時期です。周りの人への気配り、人を巻き込んでいく方法、お金の集め方、原さんにいろいろな仕事の仕方を見せていただきました。


監督に自由に仕事をやらせると、どんどん夢を広げていっちゃう。だけど夢だけではお金は儲からない。夢を痩せさせないように、ビジネスを成り立たせること。そこのあんばいが難しい。そろばんと情熱を両手に持つのがプロデューサーの仕事なんです。とりあえず破産しないで、これまでやってこられました(笑)

神原
やはり経営者としてリスクには相当注意されているのですか?


出資者の皆さんにご迷惑をかけないためにも、リスクを避けることはプロデューサーの大事な仕事です。特に昔の映画界は、ビデオ販売の力がない時代で、劇場だけで収益を上げなければなりませんでした。リスクを分散するために、出資者を増やす、あるいは3本くらいの映画をまとめて出資者を募る、そういうふうにリスクを減らす方法を工夫してきました。

日本映画には新しい仕組みが求められている

神原
『戦場のメリークリスマス』では海外の出資者からもお金を集めていらっしゃいますが、日本と海外ではお金の集め方などは異なりますか?


お金の集め方はもちろん、あらゆる面でやはり欧米の方が進んでいます。例えばあちらには、「完成保証保険」というものがあります。プロデューサーが保険会社に保険料を支払うことで、保険会社は映画の完成を保証してくれるというもの。出資者にとっては、プロジェクトにかかわった会社が倒産したり、予算がオーバーして映画が完成しなくなるというリスクを回避できます。プロデューサーにとっては資金調達がスムーズにできるというメリットがあります。これはまだ日本の映画界にはない仕組みです。かつて経済産業省や保険会社が検討したこともありましたが、実現しませんでした。
また映画を市場に出した後は、資金を回収して、出資割合に応じて分配するという面倒な作業が必要になります。これを日本では幹事会社が行いますが、例えばイギリスの場合は、ナショナル・フィルム・トラスティーという専門の機関が、契約書の管理も含めて全部やってくれます。またヨーロッパの映画製作では、いろんな国のお金が入ってくるので権利関係も複雑になります。それを全部管理するためのシステムを20年以上前に作りました。こういったものも日本にはありません。
それから税制。欧米では映画への出資金を税制上、損金として計上できます。つまり出資することで節税効果があるのです。日本の税制には残念ながらそのルールはありません。

神原
あらゆる面で欧米に比べて仕組みが整っていないと。


欧米と日本ではマーケットの規模に差があるので、仕組みが整わないのも仕方がないという背景もあるのです。アメリカの完成保証保険の保険料は製作費の3%くらい。日本映画の製作費は高くても10億円くらいですから、その3%では保険会社としても商売にならない。
例えば、大ヒットした『リング』は、日本では3億円くらいで製作された映画ですが、リングのハリウッド版の製作費は約5000万ドル、当時のレートで約50億円でした。50億円というとハリウッドでは低予算映画なのですが、保険会社にとってはその3%あればかなりの収益になります。

神原
ビジネスとして成り立たせることが難しいなかで、お金集めは最も困難な仕事ですね。

営業がらみのお金は比較的集まりやすいといえます。つまりその作品を作ることでメリットがある人はお金を出してくれます。しかし、本当の意味での純粋な出資者は少ない。映画を作って育ててやろう、そういう意気込みがある人たちのお金が集められるような仕組みを作らなければならないと思います。

神原
個人が出資に参加する方法はないのでしょうか。


かつて映画ファンドがありましたが、成功しませんでした。というのも、出資する映画が儲からなさそうな映画だけだから(笑)。儲かりそうなジブリ映画などはファンドに組み込まれていないのです。あれでは分配金は期待できないし、出資者は集まりません。
行政的なルールに則ってファンドが組成され、ファンドの出資先は、ジブリ映画、フジテレビ映画、インディペンデント映画にも数パーセントずつと分散されていて、全体として出資者にメリットができるような、そんな仕組みが理想です。クリエイターか行政かわかりませんが、若い人が知恵を出して、新しい映画ビジネスの成功パターンを作ってほしいと思います。映画づくりに参加するってすごく面白いと思いますよ。作品はずっと残りますからね。「あの映画に参加しているんだよ」と人に自慢できます。

どうやって劇場に足を運んでもらうか

神原
リーマンショック以降、世界が混沌としているなか、日本人はより精神的な豊かさを求めていくように変わってきている気がします。映画にもそのような影響はありますか?


私がエグゼクティブ・プロデューサーとしてかかわった、今年2月公開の『草原の椅子』はまさにそのような映画だと思います。主人公は、50歳の男、彼の親友となる同い年の男に、バツイチの女性、親に捨てられた子供など、それぞれにトラウマを背負った人たちが再生する話です。彼らは“最後の桃源郷”と言われているパキスタンのフンザに行き、大自然やそこで暮らす人々の営みに触れ、生きるとはどういうことかを感じます。映画のラスト、主人公とその親友の2人が、「俺達は未来を信じていいのかな。怖いよ」「信じて生きるしかないだろう。おじさんよ、生きたいように生きろ」と話すくだりがとても印象的です。
この作品には、まさに日本人の今置かれている閉塞的な状況があり、でも最後には未来への希望が感じられるという映画になっています。宮本輝さんの原作が出てから10数年経ち、その間何度かトライして、ようやく映画化が実現しました。
監督は『八日目の蝉』『山本五十六』を撮った成島出さんで、最初にこの『草原の椅子』の企画についてお話をした時、彼自身が物語の主人公の設定と同じ50歳でした。それに俳優の佐藤浩市さん、西村雅彦さんもともに50歳。彼ら50歳トリオがこの作品を支えてくれているわけですが、色々な意味で50歳というのは人生の節目の齢なんですね。映画にはそんな彼らの実感もこもっていると思います。一見地味ですが、笑いもあり、幸せな気分になれるよい作品ができました。
神原
映画を作った後は、それを多くの人に知らせることもプロデューサーのお仕事ですね。


日本映画、外国映画を合わせると、国内で年間700~800本が上映されます。そのなかで注目されるって大変です。『海猿』とか『テルマエ・ロマエ』みたいに大きな話題になればお客さんにたくさん来てもらえるんですが……。今はインターネットの口コミも重要ですね。レストランを探すときに、そこに行った人のコメントが載っていて参考になるサイトがありますが、それと同じく、映画ファン以外の人でも気楽に利用できるような、映画口コミサイトがあるといいかもしれません。
神原
Facebookでのプロモーションはいかがでしょうか。50~60代でもFacebookを利用されている方は多くいます。「○歳の人のダイエット方法」なんて広告をよく見ますから、映画の設定と合わせて、50歳の方向けに広告を出すなんていいかもしれません。


新しいチャレンジはいろいろとやっていきたいですね。一見地味だけどいい映画はいっぱいあります。それをどう知らせるか。業界全体で知恵を出さないといけないと思います。ビデオやDVD、それにBS・CS、インターネットで映画が見られる時代です。映画に接している人は増えていますが、映画館に足を運ぶ人は減っています。ビデオやDVDも昨今では売れなくなっています。BS・CSもインターネット配信でも、なかなか収益にはつながりません。製作費を回収できるまでにマーケットが成熟していないのです。
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