2017年9月29日 更新

富者の遺言 第1章 始まり~本当にそれでいいのですか? [第4話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

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2017.7.21
「ジョーカー? あのトランプの?」
「ああ。その通り」
 老人はさも当たり前のようにそう答えた。
(こいつ、いったいなんなんだ?)
 僕はこれ以上、この老人に付き合ってはいけないと思い、顔を背け、何も言わずに違う方向に歩きだそうとした。
「君は知っているかい? 日本の大手銀行が一 年間で受け取る金利の総額を?」
「………。」
「およそ五兆円だよ。反対に顧客側に払う金利の総額は数千億円程度。その差額は丸々銀行の利益だ。まったく、人から金を集めて、それを人に貸してこの利益だ。いい商売だな」
 僕の背中に向けて、老人は独り言のように言葉を投げかけた。この老人は、何を言おうとしているんだ? 僕は老人に対して向き直った。
「『金利』という言葉は知ってるね?」
 老人はまるで子供に問うようにゆっくりと僕に尋ねた。
「バカにしないでください。これでも僕は経済学部出身です」
「私がさっき君につけた金利は二〇%だ。金利が二〇パーセントなんて法外だと思わんかね? 二〇パーセントという金利がつくということは、君に信用がないからだ」
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「ぶしつけだなあ」
 僕は苦笑して流そうとしたが、老人はおかまいなしに続けた。
「でも、それも当然のことだ。私は今日初めて君に会った。まるで君のことを知らん。生年月日も、家族構成も、職歴も。しかも、こんな時間にこんな場所で長い時間佇んでいたようだ。時間など気にしないでいい悠々自適な人間だとしたら、飲み物を買う小銭がないことに説明がつかない。会社員なら、残業か、アフター5の飲み会といった所に向かう時間帯だろう。しかし、どちらでもないらしい 。すべての要素を鑑みるとこの金利は低いくらいだな。銀行だったら貸しもしないだろう」
 こちらの痛い部分をどんどん指摘してくる老人に僕はムッとした。こちらの素性を知らないのに失礼すぎるだろう。……すると、さっき失敗を言い当てたのも当てずっぽうか。何か言い返してやらなければ、気が済まない。
「たしかに僕の信用度は低いかもしれない。でも、たかが十円を貸したくらいで、次から次へ厭味を言ってくる人の神経も疑いますね」
「ハハハ。君はきっとそうやって『たかが十円』と思いながら借金を繰り返してきたんだろうな」
 再び「ギクッ」とした。まったくその通りだったからだ。しかしそれにはそれ相応の理由があるのだが……。老人は僕の戸惑いを無視して話を続けた。
「私を誤解してもらっては困る。これでも随分と寛大に支払い猶予を設けたんだ。『君が立ち直って、お金を自由に扱えるようになったら』ということは、ほぼ無期限だ。今の君の様子からすると、それは遠い未来かもしれない。いや、どうだろう?果たしてそんな時がくるか、わからんね」
 僕は苦し紛れに皮肉で返した。
「あなたが自分のことをジョーカーと言った意味がぼんやりとですがわかってきましたよ。これだけ短い時間でこんなに人の気分を悪くさせるなんて凄い才能ですよ」
 老人は笑いながら僕に礼を言った。
「ハハハ。それはどうも。今日は本当に楽しい」
 きっと考えすぎだろう。僕がここにいることを知る人間などいるわけがない。こいつは、暇を持て余した老人で、いい暇つぶしの相手を見つけたと思っているに違いない。
 だって、こんなこと僕相手に話すなんて、老人は話す相手を間違えてる。
僕は元銀行マンなんだ。
 その事実を告げたら、老人はきっと驚くだろう。僕はそれをいつ告げようかと考えてい たとき、老人は急に真顔になって問いかけてきた 。
「なぜ、私がこんなことをくどくどと言っていることに疑間を持っているようだな。君はこの短い時間でお金の使い方をすでにミスしている。
 さっき君が間違えて冷たいミルクティーを買うのを止めた後、それでも君には、選択肢が三つ残されていた。ひとつはそのまま温かいミルクティーを買う選択肢、それとあとふたつ……」
 老人はひと呼吸置いて、僕に諭すように言った。
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「温かいミルクティーを買わないという選択肢と、ここから歩いて、三分ほどの所にあるスーパーの中で、一〇〇円以下で温かいミルクティーを買うという選択肢だ。もちろんスーパーの中のミルクティーが温かい保証はないが、行って確かめることもできた」
 たしかにそうだが……。
「僕は今、ここで温かいミルクティーが飲みたかったんだ!」
「そう、君はさっき、『今』、ということにこだわっていた。『今』すぐにでも暖をとりたいと思っていた。そして、私からお金を借りて、ミルクテイーを買ったおかげで、『今』こうして、面白くもない話を聞かされる羽目におちいってる」
 この老人は何を言いたいんだ?
 何か理由があって僕に近づいてきたのか?
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この記事のキュレーター

泉 正人 泉 正人
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