日米貿易協議FFRの前後10日間になにが起こったのか

日本時間の8月10、11日に開かれた閣僚による日米貿易協議FFRは、9月末に次回会合を開催し具体的な合意を目指すことで協議を終えました。このFFR開催直前の10日間の動きは大変興味深く、そこには今後の日米交渉の行方が見えてくるいくつかのヒントがありました。時系列で振り返ってみたいと思います。

2018.9.14

8月3日(決戦7日前)

日本の上場企業の経常利益を合計した額の約10%程度を担う、日本企業の雄と言っても過言ではないトヨタの2018年4−6月期決算発表が行われました。営業利益は前年同期比18.9%増の8138億円、売上高は同4.5%増の7兆3627億円と過去最高を記録しました。この結果は、市場予想を上回る結果であり、さすがトヨタといったところでしょうか。ただ、この発表会見に臨んだ白柳専務は、「稼ぐ力や原価低減の成果は少しづつ出始めているものの、まだまだ道半ば」と慎重なコメントを残し19年3月期の連結予想を据え置きました。
この決算内容であれば、すわ「今後の上方修正が期待できる」と投資が反応し株価が上昇トレンドに入ってもおかしくありませんでした。しかし、実際の株価といえば発表翌日以降2週間に渡り下落トレンドに入っています(2018年8月21日時点)。
なぜ、上昇トレンドに入れなかったのか。それは、記者会見で大きな懸案事項が発表されたからでした。その発表によると、「トランプ政権が自動車や部品に対して25%の追加関税を発動した場合、日本から米国へ輸出する完成品1台あたりのコストが平均で6,000ドル(約66万円)上昇し、単純計算で約4700億円のコスト増加につながる」というものでした。業績見通しの上方修正どころか、FFRの交渉内容次第では、業績見通しが悪化する可能性を投資家がリスクとして感じ取りました。
このような日本代表ともいえるトヨタの発表を受け、茂木経済財政・再生相は10日〜11日のライトハザード米通商代表とのFFRの交渉に備え、FFRの交渉において米国は「FTA(日米貿易協議)を念頭に強気の交渉を進めてくるだろうが、それを受け入れてはトヨタの懸念の通り多くの輸出企業の業績は相当厳しいものになるであろう」と、その交渉では一歩も引かない準備を進めていたはずです。
ところが、、

8月8日(決戦の2日前)

このFFRの交渉2日前前に米国内で注目を集めていた政治イベントが行われていました。それは、オハイオ州下院第12選挙区での補選です。
オハイオ州の同選挙区といえば、1983年から30年以上も共和党が議席を守ってきた共和党基盤の選挙区です。しかし、補欠選挙の結果は、大苦戦。共和党候補の民主党候補へのリードは1700票程度で投票総数のわずか1%未満。しかも、未開票が8000票を超えており、勝者がまだ確定していない状況です(2018年8月21日現在)。2018年11月の中間選挙、2020年に大統領再選を目指しているトランプ大統領にとっては、大変頭の痛い結果になりました。
この前哨戦での苦戦の原因は、トランプ政権が目玉政策と位置付ける中国などへの関税措置による制裁により、輸入品の価格が上がっていることだと分析されています。特に、この地域の主要作物である大豆農家、自動車工場などの製造業に負担増やマイナス効果の実感が地域住民に浸透し始めているとされています。また、少し前ですが3月に行われたペンシルバニア州の補選でも、共和党の地盤にも関わらず敗北したことを考えれば、やはり米国内で「アメリカ・ファースト政策」へNOという潮流が生まれている可能性がありそうです。
ここからは推測ですが、トランプ政権は、日米FFR交渉の直前にした8日の結果を受けて大統領再選への戦略見直し、つまりアメリカ・ファースト政策の修正の検討に追い込まれている可能性があるのではいないかと思っています。米国民は徐々にアメリカ・ファーストより、生活的な実感を優先して判断し始めているかもしれません。だとすれば、ますます国民負担が増えるであろう「貿易戦争」についてトランプ政権がソフトランディングへ舵を切る可能性が高いのではないかと仮説を立てることができます。
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