美しく生きるために必要なこと
STAGE編集部:美しく、幸せに生きるためのコツというのはありますか。
基本的に「こだわる」ことが大切なのですが、こだわり過ぎないことも大事だと思います。こだわるのですが、あるところでふっと手放す。やっぱり人間、しがみついているとあまり良いことはありません。
例えば撮影のときにもこだわるのですが、どこまでも自分の意見を通してしまうと、やっぱりうまくいかない。ある程度までこだわるけれども、「じゃあこれでいいよ」と、どこかで委ねる。もちろん何でもいいよでは撮影に加わった意味がないので、自分の意見は通すのですが、どこかでふっと手放す、その塩梅が大切です。
STAGE編集部:その塩梅というのは、どう見極めるものなのでしょうか。
それは大人になるにつれて自然とできるようになってきました。30代後半や40代ではまだすべてが大事な気がして、「それはダメです!」と意見を通したくなってしまいます。でもそれは一生懸命やっている誰しもが通り過ぎるポイントだと思います。通り過ぎた身にしてみれば、そういうスタッフを見ると「ああ、今大変なんだなあ」と思います(笑)。
STAGE編集部:年齢によって自然とわかってくる時期が来るんですね。
私はいろんな世代の人の悩みを聞きますが、20代、30代前半後半、40代前半後半、みんなそれぞれの世代で悩みは同じなんです。だから「私だけが……」と言われても、「違う違う。みんなそうだよ」と。だからふさぎ込む必要などなくて、考え方を変えて、どんなふうに自分なりの解決策を見つければいいかということが必要なのだなと思います。
なりたい自分になる!
STAGE編集部:誰もがなりたい自分になるためには、どうしたらよいのでしょうか。
実は私、ずっと子供のときから三日坊主で、50歳になるまで三日坊主でした(笑)。でも50歳のときにニューヨーク・ハーフマラソンの取材があって、同時に本も作ると言われて、50歳の元日から走り始めました。でも真冬で辛いから毎日「寒いからやめようか……」とか「今日は眠いし」とか「今日は帰ってきてからやろうか」とか、いろんな言い訳を考えつくんです。感情が入ってしまうと、そこに引きずられてしまいます。
ですから、まず起きたら、何も考えない! 何も思わないで、とにかくランニングウエアを着込みます。そうすると、そのまま走りにいかないと脱ぐのも面倒くさいから、走ったほうがいい、と。ですので、三日坊主で終わらないためには、まず感情を大事にしない――無視する。でないと、心は幾らでも言い訳を思いつくので、悪魔のささやきに負けてしまいます(笑)。この方法で私は朝型になることができ、ランニングも続けられるようになったのです。
STAGE編集部:感情を無視して続けることで、自分を変えられるようになるということでしょうか?
人間、意識次第で、幾らでも変われると思うんです。ただ、すべてを変えなければいけないということではありません。例えば、私の場合ですと1つだけいいところがあるんです。何事も続かないんですが、集中力があるんです(笑)。仕事もその集中力で持っていたようなもの。飽きっぽいという性格を集中力で補っていたんです。自分の性格の長所と短所を組み合わせて、飽きる前に集中してやっちゃおうとしたわけです。人それぞれタイプが違いますから、自分の何と何をどう組み合わせるかということが大切ですね。
ためになるお金の使い方とは
STAGE編集部:藤原さんにとってのお金の使い方といいますと?
お金は、価値観がどんどん変わってくるので、お金の使い方もどんどん変わっていますね。例えば、20代はやっぱり自分の価値観がまだわからないから、お金の使い方もわからなかったんです。30代になってくると、だんだん仕事も確立し出して、自分らしさというものが何か模索し始めて、どんどんお金を使うようになりました。40代は、自分らしさとか自分の価値観というのがだんだん芽生えてきて、自分にとって大事なもの、必要なもの、価値のあるものがわかってくるので、自然と絞られてきました。50代は、もうそれこそ自分の生き方にお金を使うようになる、というふうに思っています。
STAGE編集部:20代、30代の頃は、いろんなものに使っていたんですか。
20代は自分が何が好きなのかも、何が美味しいのかもわからないので、いろんな経験にお金を使ってきました。私の20代は時代がバブリー全盛期だったから、いろんなところに旅行に行ったり、いいレストランに行っていいワイン空けちゃったり(笑)。そんなふうに消えるものにお金を使っていました。いろんな体験にお金を使ってきたんですけど、すごく感受性が豊かな20代のときにそういう体験にお金を使ってよかったなと思います。その体験が今に影響していると思います。
自分を高める物の価値
STAGE編集部:モノにお金を使うことに関してはいかがでしょうか。
モノに関してもやっぱり20代では選べません。私がモノに目覚めたのは30代になってからです。高級なものには訳がある、美しいものには訳がある、とわかってきたんです。
20代の頃エルメスのバッグとかシャネルのジャケットとかいいなと思っていても、価値もわからず持っていても恥ずかしいと思っていました。それでやっと価値がわかってきた34歳のときに、エルメスのバッグを買っちゃいました。でも何かエルメスのバッグに自分が「持ってもらっている」感じがして、恥ずかしくて知り合いに会う時は使いませんでした(笑)。しばらくして、緊張感がなくなった頃に、普通に持ち歩けるようになりました。緊張感がなくなって、自分になじんだということは、そのモノと対等になったということです。
だから私は車やジュエリーなどは「ちょっとドキドキするもの」を買うようにしていました。そうすると、最初は「私にはちょっと不相応かしら?」と思うんですが、だんだん自分になじんで来て、ある時にモノを「越える」瞬間があるんです。だからこそモノには価値があるんだと思います。「モノが引き上げてくれる」というのは、そういうことなんです。だから、「ちょっとモノに助けてもらおう」というものを買うときは、「私に大丈夫かな?」と「ちょっとドキドキするもの」にお金をかけるべきだと私は思います。
だからといって、ただ単に高ければいいというものじゃありません。自分がこれは美しい、これはいい、と思うものでなければいけません。
STAGE編集部:ドキドキする何かを買った後、緊張感がなくなり自分になじんできた頃というのが、モノを越えた時期ということなんですね。
でも、モノっていつか卒業すべきだと思うんですね。でないと、縛られちゃいます。私、40前後ぐらいの頃にエルメスのバーキンを買ったんです。最初はもう「バーキンだー!」って感じで(笑)。あるとき、映画の授賞式で、女優さんのメイクをしていたんですが、夜中に撮影が終わって車に戻るとバーキンがないんです! ホテルの控え室に忘れてきちゃったんですね。すぐに電話をしたんですけど、もうなくなっていました。
でもそのとき、私、ほっとしたんです。何でかというと、自分で「バーキンを使っている私」に縛られていて、他のものを使えなくなっていたんです。バーキンがなくなったことで、これでかわいいバッグも持てるって、ちょっとほっとしたんです。モノの呪縛から解き放たれたわけですね。
だから私はモノというのはそういうものだと思っています。そのモノを越えるためにそのモノがあるし、そのためにお金を払う。モノの価値があるというのはそういうこと。だからといって、雑にするとかではないんです。後生大事にと思っても、モノというのはあくまでもモノ。モノ自体の価値ではなくて、それに似合う人になれたかどうかというところにお金を払うべきじゃないかと思います。
辿り着いたお金の価値観
STAGE編集部:藤原さんの良い物を選ぶ基準は?
以前はとにかく何にお金をかけたらいいかわからないから、とりあえずバランスよく、全体的に使っていました。でも今は「これにはお金かけなくてもいい」というのがわかってきたので、メリハリをつけるようになりました。
昔ですと、いいレストランに行っていいワインを頼んでという毎日でしたけど、今は違います。昔はパーティーをはしごしていたんですが、今はお酒もやめました(笑)。今もたまにいいレストランにも行くけれど、おうちゴハンがほとんど。その代わり、美味しい醤油にお金かけるとか、塩でもちょっといいお塩にするとか、そういうところにお金をかけます。畑もやっていまして、みそや野菜、ぬか漬けも手作りしています。
だからこそお金は価値観そのもの、その人の「生き方」だと思います。
STAGE編集部:そういうことがだんだんわかってくるんですね。焦る必要はないということでしょうか?
何事も体験しないと、人はわからないから。20代も30代も体験にお金をかけた方がいいと思います。30代の後半からは、ちょっとずつ自分らしい、残っていくものにお金をかけた方がいいでしょう。それはモノであろうと、習い事でも何でも。ただ何か本を読むだけではダメです。体験が伴わないとわかりません。何となく見ているだけではわかりませんので、実際に足を運んでみるなど自分でやってみることが大切ですね。
「お金とは、生き方である(藤原美智子)」