子供の頃から、いつも気球が身近だった
STAGE編集部:まずは、熱気球の競技について教えていただけますか?
「熱気球競技はポイント制のゲームになっています。目的地が決められていて、そこにいかに近づけるかというのを争っています。近づいたところで砂袋を投げるんですが、それが自分がここまで来たという証明になるんですね。それで全員が投げ終わったところで、一番近くに落としていた人が1,000ポイント。距離が離れていくごとにもらえる点数が下がっていきます。これをゴルフのコースを回るように、1個終わったらまた次の目的地を目指して……という流れでやっていき、トータルのポイント数を競って優勝を決めます」
STAGE編集部:バルーン競技を始めたきっかけというのは?
「両親が、自分が生まれる前からやっていまして、本当に小さい時から身近なところに気球がありました。乗り始めたのは、もう母のお腹の中にいるときからで、真剣に競技を始めたのは中学の後半ぐらいからだったと思います。
初めて大会に出たときのことはよく覚えていますね。実際に操ってみると、すごく難しいなと感じました。でも、今まで見てきていた憧れのパイロットよりもちょっとでも内側に砂袋を投げられたというだけですごく嬉しかったです。そのちょっとの「うれしい」の積み重ねでどんどんのめり込んでいった感じですね」
STAGE編集部:両親からの思いを受け継ぎ、自然とバルーンの世界にのめり込んで行った藤田。が、もちろんそれだけで勝てるわけではない。スペシャリストがしのぎを削る世界で勝つために必要な要素とは?
「本当にいろんな要素が絡んできます。フライトでいえば、パイロットの技術や判断力が問われます。あと、実は下にいるグランドクルーが本当に重要なんですよ。クルーが先回りして地上の風がどうなっているかを教えてくれるので、そのデータをもとに、どうやってアプローチするかを考えるんです。意外と上と下でバタバタと忙しいスポーツで、チームの戦略がすごく鍵になります」
STAGE編集部:パイロット以外の方の役割はどういったものなのですか?
「ドライバーさん、そして結構マニアックな道を入っていくのでナビゲーターとして地図を読める方、また無線で通信をするので、その無線担当もいます。あとはゴールに着いたときに風船を飛ばして角度が何度だとか目視できるように旗を広げることも必要ですので、合計4、5人でやっていますね」
STAGE編集部:例えば、明日トレーニングするとしたらどんなスケジュールなのですか?
「まず、明日飛ぶとなったら、前日の夜に天気の確認をします。天気図を見て、どの高さでどのような強さの風が吹くのかをチェックして、あとはその風だったらどういうふうに飛ぶかというプランを何パターンか作っておきます。
夏ですと朝4時ぐらいに起きて、まず風船を飛ばします。その日の風を測って、その風をもとに、どこから飛ぶかを考えます。ゴールに向かって飛んでいって、アプローチして、マーカー(砂袋)を投げて。飛んでいる間に次のゴールをまた決めて……と、その繰り返しですね。多いときは6〜7回、できるだけ多い数をこなしていくというトレーニングです」
熱気球はひとりだけの競技だけではない。地上と上空で連携するチームワークが肝となる。そしてもっとも重要な要素は自然の環境。その日の状況に合わせ、いかに気球を操るか。事前の戦略かつ瞬時の判断力が要求される。
気球にかかる費用とは
STAGE編集部:熱気球はお金もかかるのではないでしょうか?
「そうですね。競技用を全部ゼロから揃えると、大きさにもよるのですが機体の部分だけで400万ぐらいします。あとはガスボンベを積みますが、それもかなり高価です。それを数年おきに定期検査します。しかも最初は5年でよかったものが、3年、2年、1年と短い期間で更新していかなければならないので、相当なお金がかかりますね。
フライトするにもガス代が発生します。ですが、実際に空を飛ぶ経験が一番のトレーニングなので難しいところですよね。また遠征にもかなりお金がかかってしまいます。海外の遠征ですと、その国まで気球を送らなきゃいけないですから。1年間トータルでいうと、維持費だけで200万、300万ぐらいはかかっているかと思います」
STAGE編集部:お金の面もやりくりしながら、プロのバルーンニストとして活動されているのでしょうか?
「プロのような制度はないので、今はスポンサーとして「やずや」さんについていただいています。スポンサーさんもずっと探していて、佐賀の大会の時に出会ったのがきっかけで、本当にたまたまご縁があって、スポンサードしていただいています」
夢の世界チャンピオンへの道
STAGE編集部:世界チャンピオンになって状況は変わりましたか?
「スポンサーさんには、チャンピオンになる前からずっと応援していただいたので、金銭的な面では特に変わらないですね。ちなみに、世界選手権は賞金が出ないんですよ! ですので、変わったとしたら、少しずつメディアに取り上げていただくチャンスは増えたかなということですね」
STAGE編集部:バルーン競技を始めてから最も苦労した時期というのは?
「それが……ずっとなかったんですよ。本当に気球が楽しくて、続けていたら、運良くうまく転がっていったという感じです。強いて言えば、去年がこれまでで一番上手くいかなくて辛い時期でした」
STAGE編集部:去年はどう辛い時期だったのでしょうか?
「世界選手権は2年に1度あるんですけど、世界チャンピオンになった2014年の次、2016年は日本開催だったんです。ずっと日本チームの夢だったチャンピオンへの期待と、かつ僕がディフェンディングということで、必要以上のプレッシャーを感じてしまったんです。自分のリズムが作れなくなっていってしまい、「なんで競技しているのかな?」とか「今までどういう感じで飛んできたのかな?」という思いが湧き上がってしまい……。それでうまく飛べなくてフラストレーションになるという悪循環に悩まされました」
STAGE編集部:優勝を経験したからこそのプレッシャーを感じてしまったのでしょうか?
「そうですね。連覇への重みというか、やっぱり自分の中でも世界選手権がゴールというか、大きな目標の1つだったので、そこに対しての捉え方が上手にできなかったのかなと思います」
日本人として初となる世界選手権での優勝。歴史に残る偉業を達成したものの、安心してはいられない。王者は王者であり続けるしかない。これまで体験したことのないプレッシャーと戦い、少しでもいい成績を狙い続けるしかない。