2017年12月14日 更新

「このチャンスをどう活かすか」第11章[第23話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

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2017.12.8
 ある日、クリームおにぎりの売り上げが、急激に上がった事件がありました。地元のテレビ局の朝の情報番組で取り上げられたのです。
「テレビ局が取材に来るなんて、どうしよう……」取材ディレクターの連絡を受けて、僕は天にも昇る心地がしました。
 取材を無事に終え、放送日当日の朝もスタジオと店をつないで中継をしたいという要望を受けて、その日はいつもよりも張り切って店を開店しました。
「……え?」
 本当に驚きました。シャッターを開けると、もうすでにお客さんが並んでいたのです。まだ、放送前なのに!ですよ。だから当日の中継は、店の前に長い行列ができているというこれ以上ない宣伝となりました。
 後から聞いたら、全部大谷が手配していたのだそうです。テレビ局の取材も大谷が働きかけ、当日の行列も大谷が人を雇って並ばしたのです。大谷のこういうソツのなさは、本当に脱帽する他ありません。
 結局、その日の売り上げは過去最高の一二〇三個という驚異的なものでした。作っては売り、作っては売りを繰り返し、最後には米がなくなったところで、販売終了。その日の営業が終わると皆ヘトヘトになってその場に倒れ込むほどでした。
 しかも翌日以降も、その宣伝効果は引き続いていて、まさに飛ぶようにクリームおにぎりが売れていきました。
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 翌週、営業が終わった後、大谷の呼びかけで僕らは会合を持ちました。
 大谷が話したかったことは“このチャンスをどう活かすか?”ということでした。僕と葉山は、正直、連日の大盛況で頭がうまく回らず、明日の仕込みのことで手一杯でした。でも、大谷は直接お店に関わらない分、客観的に米角のことを考えていたようです。
「俺も、ここまでうまくいくとは思わなかったよ。まだまだテレビの力は絶大だな、人ひとりの運命くらいを変える力を持ってるよ。あ、もちろん葉山のクリームおにぎりの味がいいから、ここまで人気になっていることはわかってるよ。ただ、メディア効果というのはだいたい一カ月程度で落ち着いてしまうというのが現実なんだ。
 そこで、提案なんだが、M駅前の一号店に続いて、二号店をどこかに出さないか?」
「え? もう二号店かよ。正直、今の店だけで手一杯なんだよ。もう少し落ち着いてからでも良くないか?」
「いや、何事も上がり調子のときに色々と手を打っておくのがいいと思う。このまま今の店を続けていっても、売り上げの上限はあるだろう?」
「そうだな、一日一〇〇〇個作って売るのが上限だな。今、クリームおにぎりとそれ以外のおにぎりの売り上げの割合は八対二だ。今は臨時でバイトを雇ってなんとか回しているような状態だから、これ以上売り上げを増やすのは難しいだろうな」
「もともと、一軒のおにぎり屋を成功させるために始めたわけじゃない。目標を忘れたのか?」
「確かに、そうだが二号店を作るにしたって、そのための準備金はまだ貯まっていない。一号店と同じ額がかかるんだとしたら、およそ六〇〇万円かかるんだ。それを貯まるのを待ってからするとなると、あと半年待たなきゃいけない」
「今なら銀行からの融資は余裕で受けられるだろう?」
「いや、最初に自己資金だけでやるという縛りを作ったはずだ」
「やるんなら、今なんだよ。もう少し融通きかせよ」
 僕と大谷の言い合いの中、葉山が割って入った。
「あの…私に提案があるんですが……」
 葉山が言うには、M店の厨房はスペースが広いから、まだおにぎりを作る余力がある。だから、一号店と同じ設備は必要なくて、M店から作ったおにぎりを運べるくらいの近距離であれば、もっと安く二号店を作ることが可能じゃないか、ということだった。この提案に、僕らふたりは助けられた。
 さっそく、大谷は隣駅のK駅構内に物販スペースを借りる話をつけてきた。ほぼ十坪くらいのスペースだが、そのくらいのスペースでも十分だろう。賃料は月に二五万円で、契約金やら、新たな資材などでかかる初期費用は三〇〇万円。この額なら半年も待たないで用意できる。月のキャッシュフローの中から三カ月程度で捻出できる額だろう。
 米角K駅構内店のオープンは、実際はそれよりも早いニカ月後でした。
 そして、結果は予想通りの大成功。駅構内ということで、人通りもM駅前店よりもずっと多かった。そして、今、話題のクリームおにぎりを発売中となれば、お客さんの反応も上々で、売り上げは当初の予想売り上げの二倍を記録しました。
「やばいよ、葉山。K駅構内のお店がまた売り切れたから、早く持ってきて欲しいって連絡があったよ」
「じゃあ、バイトの高崎くんに届けてもらいましょう。まだまだ売れそうですね」
「そうだな。クリームおにぎりだけでも届けてほしいそうだ。急いで一〇〇個いけそうか?」
「クリームだけに集中すれば、三十分あればなんとかいけると思います!」
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 M駅前店の一日の売り上げは平均八〇〇個。
 そして、K駅構内店の一日の売り上げは平均五〇〇個。
 K駅構内店は、販売スペースのみで売り子のアルバイトをひとり置いておけばいいので、利益率はとてもよかったですね。
 その頃、稼いでいたお金ですが、僕が月一〇〇万円くらいで、葉山は歩合給の分があったので、一五〇万円くらいでしたでしょうか。やっぱり、飲食は一回当てると大きいですね。
 米角二号店の経営も軌道に乗ったころ、忙しそうにしている大谷をつかまえて、僕は言いました。
「そろそろ経営的に楽になってきているんだから、お前の取り分の話をしたいんだが……」 
「あぁ、その話か」
「お前はどのくらい欲しいんだ?」
「今、米角はどれくらい順調なんだ?」
「数字的な話か、それとも感触の話か?」
「その両方だな」
「う~ん、二号店を出したことは結果的には大正解だったな。コストはそれほどかけずに、利益を倍近くに増やすことができた。二号店の出し方もよかった。
 今なら、お前にそれなりの額のギャラを出せそうだよ」
「そうか。俺も嬉しいよ。
 それなら、ギャランティは毎月の売り上げの五%……はもらい過ぎかい……?」
「いや、お前は成功するきっかけをくれたし、店の立ち上げのときは、無給で米角のために色々やってくれた。感謝してもしきれないくらいだ。その条件でいいよ。遠慮なんかするなよ」
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この記事のキュレーター

泉 正人 泉 正人
お金の教養講座