ピケティ氏は、世界的な規模で調査を行いました。なんと20ヵ国を3世紀にわたり調査、分析したそうです。その結果、経済成長率(g)よりも投資からのリターン率(r)が常に大きくなるという結論にたどり着きr>gと表現、これが非常にシンプルなことから広く知れ渡ることになりました。
また、この本では“現在の社会構造は、資産を多く保有する富める者がより富む構造になった”、“この格差社会構造の解決方法は“資本への課税”である“と主張し、締めくくられています。
世界的にピケティ氏の本が盛り上げるのは、主張の分かりやすさだけではなく、各地域で格差が拡大しているという時代背景が大きいのではないかと思います。そんな中、私が以前住んでいたシンガポールのから驚きのニュースが届きました。“シンガポール政府は、年収32万シンガポールドル(約2800万円)以上の高額所得者の所得税について、最高税率を現在の20%から22%に引き上げ、年間の税収が4億ドル増加する”といったニュースです。税金が低いことが生命線とも言える国でまさかの増税という久しぶりの政策転換でした。
元居住者である私の肌感覚に合わないこのニュースは、あのピケティ氏の主張はシンガポール政府までも動かしたのかもしれないと一瞬錯覚しました。これこそ、今回お伝えしたい、私のピケティ・シンドロームです。実際は言うまでもなく、シンガポール政府はそんな単純な理由で決めたわけではないそうです。
さて、ピケティ氏についてのこれ以上の議論は、専門家に譲るとして、彼の主張を自分流に解釈している皆様の声をご紹介したいと思います。
シンドロームのせいでしょうか、その主張には、“経済成長率が低い=所得の伸びが低いのであればすぐにでも仕事を辞めよう”、“歴史が示すように投資からのリターンが高いのであれば何が何でもお金をかき集めすぐに投資しよう”、“資本への課税が今後進むようであればお金を貯めても意味がない”など、かなり偏った解釈や意見がいくつか聞かれました。しかし、ピケティ氏はこの本で資本への課税についてこそ言及していますが、世界の人々に特に何かの強いメッセージは残したわけではありません。賃金が伸びないから仕事を辞めて資産運用をしなさいとも、増税があるので備えなさいとも。
冒頭にも触れましたが、3世紀にわたる長い年月を掛けて徐々に築き上げられた富の偏重です。だからこそ、“この私の分析をご自身の立場に照らし合わせてご自由に活用し将来に活かしてください”というピケティ氏の声が聞こえそうな気がします。是非、皆さんも新年度を迎える前に色々考えてみてはいかがでしょうか。
「21世紀の資本」
トマ・ピケティ (著), 山形浩生 (翻訳), 守岡桜 (翻訳), 森本正史 (翻訳)