〈渋谷 豊〉ハリルホジッチ新監督に見る”プロ経営者”の魂とは?

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
今回の試合で注目を集めたのはハリルホジッチ新監督の采配と結果でした。彼は、前監督のアギーレ氏が八百長疑惑で急遽退任した後任という大変困難な状況での就任となりましたが、選手としても監督としても共にワールドカップに出場し、かつ優秀な成績を残したという実績と経験を買われ、かなりの期待を背負ってこの戦いに臨みました。
2015.4.17

2015年3月31日にサッカー日本代表の試合を観戦してきました。今までサッカー観戦には数回行ったことがありますが、日本代表戦は今回が初めてでした。今回はチケットを頂戴し、素晴らしい席での観戦となりました。選手のベンチ裏に位置した席からは、生き生きとした選手の顔を見ることができ、やはり一流のスポーツ選手は“かっこいい”と無邪気な少年のように感動してしまいました。それに加えて、一体となったサポーターの応援に包まれ至福の時間を過し、試合も5対1の快勝。今後を期待させる素晴らしい試合でした。

さて、今回の試合で注目を集めたのはハリルホジッチ新監督の采配と結果でした。彼は、前監督のアギーレ氏が八百長疑惑で急遽退任した後任という大変困難な状況での就任となりましたが、選手としても監督としても共にワールドカップに出場し、かつ優秀な成績を残したという実績と経験を買われ、かなりの期待を背負ってこの戦いに臨みました。

彼は就任会見で“負けることが大嫌いだ”と公言していましたので自ら世間の期待値を上げていました。しかし、そのプレッシャーをもろともせずに、期待値以上の結果を出す最高の船出となり、さすが監督業をプロとしている“すごみ”を感じました。また、2試合目だったにもかかわらず、選手と監督の一体感はマスコミ各社から賞賛されるほど、マネジメント能力の高さも見せつけました。

さて、プロの経営者(指導者)は、最近ではスポーツ界だけではなく経済界でも広がっています。ジェーズ・アベグレン氏が日本的経営を分析した著書の中に、日本的企業は内部から昇進する社長が多いという記述があったかと記憶していましたので、時代の移り変わりを感じます。

最近のプロ経営者は、業種を問わず就任し、経歴も外資系のコンサルタント出身であったり、外資系企業のCEOから横滑りであったりなど様々です。ただし、業種や経歴だけではなく業績や評判も様々。先日、ある業績の低迷している会社のプロ経営者が、“経営手法は間違っていない、でも外部環境のせいで期待通りの成果を挙げられない、組織が変革についてきれない”などとコメントしていましたが、株主からは“おいおい頼むよ〜”、“それぐらいの外部要因や組織の硬直化ぐらい予測してよ、プロだろ〜”といった声が聞こえてきそうです。本当にそうです。失格のプロ経営者にはハリルホジッチ新監督の有言実行を見習って欲しいものです。

ただ、プロの経営者はあくまで一企業の経営者で、ドライに言えば経営が傾けば首をすげ替えれば済む話です。そうして企業は経験を積み重ね新陳代謝を進めていく、株主は損失を被りますが、社会的な損失は限定的です。

しかし、一営利企業のプロ経営者とは違い、国民全体に大きな影響を与えるようなプロの経営者が失格になっては困ります。それは、だれでしょうか。皆さんは誰を想像しますか。

私は長く金融に携わってきた者として黒田日銀総裁を取り上げたいと思います。正確にいうと経営者ではありませんが、日本の中央銀行のトップです。

黒田総裁は、デフレ経済に苦しむ日本経済の救世主として2013年2月に就任しました。打ち出す政策は思い切ったものが多く“黒田バズーガー”と称され、株高・円安の演出者として国内外で評価を得てきました。最近は資産効果が色々な指標から確認できるように徐々に成果を残しつつあります。

一方、最近は就任した際の公約ともいえる“2年程度で2%の物価目標を実現する”ことが本当に実現可能なのかという懸念が台頭してきましたが、黒田総裁は、先日の金融政策決定会合後の記者会見で、足元の物価がほぼ横ばいで推移しているという記者の厳しい指摘に対して「失敗したと言われる筋合いはない」と反論しました。今までにないに自信に溢れた総裁だと感じました。少なくとも自称プロ経営者のような下手な言い訳をする黒田総裁ではありませんでした。少しハリルホジッチ新監督と同じ有言実行の匂いを感じます。

さて、冒頭でお話ししたサッカー日本代表の試合は東京都調布市で開催されました。試合前や試合後の盛り上がりは、確実に街の雰囲気を明るくしていました。私は前回の東京オリンピックを見たことがない世代ですが、2020年の東京オリンピックは日本全体で相当な盛り上がりになるだろうと今回の試合を通じて確信を持ちました。だからこそ、黒田日銀総裁には2018年まで任期のあるプロの経営者として、原油安の背景があろうが、消費税増税の影響があろうが、”プロの中央銀行の総裁”として日本経済を明るくする政策を実行してもらい、晴れやかな経済状態でオリンピックを迎えるような舵取りを期待したいと思います。

期待しています、黒田総裁。頑張れ日本!!

渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所(FAG総研) 代表

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで執行役員を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かし、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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