介護の人手不足を打開する「スマート介護」
訪問介護、通所・短期入所、有料老人ホームなど老人福祉・介護事業者はいま人手不足が深刻で、人材確保競争の激化、人件費の上昇に苦しんでいます。
公益財団法人介護労働安定センターの「事業所における介護労働実態調査」によると、「従業員が不足」と訴える事業所は全体の67.2%で不足感は年々増す一方です。不足する理由は「採用が困難」が89.1%でした。
東京商工リサーチによると、介護業界の2019年1年間の倒産件数は111件で過去最多の2017年に並びました。4年連続で100件を超えていますが、倒産する前に自ら廃業・撤退を決める事業者はさらに多いとみられています。その最大の原因は介護の仕事のなり手がいないことです。
介護の人手不足を緩和するには、どうすればいいのでしょうか?
「スマート介護」は結果を出し始めている
福岡県北九州市は先進的な介護イノベーション「北九州モデル」で知られています。その柱は「ロボットを使いこなす人材」「ロボットの導入、活用」「新しい介護現場の創造」「人とロボットの共存」などテクノロジーを積極導入したスマート介護で、すでに結果を出し始めています。
たとえば施設に移乗支援の介護ロボットを導入すると、介護職員による抱え上げ介助がなくなり腰痛リスクの高い姿勢が改善され、身体的な負担が軽減されました。入居者の皮下出血や打撲などのリスクも低下しています。
また、施設の居室に見守りセンサーを導入すると、入居者の様子が介護職員の手元のタブレット端末でわかるので、職員の不必要な見守り、訪室が約90分減少し、その分、寝具の手直しなどきめの細かいケアの時間が約35分増加する効果があらわれています。入居者の転倒リスクも低下しました。
職員のやる気を引き出す「資格制度」
北九州市では介護ロボットを操作、活用できる専門人材を育てるために2017年度から「介護ロボットマスター育成講習」をスタートさせ、2018年度から「初級」「中級」「上級」に分けて修了資格がステップアップできるようにしました。今年1月までにのべ154名が修了しています。
職員と介護ロボットの「ハイブリッド特養」を実践している東京都大田区の社会福祉法人善光会付属のサンタフェ総合研究所は2018年、センサーやロボットを使いこなせる資格「スマート介護士」を創設しました。これまでに「入門(Beginner)」の研修に約60人が参加し、「初級(Basic)」と「中級(Expert)」の資格試験に約2000人が挑戦しています。善光会以外の介護職員にもひろく開放していて、今後は「上級(Professional)」資格取得を目指す研修メニューも設ける予定です。
北九州市も善光会も資格を設けることで、ただ新しい技術を使いこなせるだけでなく、それを現場の改善、課題の解決に活かせる創造性も持つ人材を育てようとしています。
介護の仕事でも、資格を取って「自分はスマート介護の専門性がある」という自己確認ができれば職場に定着しやすくなります。新
人にとって資格取得は良い目標になり、資格取得を奨励する施設が優秀な人材を獲得しやすくなることもありえます。
スマート介護やその資格だけで人手不足が解消するほど現実は甘くありませんが、少なくともその突破口にはなりそうです。
参考URL:
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2019_chousa_kekka.pdf
https://www.joint-kaigo.com/articles/2020-01-11-3.html
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000817392.pdf
https://www.zenkoukai.jp/japanese/news/6104