2018.4.11
食堂車の復活はシンプルな「トマトソースのパスタ」からはじまる
イタリアの国鉄Trenitaliaは、2008年に車両で調理をして上客に温かい食事を提供するというサービスを廃止しました。廃止後は、パニーノやスナックといったテイクアウトができる軽食のみが販売されてきたのです。
しかし、旅行者にとっては「食堂車」はちょっとしたロマン。かつて、アガサ・クリスティが「オリエント急行殺人事件で」で食堂車を舞台にしたように、ヒッチコック監督が「北北西に進度を取れ」のなかで食堂車内の粋な会話を展開させたように、移りゆく景色を眺めながらの食事は唯一無二のものなのです。
ところが、近年になって「食堂車」の復活を希求したのは、海外から来る観光客ばかりではありませんでした。イタリア国内を特急電車で旅行をする富裕なビジネス層から、「家庭で味わえるようなシンプルな、しかし温かい料理を電車内で食べたい」というリクエストが急増したのです。イタリア人が「家庭で味わえるシンプルな料理」といえば、「トマトソースのパスタ」と決まっています。シンプルなトマトソースの良いところは、余分な化学調味料も、いかにも長期保存に耐えますという味のする肉や野菜を使用する必要がないところです。パスタ、純粋なトマトソース、塩、バジリコ、それにパルミジャーノチーズさえあれば老若男女、ほぼ好き嫌いなくおいしく食べることができる、というのが最大のウリであり、まさにこのメニューがイタリア国鉄の特急「フレッチャロッサ」で復活したのでした。
「トマトソースのパスタ」はまさにイタ飯の真骨頂。シンプルなだけに、シロウトには真似のできないコツがあり、外国人の観光客にも「メイド・イン・イタリー」を実感してもらえるという、まさに一石二鳥か三鳥のメリットを持つメニューというわけです。
特級の「エグゼクティブ・クラス」で提供されるカリスマシェフのメニュー
実は、特級列車「フレッチャロッサ」は2014年、食堂車をテーマにした新たな試みをすでに発動していました。
2013年末、フレッチャロッサのエクゼクティブ・クラスの食事をTrenitaliaとコラボしたのは、現在のイタリアでマッシモ・ボットゥーラ、ニコ・ロミートと並ぶ知名度と実力を誇るカルロ・クラッコでした。
カルロ・クラッコは、季節の食材を使用したメニューを15日毎に更新、長時間座っていることが多い富裕な乗客のために見た目も美しくさらに消化がよいという条件を持つ食事を提供したのです。
クラッコ自身は北イタリアはヴェネト州の出身ですが、メニューはイタリア半島を旅行する乗客のために南北の伝統料理をくまなく網羅して発案したというこだわりよう。
つまり、ピエモンテ州からは「ゴルゴンゾーラとクルミのリゾット」、ロンバルディア州からは「香草入オッソ・ブーコ」、トスカーナ州からは「ポテトとセロリとタコのサラダ」、カラブリア州からは「グリーンピースとムール貝のクリーム」や「カジキマグロのレモンとケッパー風味」といった具合です。
つまり、ピエモンテ州からは「ゴルゴンゾーラとクルミのリゾット」、ロンバルディア州からは「香草入オッソ・ブーコ」、トスカーナ州からは「ポテトとセロリとタコのサラダ」、カラブリア州からは「グリーンピースとムール貝のクリーム」や「カジキマグロのレモンとケッパー風味」といった具合です。
もちろん、これらの料理に合わせたワインが用意されていることは言うまでもありません。
Trenitaliaは、電車の食堂車でこのレベルの食事を味わえるのはまさに美食の国イタリアであればこそ、と鼻高々です。
Trenitaliaは、電車の食堂車でこのレベルの食事を味わえるのはまさに美食の国イタリアであればこそ、と鼻高々です。
また、カルロ・クラッコは一般車両の乗客用にテイクアウト用のセットもプロデュース。18ユーロのランチボックスのなかには、旬と品質にこだわった食材を使ったクラブサンドイッチ、ポテト、スイーツが詰められています。
「トマトソースのパスタ」へのこだわり
話を冒頭の「トマトソースのパスタ」に戻しましょう。
シンプルであればこそコツが必要と書きましたが、いかにこの「トマトソースのパスタ」に、Trenitaliaの食堂車がこだわっているのかがわかる事実があります。
それは、使用されるパスタの種類です。フレッチャロッサで提供される「トマトソースのパスタ」で使われているのは、イタリアの大手バリッラ社の71番。ストライプの腺などが一切入らないすべすべのペンネです。理由は、このタイプのパスタならば調理中に流出する澱粉の量が少なく同じ鍋で何度か調理が可能であること、また茹で時間が8分という短さです。さらに、パスタの表面がすべすべであるために、均等に火が通りやすいという理由もあるのだとか。電車の食堂車という特殊な条件のもとでは、もっとも利便性の良いパスタと認められたのがバリッラの71番であったのです。
というわけで、食堂車に入ってから30分以内で食べ終わることができるというのも、旅行者には魅力。
外部から持ち込んだ手の込んだ料理を温めて提供するのではなく、シンプルでも心のこもった高品質の食事を提供し他のサービスと差をつける、というのがTrenitaliaの心意気なのです。
参照元
http://www.repubbl
ica.it/sapori/2018/02/23/news/trenitalia_ristoranti_su_frecciarossa_riapre_cucina_espressa-189555250/
http://www.affaritaliani.it/notiziario/fs_su_frecciarossa_torna_pasta_espressa_a_pranzo_e_cena_2-54521.html?refresh_cens
https://www.dissapore.com/notizie/abbiamo-provato-la-pasta-espressa-sul-frecciarossa/
http://www.gamberorosso.it/it/news/1046904-trenitalia-il-nuovo-servizio-ristorazione-che-garantisce-la-pasta-espressa
https://www.itinere.it/media/pdf/bar/lr_flyer_combofrecciarossa-ita-ok.pdf
https://www.itinere.it/media/pdf/ristorante/menu-ristorante.pdf
http://www.ilsole24ore.com/art/food/2016-10-28/trenitalia-arruola-cracco-e-prende-passeggeri-la-gola-134642.shtml?uuid=ADfA7DlB